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2025.10.14

【診療報酬改定】病棟における療法士の役割を議論 ― ADL維持・向上をどう支えるか



10月1日に開催された中央社会保険医療協議会総会(中医協)では、入院・外来医療等の調査・評価分科会の報告が示されました。報告では、リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算を中心に、病棟での多職種連携によるADL維持・向上支援の実態と成果が分析され、療法士が病棟で担う新たな役割について議論が交わされました。

これまで入院・外来医療等の調査・評価分科会では、「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算」(以下、体制加算)や、新設された「地域包括医療病棟」における療法士の配置、業務実態、アウトカムに関する詳細な分析結果が示され、活発な議論が展開されました。

また分科会では、病棟での多職種連携による日常生活動作(ADL)の維持・向上は、今後の医療提供体制を支える上で重要性が高まっていること等が議論されてきました。

こうした背景を踏まえ、報告書の「病棟における看護業務とタスクシェア」に関する議論では、「療法士が病棟でどのような業務やケアを担いうるのか、より詳細に検討すべき」との意見が出され、今後の制度設計に向けた重要な視点として位置づけられました。




体制加算における療法士の配置と成果

リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算では、急性期における患者のADL維持・改善を目的に、病棟へ専従の常勤療法士を2名以上配置することを求めています。

入院患者全員に対しては、原則として入棟後48時間以内にADL・栄養・口腔の評価を行い、その結果に基づいて計画を作成し、多職種による介入を実施することが要件とされています。

DPCデータを用いた分析によれば、体制加算を算定している病棟では、入院患者のうち約9割が3日目までにリハビリを開始しており、非算定病棟と比べて早期介入が徹底されていることが明らかとなりました。



また、休日のリハビリ提供量については「土日祝日の提供単位数を平日の8割以上」とする厳しい基準が課されていますが、算定病棟では休日の提供量が平日の86.5%に達し、非算定病棟の34.1%を大きく上回っています。

さらにADLの改善度に関しても、体制加算を算定している患者群は非算定群に比べて改善率が高い結果が示されました。

「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算」の算定群には要介護度が高く、ADL低下リスクを抱える高齢患者が多いにもかかわらず改善が確認されており、多職種による早期・集中的な介入の有効性を裏付けるデータといえます。




病棟における療法士の役割拡大

病棟に配置された療法士は、従来の疾患別リハビリテーションにとどまらず、疾患別リハの対象外となる患者に対してもADL維持・向上を目的とした指導を行うことが求められています。

調査結果によると、同体制加算を算定している急性期病棟では「食事支援」「離床の促し」「嚥下状態の評価」といった生活機能の回復に直結する支援への療法士の関与が、非算定病棟に比べて高い割合で行われていました。



さらに新設された地域包括医療病棟では、「排泄支援」や「体位交換」などの業務での関与割合が、従来の地域包括ケア病棟を上回る傾向にあることも示されています。

こうした結果は、病棟配置された療法士がADLの専門的評価に基づいて生活機能の回復を促す役割を担っていることを示していると考えられます。ただし、「リハビリテーション」と「生活介助」の境界線をどのように定義するかは議論が続いているのが現状です。

検討会では、トイレ場面での短時間介入は、生活支援と解釈される可能性があるため、科学的な検証を通じてリハビリテーションとしての効果を明確にする必要性が指摘されました。また、短時間介入であっても記録に要する時間が長くなる場合があり、記録負担の軽減も課題とされています。




今後の検討課題

分科会では、今後の検討の方向性として、体制加算の休日リハビリテーション提供要件が「平日の8割以上」という水準で妥当かどうか、再評価が必要であるとの意見が示されました。

さらに、病棟でのADL維持・向上を目的とした介入が「生活介助の延長」とみなされることなく、リハビリとして正しく位置付けられるよう、今後は科学的な検証を進める方針となっています。



出席した委員からは、「看護業務のタスクシェア・シフトに関する資料を見ると、セラピスト(PT・OT・ST)の活躍が目立つ印象がある。多職種によるタスクシェア・シフトの観点からもリハビリセラピストの可能性は大きい。今後、訪問リハビリの需要増加によって人材が流れる懸念はあるものの、病棟に配置し看護師と共同でケアを担うフィールドは十分に広がり得る。そうした視点から、どのようなケアを共同で担えるのか、さらに検討を進めていただきたい」などの意見が挙がりました。

病棟におけるリハビリテーション専門職は、ADL改善、早期離床、摂食嚥下支援など、急性期から地域包括ケアに至るまで多様な場面で重要な役割を担っています。

今後は、その専門性が最大限に発揮される業務環境の整備とともに、活動成果を正当に評価する仕組みの構築について、どのように議論が進むのか、動向が注視されます。

引用・参考
中央社会保険医療協議会 総会(第618回)(厚生労働省)
  総-1入院・外来医療等の調査・評価分科会における検討結果(PDF)
令和7年度第11回入院・外来医療等の調査・評価分科会(厚生労働省)
  入ー3(PDF)

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