脳卒中などの障がいを抱えた方が、「自動車の運転を再開」するために必要な法律や支援制度についてご存知でしょうか。
高齢化が進む日本では、高齢者や障がいのある方の「移動の自由」をどう支えるかが大きなテーマになっています。そのため、運転に関わる状態を正しく把握し、医療・家族・行政・教習所などと連携してサポートを進めていくことが大切です。
移動(モビリティ)は、ICF(国際生活機能分類)が示す「活動と参加」において重要とされており、その中でも自動車運転は本人の社会参加を支える重要な「活動」とされています。
通勤、買い物、子どもの送迎など、車が生活の基盤となっている地域もあり、特に地方では運転の可否が外出機会や、生きがい、社会とのつながりにも関係します。
そのような中で「自動車運転の中止」は、単に移動の不便さだけでなく、生活範囲の狭小化に直結します。そして、活動機会の減少や自立性の低下、役割の喪失などその人らしい生活にも影響を及ぼすことも考えられます。
これらから「移動の自由」に対して、リハビリテーション専門職は正しい自動車運転指導の方針や法律、自動車運転の代替案などを理解しておくことはとても大切です。
本記事では、こうした自動車運転にまつわる課題を整理し、法律・支援制度・運転再開(免許再取得)までの流れを整理し、ご紹介します。
運転再開における法律
かつて精神病者、精神薄弱者、てんかん病者、目が見えない者、耳が聞こえない者または口がきけない者等については、「病名」により免許を与えない「絶対的欠格事由」とされていました。
2001年には「道路交通法」が改正され、運転免許の絶対的欠格事由であった「精神病者」「てんかん病者」「知的障害者」「身体障害者」などの表現が削除されました。2002年には、病名ではなく病状が安全運転に影響するかどうかを一人一人個別に判断する「相対的欠格事由」が施行されました。
2002年の「相対的欠格事由」施行により、リハビリテーション専門職が正しく能力を評価することが重要になり、患者さんは病気によって「運転を諦めなくてもいい」社会への兆しが見えました。
運転再開のステップ
運転再開の可否判断
「運転再開」の最終判断は医師ではなく、各都道府県の警察を管理する公安委員会が行います。患者さんが運転の再開を希望する際には、公安委員会が設けている「安全運転相談窓口」へ相談しに行くことが必要です。
特に脳卒中などは道路交通法により、「その他自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断または操作のいずれかにかかる能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する病気」とされているため、安全運転相談窓口に行く必要があります。
また2014年の法改正により、免許取得・更新には一定の病気等の病状に関する「質問票」の提出が義務付けられました。
5つの質問のうち、「一時的にでも意識消失や身体機能障害が生じたことがあるか」など、脳卒中患者にも当てはまる質問が設けられています。
この質問に対し虚偽の申告をした場合は、「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられます。
対象となるのは、急性期病院から直接自宅へ退院する軽症の脳卒中・脳外傷者です。また、回復期リハビリテーション等で長期のリハビリテーションを受けて自宅へ退院する方も含まれます。
公安委員会による「運転可否」の判断材料
公安委員会は、主に「臨時適性検査」と「医師の診断書」の情報から最終的に運転の可否を総合的に判断します。
臨時適性検査は、道路交通法により全ドライバーに必要な能力である視力・聴力・運転能力が基準を満たしているかを確認する検査です。
医師の診断書では、主に3つの医学的問題点を確認しています。
①脳卒中、脳外傷の症状が安定している
②高血圧や糖尿病等の併存疾患が安定している
③症候性てんかんがない、あるいは良好にコントロールされている
また道路交通法では、運転に必要な高次脳機能に当てはまる「認知・予測・判断・操作」のいずれかに影響を及ぼすおそれのある症状をもつ病気について、運転免許の交付を拒否または保留にするとしています。
そのため、作業療法士を始めとするリハビリテーション専門職を含む医療従事者は「身体機能」「視覚機能」「高次脳機能機能」に関して正しく評価をする必要があります。
評価方法として、自動車運転は机上の評価だけでなく、実際の能力判断が必要になるため、ドライビングシュミレーターや実際の自動車運転をした上で評価することが推奨されています。
このように、評価内容は、公安委員会の判断において運転が許可されるかどうかに関わる重要な情報であることがわかります。
自動車運転に必要な身体機能
身体障がいを呈している場合、運転補助装置が適応になる場合が多いとされています。片麻痺の場合は、アクセルとブレーキの改造などにより運転が可能になるケースがあります。
特に、脳卒中・脳外傷後には損傷半球によって後遺症が異なるため注意が必要です。右半球損傷者の場合、運転技能に大切な視空間認知機能への影響が考えられます。半側空間無視の症状がある場合は、「運転を控えるべき」と判断され、改善した後も慎重な判断が必要とされています。
運動機能では「体幹機能の障がいがあって腰かけていることができない」「四肢の全てを失った場合」「または四肢の用を全廃した場合」は、免許効力の停止または取り消しになる可能性があります。
そのため、補助手段を使用するか、使用しない場合も運転操作が可能な身体能力を有することが求められています。
運転再開の最終判断では、可否だけでなく「条件付き免許」という判断もあります。これは、自動車改造などの工夫をしたり、ある一定の条件のもと運転が許可されるものであり、運転再開に向けた大きな可能性ともいえます。
自動車運転には、様々な能力が必要ですが、現在は運転補助装置や自動車改造の技術も発展しており、医療機関における運転再開に向けたリハビリテーションも広がりつつあります。
リハビリテーション専門職として、自動車運転に必要な能力や評価、改造に関する知識を持つことで、患者さんの社会復帰に大きな希望を与えられるかもしれません。
リハビリテーション専門職の支援のあり方
患者さんから運転再開の希望があった場合、初期対応としては患者さんや家族から運転歴・違反歴・免許の更新時期などの基本情報を収集しておくことが必要です。
また大前提として、医学的状態が安定していることや運転ができる身体機能があるかどうかのリハビリテーション評価は欠かせません。
運転能力評価の「ゴールドスタンダード(最も信頼性の高い基準)」は、実際の道路での実車評価です。
私たちリハビリテーション専門職は、指定自動車教習所と連携し、実車評価を依頼することができます。
その際、事前に患者さんの臨床評価の結果(特に高次脳機能障害の特性など)を教習所の指導員と共有し、安全かつ的確な評価が行われるように連携することが重要です。
医学的評価の結果から「運転再開が可能」と判断された場合は、運転に支障がない旨が記載された主治医の診断書を持って、患者さん本人が公安委員会の安全運転相談窓口に提出します。
もし運転再開が困難となった場合は、患者さんと社会の安全を最優先にしつつ、患者さんの気持ちに寄り添った説明が必要です。
例えば運転ができなくても、その後の選択肢として、免許の自主返納と「運転経歴証明書」の取得ができることを提案できます。運転経歴証明書を取得することで、公共交通機関の割引対象になるなど新しい移動手段の確保にもつながります。
また、病気による免許取り消しでも、取り消しから3年以内に回復すれば学科・技能試験が免除され再取得できる制度があります。
再取得できるという将来の可能性を伝え、「回復を目指して取り組む」という前向きな目標設定につなげることが大切です。
引用・参考
■ 脳卒中・脳外傷者の自動車運転指導指針(新興医学出版社HP)
■ 職場で安全運転教育を実施しましょう!(一般財団法人あんしん財団)