厚生労働省は7月11日、全国の市町村における介護予防・日常生活支援総合事業の実情の把握と充実に向けて「総合事業の充実に向けたワークシート」を新たに作成し、都道府県へ活用を促す事務連絡を通知した。
ワークシートの目的と背景
令和6年8月に、地域支援事業実施要綱及び介護予防・日常生活支援総合事業のガイドラインの全面的な改正が行われた。これを受けて、各市町村においては、第10期介護保険事業計画期間以降を見据えて、改正内容をもとに総合事業の充実に向けた取組を推進していくことが求められている。
このような背景のもと、各市町村が自地域の現状や課題を的確に把握し、総合事業の充実に向けた検討を、簡易かつ効果的に進められるように本ワークシートが作成された。
作成にあたっては、令和6年度に改正された「地域支援事業実施要綱」に示された評価指標の例や、「介護予防・日常生活支援総合事業の充実に向けた検討会」における中間整理の内容を参考とした構成となっている。
同ワークシートは、令和6年度老人保健健康増進等事業の一環として、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が作成を担当した。
総合事業の充実に向けた評価指標
総合事業の評価指標については、改正された実施要綱のなかで参考とする事項として「評価のための前提となる考え方」と「総合事業の充実に向けた評価指標の例」が新たに示された。
「評価のための前提となる考え方」としては、①高齢者の視点と、②保険者の視点(人材・財政)の2つが示されている。
「総合事業の充実に向けた評価指標の例」としては、3つのアプローチ(高齢者の選択肢の拡大、ポピュレーション・アプローチ、ハイリスク・アプローチ)ごとに、プロセス・アウトプット・アウトカムに加え、最終アウトカムが示されている。
ワークシートでは、これらの確認の視点に基づいた現状の把握や、具体的に何が課題か、課題に対して何をすればよいか検討する上で一助となるよう設計されている。
ワークシートの構成と活用法
「総合事業の充実に向けたワークシート」は、総合事業の現状把握とデータ分析等が行えるようExcel形式で構成されており、厚生労働省の通知ではワークシートのイメージが例示されている。
◯ 現状の「見える化」とデータ分析
ワークシートでは、以前の事業報告書のデータを入力することで、サービス利用者数や事業費、地域別の傾向など、地域の実情を「数値」として把握できる。
Excelマクロにより、過去推移や全国平均との比較が自動生成され、どの施策が機能しており、どこに課題があるかを直感的に理解できる。
各市町村は、自地域の状態を定量的に把握し、根拠ある簡易分析を短時間で行うことが可能となる。
◯ 関係者間での議論の深化
ワークシートの出力結果を見るだけでなく、「確認の視点」に沿って、関係者間で議論を深めるための基礎資料として活用することが想定されている。
これにより、地域における具体的な課題を特定し、それに対する必要な取り組みを関係者間で検討することが促進されることが期待されている。
◯ 介護保険事業計画への活用
本ワークシートは、第10期介護保険事業計画期間以降の取り組みを検討するための基礎資料としても機能している。
令和6年度に改正された地域支援事業実施要綱において示された「4つの評価視点」を踏まえて構成されており、それぞれ、①高齢者一人一人の介護予防・社会参加・自立した日常生活の継続の推進状況、②高齢者の地域生活の選択肢の拡大、③地域の産業の活性化(地域づくり)、④総合事業と介護サービスとを一体的に捉えた支援体制の構築が挙げられる。
さらに、将来的に事業費が上限額に収まるかどうかをシミュレーションする機能も備えており、今後の計画策定に向けた実務的な判断材料としても活用が可能となっている。
◯ アクセスと操作性
ワークシートは、厚生労働省の「一斉通知・調査システム」を通じて配布されており、作成元である三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる事業報告書には、使用手順や事例も掲載されている。
Excelに不慣れな担当者でも、既存データを入力するだけで利用可能な設計となっており、誰もが容易に扱える点も特長といえる。
データを使って、地域の現状を正しく見つめ直す
このワークシートは、総合事業の充実に向けた検討を進めるうえでの基礎資料として位置づけられている。しかし、出力されたグラフや数値を眺めるだけで課題の本質が見えるわけではないともいえる。
厚生労働省はワークシートの活用にあたり「各地域において、具体的に何が課題か、課題に対して何をすれば良いかについては、ワークシートの出力結果を見るだけではなく、『確認の視点』などに沿って、関係者間で議論をすることが必要です」と強調している。
ワークシートは、地域の状況を整理するためのツールのひとつといえる。地域ごとにやるべきことは異なるからこそ、出てきた結果を材料に、関係者が現場で話し合って、使い方を工夫していくことも重要といえる。
今後は、同ワークシートが各市町村で広く活用され、出てきた結果から「なぜそうなっているのか」「これから何をするか」を関係者で話し合い、地域の実態に即した総合事業が展開されることが期待されている。
引用・参考
◾️介護保険最新情報 Vol.1403「総合事業の充実に向けたワークシート」について(厚生労働省HP)
◾️介護予防・日常生活支援総合事業(三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社)
◾️介護予防・日常生活支援総合事業における多様なサービス・活動の充実に向けた調査研究事業報告書(PDF)(三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社)
◾️介護予防・日常生活支援総合事業の充実に向けた検討会における議論の中間整理(概要)(厚労省HP)