2025年11月、アジアサルコペニアワーキンググループ(
Asian Working Group for Sarcopenia:AWGS)から、サルコペニアの新たな診断基準が発表されました。
今回の改訂では、対象となる年齢や診断の流れ、筋肉量の測定方法などにいくつかの変更が加えられています。
とはいえ、「そんな変更があったなんて知らなかった…」というセラピストの方も少なくないかもしれません。
今回、大きく変更された点は以下の3つです。
本記事では、これらの改訂内容をわかりやすく解説していきます。
サルコペニア診断基準の主な3つの変更点
2025年11月、アジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)はサルコペニアの診断基準を見直し、現場の実態や国際的な研究に対応した形で改訂を行いました。
文書では、次のように3つの変更点が明記されています。
「第一に、サルコペニアの診断を、検証済みの診断閾値を持つ中年成人(50~64歳)に拡大すること。第二に、診断アルゴリズムを簡素化し、筋肉量と筋力の低下が同時に存在することを要件とし、身体能力をアウトカム指標とすること。第三に、骨格筋が健康的な長寿に不可欠であることを認識し、脳、骨、脂肪組織、免疫系との相互関係を強調する、強化された筋力強化フレームワークを導入することです。」
引用:A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update(一部抜粋し機械翻訳を実施)
今回の改訂について、一般社団法人日本サルコペニア・フレイル学会はホームページにお知らせを掲載し、以下のように伝えています。
2025年11月4日にアジアでの新しいサルコペニアの診断基準(AWGS 2025)の論文が、老年学のトップジャーナルである Nature Aging に公開されました。今後のサルコペニアの診断には、AWGS 2019ではなくAWGS 2025を使用してください。
引用:一般社団法人サルコペニア・フレイル学会 「新しいサルコペニアの診断基準(AWGS 2025)のお知らせ」
これらから、今後のサルコペニア診断では、日本でもAWGS 2025を使うのが標準になります。
過去の基準(AWGS 2019)では最新の評価ができなくなるため、現場でも速やかなアップデートが必要です。
では、セラピスト目線でポイントを整理していきましょう。
50〜64歳にも診断基準が追加
2025年の改訂では、
50〜64歳の中年層に対しても診断基準が設定され、より早い段階からの評価が可能となりました。中年期から筋力や筋肉量の低下が始まることを考えれば、納得のいく変更です。
診断は筋力と筋量、身体機能はアウトカムに
元々は、「低筋量」+「低筋力」もしくは身体機能の低下(例:歩行速度の低下、SPPBスコアの低下)でサルコペニアと診断されていました。
しかし、AWGS 2025では基準が見直され、サルコペニアの診断は「低筋量」+「低筋力」 で診断されるようになります。
一方、身体機能はアウトカムとして活用されていくことになります。これに伴い「重症サルコペニア」という診断カテゴリも廃止されました。
筋量評価に「BMI補正」も使用可能に
これまで筋量の評価は「身長²による補正」が基本でしたが、今回の改訂では「BMIによる補正」も選べるようになりました。
体格差を考慮した診断が可能になったことで、より幅広い対象者に対して正確な診断が行えるようになります。
サルコペニアの診断手順(AWGS 2025)
以下は、AWGS 2025で提案された診断の流れとカットオフ値です。
【サルコペニア診断の流れ】1. スクリーニング 指輪っかテスト、下腿周囲長(男性<34cm、女性<33cm)など
2. 筋力の評価 握力測定(ハンドダイナモメーター)
3. 筋肉量の評価 DXAまたはBIAによる骨格筋量の測定
4. 確定診断 筋力+筋肉量の低下が認められた場合にサルコペニアと診断
参考:一般社団法人サルコペニア・フレイル学会 「新しいサルコペニアの診断基準(AWGS 2025)のお知らせ」
そもそもサルコペニアとは?
サルコペニアとは、加齢や疾患により筋肉量や筋力が低下し、身体機能にも影響が出る状態を指します。
2016年にはサルコペニアが国際疾病分類(ICD-10)に正式に登録され、予防や治療の対象として注目されるようになりました。
また2014年には、アジアの高齢化に対応するためにアジアサルコペニアワーキンググループ(Asian Working Group for Sarcopenia:AWGS)が設立され、アジア人に特化した診断基準の整備が進められています。
なぜ診断基準が変更されたのか?
今回の改訂は、サルコペニアの診断や介入をこれまでよりも早く、そして正確に行うために見直されたと考えられます。
● 「Muscle Health(筋肉の健康)」を維持することが重要だから
→ Muscle Healthに懸念のある(50〜64歳)から筋肉の状態を診断・介入することで、生活機能の低下を防ぐ。
● 体型による過小評価を防ぐため
→ 特にBMIが高い人に対して、筋肉量が少ないにもかかわらず「正常」と判断されてしまうケースを防ぐ。
明日からの実践に向けて
今回のサルコペニア診断基準の改訂では、「健康的な老後を支えるには、筋肉の健康(Muscle Health)が欠かせない」という考え方が、より明確に打ち出されました。
セラピストは、筋力や身体機能の評価・介入に直接関わる専門職だからこそ、こうした診断基準の変化には常にアンテナを張っておく必要があり、現場の臨床で活かすことが求められます。
また、サルコペニアの診断基準は約5年ごとに見直されているため、自分が日々用いている基準や考え方が、最新の流れに沿っているかを定期的に見直すことが望まれます。
論文情報
【掲載誌】Nature Aging
【論文名】A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update
【著者】Liang-Kung Chen, Fei-Yuan Hsiao, Masahiro Akishita, Prasert Assantachai,Wei-Ju Lee, Wee Shiong Lim, Weerasak Muangpaisan, Miji Kim, Reshma Aziz Merchant, Li-Ning Peng, Maw Pin Tan, Chang Won Won, Minoru Yamada, Jean Woo & Hidenori Arai
【DOI】
10.1038/s43587-025-01004-y
引用・参考
■ アジアサルコペニアワーキンググループ(Asian Working Group for Sarcopenia:AWGS)
https://awgs-asia.org/
■ 一般社団法人 サルコペニア・フレイル学会
https://www.jasf.jp/index.html
・ 新しいサルコペニアの診断基準(AWGS 2025)のお知らせ
https://www.jasf.jp/pdf/revision_20251111.pdf