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2025.07.23

「下肢切断のリハビリ診療指針」を初策定【日本リハビリテーション医学会 】



公益社団法人日本リハビリテーション医学会は、「下肢切断のリハビリテーション診療指針」を策定し、2025年5月に同学会ホームページで公開した。

本指針は、リハビリテーション科医のみならず、整形外科医、義肢装具士、理学療法士、作業療法士など多職種が活用できるよう構成されており、下肢切断者のQOL(生活の質)向上に資する実践的な指針として作成されている。


施設ごとのばらつきと教育の課題

下肢切断後のリハビリテーションは、機能回復と社会復帰において極めて重要なプロセスとして位置付けられている。

しかし、これまで全国で統一された診療指針が存在しておらず、各施設が独自の方針で対応している現状があった。このことは診療の質のばらつきや、専門医育成における症例経験の格差を生む一因として課題に挙げられていた。

日本リハビリテーション医学会専門医会は、こうした実情を受けて「切断・義肢SIG(Special Interest Group)」を設立。継続的な研修会を通じて知識の共有と教育体制の整備を進めてきた。

そして2025年5月、診療内容の標準化と教育の質の向上を目的として、統一的な指針『下肢切断のリハビリテーション診療指針』が策定された。


策定のプロセス─専門性と実践性の両立へ

指針の策定は、日本リハビリテーション医学会の診療ガイドライン委員会の下部組織「下肢切断のリハビリテーション診療指針策定委員会」が担当。下肢切断に関するリハビリテーション診療の実績と知見を有する専門医によって構成された。

策定作業は2022年にスタートし、章構成、記述方針、エビデンスの取り扱い、パブリックコメントの反映など、多角的な視点から検討が重ねられた。

科学的根拠が不十分な領域については、委員会内の合意に基づいて実践的な判断が加えられている。

作成にあたってはパブリックコメントも積極的に活用され、現場の声を取り入れた形で内容の精緻化が図られた。


疫学的な背景、歩行再獲得への実践的視点

本指針では、近年の下肢切断における主因が外傷から末梢動脈疾患(PAD)や糖尿病性足疾患などの血管障害へと変化しているという疫学的な背景を踏まえ、現場で実践可能なアプローチが整理されている。

歩行再獲得に影響する因子に関しては詳細な記述がなされており、義足リハビリテーションの成否を左右する観点として以下が示されている。

● 切断レベル(下腿・大腿など)
● 原因疾患(PAD、糖尿病性足病変、外傷など)
● 年齢
● 身体機能(筋力、バランス能力、移動能力など)
● 心理社会的因子(うつ、不安、幻肢痛、教育・雇用状況など)
● 専門的なリハビリテーション環境へのアクセス

これらを考慮したうえで、義足装着の可否だけでなく、屋内移動や移乗動作、日常生活動作の自立といった多様なリハビリテーション目標を設定することの重要性が強調されている。

診療の標準化のみならず、現場の柔軟な判断を支える内容となっており、現場のセラピストにとっても重要な指針といえる。


指針を活用し、質の高いリハビリテーション診療へ

本指針は、2025年5月時点における最新の知見をもとに構成されたものであり、医療技術や社会環境の変化に応じて、今後改訂が行われることが見込まれる。

同学会は、利用にあたっての注意として「今後医療の進歩に伴い、診療指針も変更されていくことが予想されます。本印刷物により統一された質の高い下肢切断のリハビリテーション診療が行われることを期待します」としている。

今後、指針の普及とともに、診療の質の均一化が進み、下肢切断者がより適切な支援を受けられる社会の実現が期待される。

「下肢切断のリハビリテーション診療指針」については、同学会ホームページより閲覧、ダウンロードが可能となっている。


引用・参考
◾️下肢切断のリハビリテーション診療指針(HP)
https://www.jarm.or.jp/lla/index.html

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切断 義足 日本リハビリテーション医学会 教育
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