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2025.11.14

【診療報酬改定】「人員配置の適正化を徹底すべき、アウトカム評価へ重心を」財務省が改革案を提示



財務省は11日、財政制度等審議会(財政審)にて「社会保障改革」に関する資料を提示しました。医療の提供体制について持続可能性の確保が急務とされるなか、「アウトカム評価へ重心を」などといった抜本的な改革案が示されています。

財務省の提言は、医療・介護の持続可能性確保の名のもとに、「効率化」と「アウトカム重視」という構造改革を提案しており、その波はリハビリテーションの現場にも及んでいます。

その影響は、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)の働き方や評価体系を根底から見直す契機にもなりつつあります。

PT・OT・STの視点から、今回の財務省の提言が現場に与える影響について、特に医療分野に焦点を当てて深く掘り下げます。

関連記事:前回の財政審に関してはこちら

【診療報酬改定】財政審が「改革の方向性(案)」を提示、「病院への重点的な支援と診療所の適正化」

2025.11.06


医療提供の効率化、生産性向上と人員配置の「適正化」の波

財務省は、日本の医療提供体制を可能な限り効率化することが喫緊の課題であるとの考えを示しました。

医療・介護従事者の価値を最大化し、ICTやAIを日常的に活用することで高い生産性を発揮できる環境の醸成が理想像として描かれています。

処遇改善とデータに基づく評価

2026年度の診療報酬改定では、医療現場で働く幅広い方々の着実な賃上げが不可欠とされており、職種ごとにデータに基づき対応方策を検討する必要があると強調されています。

PT、OT、STを含む医療関係職種(看護師・准看護師を除く)の2024年の平均賃金(月収換算)は34.1万円であり、看護師(41.6万円)や全産業平均(38.6万円)を大きく下回る水準にあります。

今後の処遇改善の議論は、これらのデータを基に進められると考えられます。




ストラクチャー評価からの脱却と回復期への影響

最も重要な論点の一つが、医療の質の評価を「ストラクチャー評価(人員配置数など)」から「アウトカム評価」へと重心を移していくことです。

現状の診療報酬体系は、手厚い人員配置をインセンティブ化するストラクチャー評価(常勤や専従を条件とする加算が多い)が基礎となっています。

財務省は、このようなストラクチャー評価(人員配置などの評価)が、少ない人手で質の高い医療を提供しようとする努力を阻害している可能性があると指摘しました。

診療報酬上の基準は、「実質配置」を求めるものであり、常時一定の職員が配置されることが基本となっている。リハビリ職員等についても同様で、常勤や専従を条件とする加算が多く設定されている。

人手不足が深刻化し、職員の賃上げの必要性が高まる中、ストラクチャー評価によって手厚い人員配置がインセンティブ付けされていることは、できるだけ少ない人手で質の高い医療を提供しようとする努力を阻害しているおそれ。今後の医療の質の評価のあり方として、アウトカム評価に重心を移していくことと併せ、配置基準の見直しを検討していくべき。さらに、出来高払いから包括払いへと、報酬体系を見直していくことも必要ではないか。

引用:財政制度等審議会 財政制度分科会(令和7年11月11日開催)


それらを鑑みて、財務省は改革の方向性(案)として「アウトカム評価の導入・拡充と併せ、配置基準の緩和や柔軟化を図るとともに、診療報酬上の評価の包括化を進めていくべき」との考えを示しました。


回復期病棟のリハビリ専門職員数、配置基準の2倍超え

PT、OT、STについては、回復期リハビリテーション病棟の配置状況について、基準上の必要数を超えてリハビリテーション専門職が配置されている施設が多い状況にあることをデータで示しました。

40床あたりのリハビリ専門職員数で比較すると、急性期一般入院料1ではわずか1.5名である一方、回復期リハビリテーション病棟では平均して16名程度と、およそ10倍の差があることが報告されました。

また、回復期リハビリテーション病棟の配置基準は「1病棟あたり理学療法士3名以上、作業療法士2名以上、言語聴覚士1名以上」とされているのに対し、実際には平均16名程度が配置されており、これは配置基準上の2倍以上に相当します。



この点に関して、財務省は「配置基準の見直し」と「アウトカム評価への移行」を提言しています。

医療提供の効率化 ③人員配置の適正化

地域包括ケア病棟や回復期リハ、療養病棟については、個々の病院で事情が異なるとは思われるものの、配置基準を超える人員が配置されている状況にある施設も多いと見られることから、人員配置の適正化余地が十分に存在すると考えられる。

◆ 配置基準と職員数の関係
✔︎40床あたり看護職員数をみると、病院によっては、配置基準を超えて加配していることが伺える。
✔︎また、回復期リハビリテーション病棟入院料については、リハビリ専門職を配置基準上の必要数を超えて加配し、全職員数で急性期一般入院料1を上回っている。

【改革の方向性】(案)
算定している入院料を、その病院が果たしている機能の実態に沿ったものへと見直すとともに、現状の入院料の配置基準上の必要数を超えて専門職を配置している病には、人員配置の適正化を徹底すべき。

引用:財政制度等審議会 財政制度分科会(令和7年11月11日開催)


これらの見直しが行われると、人員数ではなく、リハビリテーションの結果(例:ADL改善、在宅復帰率など)によって医療機関や専門職が評価される要素が、より強く求められるようになることも予想されます。


病院機能の再編とリハビリテーション専門職の関わり

また資料では、急性期病院の経常利益率が低い一方で、回復期・慢性期の病院は黒字である現状が示されました。

今後は、高度急性期・急性期を中心とする病院への対応に重点化しつつ、診療所への診療報酬は適正化すべきとの提言も、財務省から示されています。

さらに、新たな地域医療構想においては、従来の「回復期機能」に「高齢者等の急性期患者への医療提供機能」が追加され、「包括期機能」へと名称が変わる見通しです。

これは、PT・OT・STが急性期後の高齢者の複雑なニーズに対応する役割がより一層重要になる可能性を示しています。




専門職の役割拡大、タスクシフト・シェアの推進

今回、財務省の資料では、医師の働き方改革が喫緊の課題となるなか、看護師やリハビリテーション専門職に対するタスクシフト・シェアを早急に進める必要性についても言及されました。

これはPT・OT・STの業務範囲が拡大するチャンスであり、専門性を示す重要な機会となります。

リハビリテーション専門職へ移管される具体的な業務の例として、以下の事項が挙げられています。

<業務の例>

● リハビリテーションに関する各種書類の記載・説明・書類交付
● 【OT】作業療法を実施するにあたっての運動、感覚、高次脳機能、ADL等の評価
● 【ST】侵襲性を伴わない嚥下検査
● 【ST】嚥下訓練・摂食機能療法における患者の嚥下状態等に応じた食物形態等の選択
● 【ST】高次脳機能障害、失語症、言語発達障害、発達障害等の評価に必要な臨床心理・神経心理学検査種目の実施

これらの業務移管は、医師の負担を軽減し、PT・OT・STがより専門的な役割を担うことで、医療サービスの効率化と質の向上に貢献することが期待されています。




リハ専門職に求められる「専門性の発揮」

今回の財務省の提言は、医療・介護の持続可能性のために、リハビリテーション分野の専門職に対する評価の基準を大きく転換させる可能性を示しました。

これまでの制度では、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門職を一定数配置することで報酬が評価される「ストラクチャー評価」が中心でした。

しかし今回の提言では、実際の身体機能や日常生活動作の改善など、具体的な成果に基づいて評価する「アウトカム評価」への移行が明確に打ち出されています。

データに基づいた治療効果の可視化と、限られた医療資源の中で専門性を最大限に発揮することが実際に求められるのか。今後の議論の行く末と、2026年度診療報酬改定への影響が注目されます。

引用・参考
財政制度等審議会 財政制度分科会(令和7年11月11日開催)(財務省HP)
 資料3 社会保障②

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