2026年3月、日本循環器学会と日本脳卒中学会は、「脳卒中と循環器病克服 第三次5ヵ年計画」を策定、公表しました。
第三次計画では、人材育成や医療体制の整備に加え、ICTを活用した遠隔リハビリテーションの推進など、リハビリテーション提供体制にも言及されています。
2016年の第一次計画から続く本取り組みは、日本の循環器病対策の方向性を示す重要な政策提言として位置づけられています。
第一次計画から現在までの流れとともに、第三次5ヵ年計画の概要と注目すべきポイントを整理しました。
第三次5ヵ年計画で目指すもの
脳卒中や心臓病をはじめとする循環器病は、日本人の死因の上位を占め続けており、脳卒中にいたっては要介護状態になる原因の第1位でもあります。
少子高齢化が急速に進む日本において、循環器病による社会的・経済的な負担は年々大きくなっています。深刻化する循環器病の現状を受けて、第三次計画が策定されました。
2つの目標を達成するために、人材育成・医療体制・研究開発など幅広い分野の取り組みが示されています。
5つの重点項目
目標を達成するために、第三次五ヵ年計画では以下の5つを重点項目として掲げています。
1. 人材育成
ITリテラシーを持つ人材の育成やタスク・シフトへの対応を強化。「心臓マイスター制度」など新資格制度の導入や、多職種連携・患者ピアサポートの推進も新たに明記
2. 医療体制の充実
急性期から在宅まで段階的な体制を構築。回復期の遠隔リハビリテーション・多職種連携、慢性期の福祉との連携強化が重点課題
3. 登録事業の促進
医療データの標準化とICT活用を推進し、登録データを診療現場へフィードバックする仕組みの整備
4. 予防・国民啓発
疾患の各段階に応じた対策を整理し、啓発資材の統一や普及プラットフォームの整備を推進。心房細動の早期発見・リハビリテーション促進・就労支援・AED普及なども明示
5. 臨床・基礎研究の強化
再生医療やAIなど先端領域を重点化。若手研究者の育成と国際競争力の強化にも注力
なかでも注目したいのが、遠隔リハビリテーションの推進です。
専門職が不足している地域や通院が難しい患者に対しても、ICTを活用することで質の高いリハビリテーションを継続して提供できる体制の構築を目指しています。
一方で、診療報酬について議論にする中医協・総会のなかでは、情報通信機器を用いた心大血管疾患リハビリテーションについて議論が行われましたが、令和8年度診療報酬改定においては見送られるなど、国の政策議論においてはいまだ慎重な状況が続いています。
「脳卒中と循環器病克服5ヵ年計画」とは?
「脳卒中と循環器病克服5ヵ年計画」とは、日本循環器学会と日本脳卒中学会が共同で策定する、国内における脳卒中・循環器病対策の指針です。
両学会が中心となり、関連学会や行政・患者団体とも連携しながら、医療・研究・社会制度にまたがる対策を5年単位で計画・実行しています。
この計画の背景には、2018年12月に成立した「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法(循環器病対策基本法)」があります。
同法は、循環器病対策を国家的課題として位置づけ、政府に対して基本計画の策定を義務づけたものであり、5ヵ年計画はこの基本法をもとに推進されています。
脳卒中と循環器病克服第一次5ヵ年計画
「第一次」の五ヵ年計画は2016年12月に策定され、日本脳卒中学会・日本循環器学会をはじめとする21学会が協力のもと、5つの重点項目に沿って取り組みが進められてきました。
【第一次5ヵ年計画の目標】
● 脳卒中・循環器病による年齢調整死亡率を5年間で5%、10年間で10%減少させる
● 計画期間中の5年間で健康寿命を延伸させる
【第一次5ヵ年計画の主な成果】
● 24時間対応の一次脳卒中センター(PSC)を制度化し、2020年度には984施設が認定
● 脳梗塞急性期患者の99%が、60分以内に血栓溶解療法を受けられる体制を整備
● 心不全療養指導士制度を創設し、約2,000名が認定
● 年齢調整死亡率が脳卒中・心疾患ともに低下した
その結果、第一次五ヵ年計画では、診療体制の整備とデータの蓄積への対応が取り組まれ脳卒中・循環器病対策の基盤の整備が進められました。
第二次5ヵ年計画
第二次五ヵ年計画は2021年に策定され、第一次計画の基盤を踏まえつつ、脳卒中・心不全・急性心筋梗塞などを重要疾病として選定しました。
急性期から在宅医療に至るまで切れ目のない医療体制の構築を目指し、5年間にわたって取り組みが進められました。
【第二次5ヵ年計画の目標】
● 脳卒中・循環器病による年齢調整死亡率を2015年比で10%減少させる
● 計画期間中の5年間で健康寿命をさらに延伸させる
【第二次5ヵ年計画の主な成果】
● 救急搬送体制と専門医療機関との連携が強化され、急性期死亡率が低下した
● 全国規模のデータ集積により、臨床研究の質と量が向上した
● 学校教育や職域での啓発プログラムが拡充され、世代を超えた健康意識の向上が進んだ
一方で、外来心臓リハビリテーションの参加率の低さや、急性期から慢性期・在宅医療への移行がスムーズに進んでいないといった課題も明らかになりました。
そのような、ICTや医療DXの活用も限定的にとどまっているなどといった第二次五ヵ年計画でみえた課題と成果を踏まえて、今回の「第三次五ヵ年計画」が策定されています。
第三次計画で注目される「遠隔リハビリテーション」
これまでの5ヵ年計画を通じて、脳卒中・循環器病対策は進化してきました。
今回の第三次5カ年計画では、リハビリテーションの提供体制にも踏み込んだ内容が記載されており、近年注目される遠隔リハビリテーションについても言及されています。
脳卒中後の片麻痺や失語症に対する遠隔リハビリテーションの普及も今後に期待されるが、それを実現するためには患者側(患者自身もしくはその家族)に機器をセットアップできる経済力や理解力が求められるため、その普及には時間を要するようである。
引用:脳卒中と循環器病克服第三次5ヵ年計画
在宅にいる患者が1人で安全に機器を操作できるか、操作方法を十分に理解できるか、国の支援はあるかなど、遠隔リハビリテーションには課題が山積みです。
第三次五ヵ年計画が掲げる「健康寿命の延伸」に向けて、リハビリテーションの提供体制がどのように整っていくのか、引き続き動向が注目されます。
引用・参考
■ 脳卒中と循環器病克服第三次5ヵ年計画(日本脳卒中学会・日本循環器学会)
■ 脳卒中と循環器病克服 第三次5カ年計画策定のお知らせ (2026〜2030年度)(日本循環器学会)
■ 【ご報告】脳卒中と循環器病克服 第三次5カ年計画 完成のご報告と御礼(日本脳卒中学会)