中央社会保険医療協議会・総会(第633回)が12月5日に開催され、医療従事者の賃上げや、心臓リハビリテーション料の対象基準の見直し等について議論されました。
本記事では、医療機関における賃上げの実態、ベースアップ評価料の仕組みと届出の課題、慢性心不全の再入院予防に向けた議論の内容などを整理します。
ベースアップ評価料とは?目的と仕組み
ベースアップ評価料は、医療従事者の賃上げを目的とする評価料として、2024年度の診療報酬改定で新設されました。
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● ベースアップ評価料の目的
・ 医療職の賃上げ(約2.5~3%)を確実に実施する
・ 人材確保と職場環境改善
・ 医療機関の賃金引き上げを国として後押しする仕組み
● 入院ベースアップ評価料
・ 病棟単位で算定
・ 多職種が対象
・ 賃上げ実績の明確化が必須
● 外来・在宅ベースアップ評価料
・ 初診・再診時に上乗せ
・ 外来・在宅職員の賃上げを支援
・ 小規模医療機関でも取り組みやすい仕組み
賃上げ額の「精緻な反映」と「事務負担軽減」ー制度に潜むトレードオフ
ベースアップ評価料は、賃上げ額を診療報酬にどう反映するかという「精緻さ」と、現場の負担をどう抑えるかという「簡素化」の視点があり、これらはトレードオフの関係にあります。
今回の中医協・総会では、「賃金改善を正確に評価しようとすると届出や計算が煩雑になり、逆に簡素化すると補填額にばらつきが生じる構造がある」ことが、厚生労働省より示されました。
総会では、医療機関側から「複雑なベースアップ評価料は現場負担が大きい」「基本診療料の引き上げで対応すべき」といった意見が相次ぎました。
一方、保険者側からは「賃上げが確実に職員へ届く仕組み」を求め、透明性の確保を重視する意見も示されています。
過去に厚生労働省が行った調査でも、届出を行っていない理由のトップは「届出が煩雑なため」でした。
次期改定に向けて、これらの視点を踏まえながら「賃上げ」に関する制度設計をどのように整理するかが最大の論点となっています。
今後の制度改善に向けて「制度の簡素化」が重要
このような背景を踏まえて、次期改定では届出の簡素化が重要な課題として共有されています。
書類の削減や電子化を進めることで、事務負担を軽減し、とくに小規模医療機関でも制度を活用しやすくすることが求められています。
また、制度そのものの整理や統合も検討の課題となっています。現在の「ベースアップ評価料」は、入院と外来で別々の枠組みとなっていますが、これを見直し、より分かりやすい制度設計へと再構築していくことが議論されています。
さらに、賃上げが確実に現場の職員に届く仕組みを維持・強化することも欠かせません。
定期的なフォローアップを行い、運用の透明性を高めることで、制度の信頼性を確保していくことが期待されています。
慢性心不全の再入院予防に向けて、心臓リハビリテーションの議論も進行
中医協では技術的事項として、慢性心不全患者の再入院を防ぐための心臓リハビリテーションの体制について、見直しの議論が行われています。
慢性心不全の患者は、再入院率が高く、退院後の外来・在宅リハビリテーションが十分に提供されていないことが課題とされてきました。
今回の議論では、多職種介入による心疾患イベントの抑制効果に関するデータが示されるなど、慢性心不全患者の診療連携の必要性が俎上に載りました。
また、心臓リハビリテーション料の対象基準についても、現在の算定範囲が実態に合っていないという意見もあり、再入院リスクの高い患者が適切に心臓リハビリテーションを受けられるよう、対象疾患の拡大や要件緩和が検討の課題として挙げられています。
技術的事項に係る論点
(心大血管疾患リハビリテーション料における慢性心不全患者の基準について)
○ 心不全の生化学的診断基準の変化を踏まえ、心大血管疾患リハビリテーション料における慢性心不全の対象患者に係る基準を変更することについて、どのように考えるか。
引用:中医協・総会(第633回). 総-3個別事項について(その14)技術的事項
今回の総会では、賃上げの評価方法や届出手続きの簡素化に向けた課題、そして心不全リハビリテーションの提供体制や対象基準の見直しといった論点が整理されました。
今後は、これらの議論を踏まえ、次期診療報酬改定に向けた具体的な制度設計が進められていく見通しです。
引用・参考
◾️ 中央社会保険医療協議会 総会(第633回)議事次第(厚生労働省HP)
総-4賃上げについて(その1)
総-3個別事項について(その14)技術的事項