日本循環器学会と日本糖尿病学会は、「糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント」の改訂版をまとめ、2026年版として公表しました。2020年版以来、6年ぶりに改訂されました。
糖尿病患者では、血糖管理だけでなく、冠動脈疾患、心不全、腎機能低下などを含めた包括的な管理が重要となっています。今回の改訂では、心臓・腎臓・代謝を一体的にとらえる「CKM症候群」の概念が導入されました。
また、運動耐容能の評価に用いるDASIスコアが新たに掲載されており、心臓リハビリテーションや糖尿病患者の運動療法に関わるリハビリテーション専門職にとって確認しておきたい内容となっています。
本記事では、2020年版との比較を中心に、今回の改訂で何が変わったのかを整理します。
※「ステートメント」は、複数の診療科にまたがる領域などで、専門家が現時点の見解を合意としてまとめた文書です。
なぜ今、改訂されたのか ─ 「CKM症候群」という新しい疾患概念
今回の改訂で大きく変わった点のひとつは、糖尿病と循環器病の関係を一体的にとらえる視点です。
2020年版では「糖尿病と循環器病は密接に関連する」という枠組みで記述されていました。2026年版では、両疾患を「心血管・代謝連関疾患」として統合的に理解する視点がより前面に出されました。
さらに、2023年に米国心臓協会(AHA)が提唱した「心・腎・代謝(cardiovascular-kidney-metabolic:CKM)症候群」という概念が新たに導入されました。
これは、心臓・腎臓・代謝が相互に影響し合い、悪循環を形成する病態を一体的に管理しようとする考え方です。
糖尿病患者への運動指導を、単に「血糖改善のための介入」とするのではなく、心血管イベント予防、心不全、腎機能低下への配慮、健康寿命やQOLの維持・向上を含めた支援として考える必要性が高まっているといえます。
運動療法・心臓リハビリテーションに関わる主な変更点
今回の改訂では、糖尿病治療薬、血圧・脂質管理、CKD、心房細動、紹介(連携)基準など、幅広い領域について、初版以降に蓄積されたエビデンスを踏まえた内容が整理されています。
その中で、リハビリテーションに関わる点としては、運動療法の推奨量や種類そのものは2020年版から大きな変更はありません。
有酸素運動については、中強度の運動を週150分以上、週3回以上、連続して2日以上休まないことが推奨されています。レジスタンス運動についても、週2〜3日、連続しない日程で、主要筋群を含む8〜10種類の運動を、1セット10〜15回から開始という基本的な考え方は維持されています。
また、「30分に1度は座位を中断し、軽い活動を行う」という生活活動の推奨も引き続き示されています。心臓リハビリテーションに関する内容は、運動療法全体の中で二次予防として位置づけられており、基本的な構造は2020年版から維持されています。
一方で、2026年版では、参照ガイドラインの更新、急性冠症候群に対する標準プログラムへの言及、DASIスコアの新規掲載など、実践上確認しておきたい変更が加えられています。
今回の改訂は、運動療法の推奨量そのものを大きく変えるものではなく、糖尿病患者を「心臓・腎臓・代謝が相互に影響する患者」として捉え直し、そのうえで運動耐容能をより客観的に把握する視点を補強したものとなっています。
運動耐容能をより客観的に評価するための質問票“DASIスコア”
2026年版の実践的な追加事項のひとつが、DASI(Duke Activity Status Index)スコアの掲載です。
DASIは12項目の自己記入式質問票で、身の回りの動作、歩行、階段昇降、家事、庭仕事、性生活、スポーツなど、日常生活上の活動が可能かどうかを点数化します。
DASIスコアは、最大酸素消費量と有意に相関することが示されており、以下の換算式でMETs(代謝当量)に変換できます。
METs =(DASIスコア × 0.43 + 9.6)÷ 3.5
ステートメントでは、患者の自己申告をもとに医師が主観的に運動耐容能を判断する場合、検者間のばらつきが大きく、運動耐容能が過小評価されやすいことから、DASIが開発されたと説明されています。
その文脈で、DASIは、運動耐容能をより客観的に評価するための質問票として紹介されています。
心肺運動負荷試験(CPX)が常に実施できるとは限らない現場では、患者の日常生活上の活動能力から運動耐容能を把握する際に、DASIが補助的な指標として参考になる可能性があります。
心臓リハビリテーションや糖尿病患者への運動処方に関わるリハビリテーション専門職にとっても、確認しておきたい評価指標といえます。
糖尿病×循環器病を一体的にみる流れへ
今回の改訂では、「CKM症候群」という新たな概念のもと、糖尿病患者を心臓・腎臓・代謝が複合した病態としてとらえる視点が示されました。
運動療法・心臓リハビリテーションの推奨内容は、2020年版を基本的に踏襲しています。一方で、参照ガイドラインの更新、DASIスコアの新規掲載、高齢者向けの具体的な運動例の追加など、臨床で活用しやすい情報も追加されています。
リハビリテーション専門職にとっては、糖尿病患者への運動指導を、血糖改善だけでなく、心血管疾患の予防、心不全・腎機能への配慮、健康寿命やQOLの維持・向上を含めて考えることが、今後さらに重要になると考えられます。
本記事で取り上げたのは、ステートメントの一部です。全文では、診断、血圧管理、脂質管理、CKD管理、糖尿病治療薬の選択、心房細動治療、専門医への紹介基準など、幅広い内容が整理されています。詳細は全文もあわせてご参照ください。
引用・参考資料
◾️日本循環器学会・日本糖尿病学会 合同委員会(2026):糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント(改訂版)
◾️日本循環器学会・日本糖尿病学会 合同委員会(2020):糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント(初版)
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