令和8年(2026年)の診療報酬改定に向けて、11月14日の中央社会保険医療協議会総会では、リハビリテーション関連の複数の論点が示されました。
本記事では、そのうち「リハビリテーションについて」の議論を中心に解説します。
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早期からの疾患別リハビリの推進
急性期リハビリテーションの提供体制について、発症後早期からのリハビリ開始を推進する観点と、休日のリハビリテーション実施体制の評価の在り方が論点として提示されました。
早期介入を促す新たな加算とデータ上の課題
現行の疾患別リハビリテーション料には、早期リハビリテーション加算や初期加算といった早期介入に対する評価があります。
しかし、いずれも発症日からリハビリテーション開始までの日数要件はありません。
これについて、厚生労働省がDPCデータを分析したところ、14日以内に初期加算等を算定した患者のうち、3日以内に疾患別リハビリテーションの初回介入ができていない患者は36%を占めていることが判明しています。
特に脳卒中(脳梗塞)においては、「入院3日目以降の介入は、退院時の機能転帰に不良な影響を及ぼす可能性がある」と指摘されています。
休日のリハビリ実施を推進
急性期一般病棟において、入院した曜日が金曜日の場合、入院後3日以内にリハビリテーションを開始できた割合が最も低いという実態が示されました。
また、曜日別に見ると、土日祝におけるリハビリ実施割合は平日より低く、半分以下となっています。
このため、より早期の在宅復帰につなげる観点から、入院直後からリハビリテーションを開始して、土日も含めて中断しないようにすることを、急性期リハビリテーション加算等の算定要件として検討すべきとの意見が提示されています。
いずれも、「入院・外来医療等の調査・評価分科会」で議論されてきた内容が、改めて中医協においても示された形となっています。
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疾患別リハビリ料の適正化と質の評価
床上訓練の評価の見直し
今回、厚生労働省は「訓練内容ごとの療法士の負担」について資料を提示しました。
この中では、ベッド上から離床せずに行う訓練(床上リハ)は、歩行訓練やADL動作訓練と比較して、準備や片付け、所要時間、転倒・事故リスクの観点から、療法士の負担が少ないとの考えが示されました。
また、床上リハの実施が多いと想定される「入棟時のFIM運動項目が20点以下かつ要介護4または5の患者(いずれも重度の機能障害が想定される層)」では、平均実施単位数は多かったにもかかわらず、1日3単位(60分)を超えるリハビリを実施しても、単位数増加に伴う明らかな改善が見られなかったことが、厚生労働省よりデータで示されました。
これらから、床上でのリハビリの評価のあり方が論点として掲げられました。
屋外リハビリの単位数上限
社会復帰のために重要とされる施設外でのリハビリテーション(屋外リハビリ)は、現在、入院患者に対して1日3単位(60分)に限り算定可能です。
一方で、急性期病棟、回復期リハビリテーション病棟などでは、屋外等での疾患別リハビリテーションを60分を超えて実施した症例が45%と一定割合を占めている現状が示されています。
この実態を踏まえ、屋外でのリハビリテーションについて、現行の1日3単位の上限の見直しについても意見が示されました。
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運動器リハビリテーション料 「単位数上限」の不整合
令和6年度改定(前回改定)では、回復期リハビリテーション病棟における運動器疾患のリハビリテーションは、1日6単位を超えた実施単位数の増加に伴うADLの明らかな改善が見られなかったことから、算定単位数の上限緩和対象から外されました。
その結果、回復期リハビリテーション病棟では運動器リハビリテーション料の上限は1日6単位とされています。
一方で、急性期病棟に60日以降も入院した場合、早期歩行、ADLの自立等を目的としてリハビリテーション料(Ⅰ)を算定する患者として、1日9単位のリハビリを実施できる現状があります。
結果として、“入院する病棟によって算定可能な単位数が異なる状況” が生じており、この点が課題として指摘されました。
その他のリハビリテーションに係る算定区分の課題
退院時リハビリテーション指導料の対象患者が論点に
退院時リハビリテーション指導料は、退院時に在宅での訓練等について指導を行った場合に算定されます。
算定回数は近年増加傾向にありますが、この指導料を算定した患者のうち、疾患別リハビリテーション料を算定していない患者が33%と一定割合を占めていました。
この点について、総会で示された資料では、分科会において「本来の趣旨である、入院中にリハビリを実施した患者への退院時指導を徹底すべきではないか」「早期のリハビリ開始に繋げる観点から、入院中のリハビリ実施を算定要件とすることも検討すべきではないか」といった意見が整理されています。
一方で、高齢者などにとっては退院後のリハビリを知る貴重な機会でもあることから、要件化には慎重な議論が必要だとする指摘も示されました。
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摂食機能療法における介入内容の明確化
摂食機能療法は、摂食機能障害を有する患者に対して、診療計画書に基づき訓練指導を行った場合に算定されます。
しかし、摂食機能療法を算定している病棟のうち一部の病棟では、介入内容が食事観察や介助にとどまるケースも報告されています。
このような状況に対し、「必要な訓練・指導内容をどのように評価するか」が論点として提示されました。
リンパ浮腫複合的治療料のアクセス課題
リンパ浮腫複合的治療料は、鼠径部、骨盤部、腋窩部のリンパ節郭清を伴う手術後の患者等に対し、複合的治療を実施した場合に算定されます。
しかし、届出機関数、算定回数ともに微増傾向にあるものの非常に少なく、アクセスに課題があるのが状況です。届出施設がゼロである都道府県が7県あるなど、アクセス課題に地域差がある点についても指摘されました。
また、現行の算定要件は重症の場合「1回40分以上」、それ以外の場合「1回20分以上」の治療・訓練を基準としています。
しかし、実際の治療・指導に要している時間とは乖離がある可能性があることも指摘されています。
そのような実態を踏まえ、アクセス困難な地域への対応を含めた評価のあり方が論点として示されました。
リハビリテーションに係る書類作成業務の簡素化
〜現場の書類業務負担、減らすことができるか〜
リハビリテーション関係書類は数が多く非常に煩雑で、重複した書類が多いため、必要な記載を残しつつ簡素化する方法について、一部の書類の統合を含め技術的に検討すべきとの意見が示されています。
計画書作成と説明頻度の乖離・重複
疾患別リハビリテーション料の算定には、医師によるリハビリテーション実施計画書またはリハビリテーション総合実施計画書の作成が必要です。
● リハビリテーション総合計画評価料(多職種共同作成・評価)
機能回復の促進を趣旨とし、患者1人につき1月に1回算定可能
● リハビリテーション実施計画書
質の担保を趣旨とし、患者または家族等への説明と交付は3か月に1回以上
これらの計画書の様式の類似性や、作成頻度と説明頻度の乖離を踏まえて、疾患別リハビリテーションに必要な計画書のあり方について検討が必要とされています。
また、介護保険リハビリへの移行を促す目標設定等支援・管理料の目標設定等支援・管理シートについても、リハビリテーション総合実施計画書と重複する項目が多いことが指摘されています。
次期改定では、業務負担の軽減に向けて、計画書や評価記録の重複の整理が求められています。
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今回の中医協総会では、急性期から回復期、在宅移行を含む一連のリハビリテーション提供体制について、多角的な論点が整理されました。
いずれの論点も、現場の実態データに基づき、早期介入の促進、実施内容の適正化、算定区分の整理、書類業務の効率化といった「質と効率の両立」を大きな方向性としています。
リハビリテーション専門職としては、早期介入体制の整備、屋外訓練の実態、退院時指導の在り方、計画書の作成・説明体制など、自施設の対応状況を改めて点検する契機にもなる内容といえます。
令和8年度診療報酬改定に向けて、今回示された課題がどのように具体化されるか。今後の議論が注視されます。
引用・参考
◾️ 中央社会保険医療協議会 総会(第627回)(厚生労働省HP)
総-2入院について(その5)