厚生労働省は、深刻な人材不足と業務の複雑化が進む介護支援専門員(ケアマネジャー)の業務体制および資格制度について、抜本的な見直し案を社会保障審議会介護保険部会で提案しました。
この改革は、「新たな担い手の確保(入口の拡大)」と「現任者の定着(負担軽減)」を両立させ、増大するケアマネジメントの需要に対応することを目的としています。
ケアマネジャーは、要介護者の自立した日常生活を支える上で重要な役割を担う専門職ですが、従事者数は横ばいまたは減少傾向にあります。
今後10年以内に担い手が急激に減少することが見込まれており、実効性のある人材確保策の実現が急務となっています。
資格取得要件の緩和、実務経験年数と対象資格を拡大
ケアマネジャーについて、地域医療・介護連携の強化に資する多様な専門職の参入を促すため、受験資格が大幅に緩和される方向で検討が進められています。
現在、ケアマネジャーになるための試験を受けるには、法定資格に基づく業務等に通算して5年以上従事することが必要とされています。
今回、厚生労働省は、介護福祉士の実務経験ルートを踏まえ「実務経験年数について5年(現行)から3年に見直しすることとしてはどうか」という具体的な緩和案を論点として提示しました。
さらに、保健・医療・福祉分野における専門性の多様化を考慮し、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士、公認心理師といった法定資格を持つ者について、新たに受験資格として認めることも検討されています。
法定研修の見直しと更新制の廃止による離職防止を検討
ケアマネジャーは、受講者の経済的・時間的負担が大きいことが長年の課題となっています。
現場からは、現行の厳格な更新研修制度がケアマネジャーを引退するきっかけにもなっているとの声が挙がっていました。
厚生労働省は、この状況を改善するため、更新研修の在り方を抜本的に見直すことを提案しました。
専門職としての定期的な知識習得は引き続き求められますが、更新研修の修了を要件とした介護支援専門員証の有効期間の更新の仕組み自体を廃止する方針です。これにより、研修を受講しなかったことで直ちに資格を失い、業務ができなくなるといった取扱いがなくなります。
また、研修の時間数については、利用者への支援に充てる時間の増加につなげる観点から、講義部分を可能な限り縮減することが検討されています。研修を一定期間(例えば5年間)に分割して受講するなど、柔軟な受講が行える環境整備を進める方針です。
他にも、ケアマネジャーの業務改善や主任ケアマネジャーの役割の明確化に関する議論も提示されました。
制度変更に伴うリハビリテーション専門職への影響
これらの制度変更が現実となった場合、リハビリテーション専門職へはどのような影響があるのでしょうか。
現状リハビリテーション専門職におけるケアマネの数は、第1回〜27回のケアマネジャー資格の合格者数によると、理学療法士で約2万人、作業療法士で約1万、言語聴覚士で約1500人と推計されています。
更新制の廃止によって、リハビリテーション専門職も資格を維持しやすくなり、医療と介護の両分野を理解する多職種人材の活躍が期待されています。
また、実務経験3年で受験可能となれば、若手のリハビリ専門職が早期からケアマネジメントに参画することも期待されます。
一方で、「資格を取っても報酬が上がるわけではない」「書類や会議が増えるだけで忙しくなる」といった現場の声も少なくありません。
制度の緩和だけでは人材定着やモチベーションの向上にはつながりにくく、処遇や業務環境の改善と一体的に進めることが求められます。
ケアマネ制度の改革は、介護現場にとどまらず、医療・リハビリ・地域包括ケア全体のあり方にも影響を及ぼす可能性があります。
ケアマネジャーの取得要件見直しによる「入口の拡大」と「現場の持続性」をどう両立させるのか、今後の制度運用も注目されます。
引用・参考
◾️ 社会保障審議会介護保険部会(第127回)
資料2 地域包括ケアシステムの深化(相談支援の在り方)(厚生労働省HP)
◾️ 第27回介護支援専門員実務研修受講試験の実施状況について(厚生労働省HP)