6月26日の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」において、退院前訪問指導の強化と高次能機能障害の退院後支援の強化について議論された。
議論の論点として主に以下の2点が取り上げられた。
・退院前訪問指導は文献的に再入院の頻度低下、退院後ADLの向上等の効果が示されているものの、算定回数は伸びておらず、実施率は低い。実施されている施設では、理学療法士、作業療法士をはじめ多職種が関わっている。
・回復期リハビリテーション病棟等に一定の頻度で入院する高次脳機能障害の患者について、退院前の情報提供の不足、医療機関と障害福祉関係機関とのネットワークの希薄さ等から、退院後に適切なサービスに繋がることが困難であるとの調査結果があった。
退院前訪問指導の現状と課題
厚生労働省は、令和5年資料を用いて、退院前訪問指導を実施することは再入院と転倒を減少させ、退院後のADLが向上するというエビデンスを紹介。また、家屋調査を含むフローにより回復期リハビリテーション病棟からの円滑な退院支援を実施している事例を提示した。
退院前訪問指導料は、回復期リハビリテーション病棟では、診療行為ごとに点数を加算する出来高算定ではなく包括評価となっている。
その上で、DPCデータを解析すると、回復期リハビリテーション病棟では包括算定であるものの全入院患者の3〜5%ほどに退院前訪問指導が実施されており、その割合は他の病棟よりも高いことが示された。
一方、各入院料を算定する施設において、退院前訪問指導を実施している病院の割合は14~24%に留まっており、退院前訪問指導の実施状況についてどのように考えるかが議論の俎上に載った。
分科会の委員からは、退院前訪問指導について「多職種が半日ほどの時間と労力をかけて実施する退院前訪問を回復期リハビリテーション病棟の4%〜5%で実施できているため、それに見合うような評価などをさらに見直していけば、実施率も高くなると期待できる」との意見が述べられた。
厚生労働省は、令和6年度の実態調査に回答のあった回復期リハビリテーション病棟のうち、95%以上の病棟で理学療法士、作業療法士が退院前訪問指導に関与していたとのデータを紹介した。
高次能機能障害の後遺症に対する支援体制の強化
厚生労働省は、退院前訪問指導に関する議論のなかで、高次脳機能障害の退院支援に係る課題についても説明した。
高次脳機能障害患者への訓練については、医療機関だけでなく、介護や障害福祉サービスと連携した長期間の介入が必要とされている。
令和6年度の報告書では、回復期リハビリテーション病棟における高次脳機能障がいの患者数は一定数存在しており、全国に123箇所設置されている「高次脳機能障害支援拠点」の相談件数は9万4000件ほどと近年横ばいであることが示された。
高次脳機能障害者への支援に係る11の関係機関へのヒアリング調査においては、退院後の支援について以下の指摘が報告された。
①入院医療機関における高次脳機能障がいの診断や説明が不十分な場合がある
②支援に係る情報提供の不足
③高齢者が多い病棟における障害福祉関連機関とのネットワークの希薄さ
④退院時に相談窓口の情報を伝えることの重要性等について
委員からは「脳卒中による高次脳機能障がいの後遺症において、高齢者であれば認知症と同じようなケア体制や介護サービスでも対応可能であるが、年齢が若い患者でクモ膜下出血などによる高次脳機能障害の場合は、患者さん自身、そしてご家族にも後遺症を理解してもらうことが重要」と意見が挙がった。
さらに社会復帰に向けて、「会社やその周囲の方々に後遺症を理解していただく難しさを指摘し、公的機関の相談窓口や支援拠点でのサービス提供に加え、就労支援に関しては主治医・かかりつけ医・産業医との密な連携をしていく必要性がある」と述べた。
退院前訪問指導や高次脳機能障害への支援は、入院から地域生活への移行を円滑にするうえで、重要な役割を担っている。入院医療と地域支援の切れ目のない連携は、当事者とその家族の生活を支える大切な社会的な基盤ともいえる。
今回の分科会で示された課題や現場の声を受け止め、今後の制度設計において、実効性のある支援体制の構築と評価の見直しが進められることが期待される。
引用・参考
◾️令和7年度第5回 入院・外来医療等の調査・評価分科会(厚生労働省HP)
資料 入ー1(PDF)
■ 回復期リハビリテーション病棟入院料の評価の在り方等を議論(PT-OT-ST.NET)