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2024.11.26

運動を主体とした多因子介入により認知機能が向上【神戸大学ら】

神戸大学らによる研究グループは、運動・認知機能トレーニング・栄養管理・高血圧や糖尿病などの生活習慣病の管理からなる多因子介入プログラムを18ヶ月行うことにより、高齢者の認知機能が向上することを報告した。この研究は、2024年9月4日に世界アルツハイマー協会の国際学術誌「Alzheimer's & Dementia」に掲載された。

本研究は、神戸大学、神戸学院大学らの研究グループとSOMPOケア株式会社(以下、SOMPOケア)が協力のもと、兵庫県丹波市において認知症予防を目指した多因子介入によるランダム化比較研究として実施された。

対象者は、兵庫県丹波市に在住し、糖尿病または高血圧、あるいはその両方を有する65歳から85歳の認知症予備軍に該当する高齢者に呼びかけを実施し、研究への参加の同意を取得。

研究参加者は、多因子介入プログラム(運動、認知機能トレーニング、栄養管理、生活習慣病の管理)を18ヶ月間にわたって受ける群(介入群)と、健康に関するパンフレット等を受け取るものの18か月後まではプログラム実施を待機する群(対照群)の2群にランダムに振り分けられた。

多因子介入プログラム内容・生活習慣病管理は、臨床診療ガイドラインに沿って、保健師や栄養士などの医療専門家である指導者によって管理を行った。

・運動は、有酸素運動50分、コグニサイズ運動20分(国立長寿医療研究センターが開発した運動と認知課題を組み合わせた運動)、筋力トレーニング20分、集団体操20分、合計90分の運動プログラムを週1回18ヵ月間受けた。運動のレベルは、理学療法士と作業療法士により心拍数等を参考に決定された。

・栄養指導は、保健師、看護師、管理栄養士から、1ヵ月後、7ヵ月後、13ヵ月後の面談と、面談後5週間ごとの電話面談を通じて、食事指導を行った。食事指導プログラムは、食事評価、行動目標の設定、認知症予防に適した食品(魚、鶏肉、豆類・大豆製品、野菜・海藻類、季節の食品、彩り豊かな食品の組み合わせなど)の摂取、口腔虚弱に関する口腔ケアのアドバイスで構成された。

・認知トレーニングは、タブレットが配布され認知トレーニングを実施した。注意力、処理速度、記憶力、精神的柔軟性、視空間能力などの特定の認知能力に焦点を当てた13の視覚的トレーニングで構成されており、エクササイズの難易度は、各個人の認知能力に基づいて調整され、注意と意欲を確実に持続させるようにした。参加者は、1日30分以上、週4日以上の認知機能訓練を受け、3ヵ月ごとに練習と休息を繰り返した。3ヵ月ごとに、成績の経時的変化についてフィードバックを受けた。


介入の効果は、介入開始時点から18ヵ月後までの期間に、7つの神経心理学的検査を用いた認知複合スコアの変化で評価された。

結果、18ヵ月後の認知複合スコア(点数が高いほど良好)の変化は両群ともに増加傾向を認め、その上がり幅は、対照群より介入群の方が有意に高かったことが報告された。また、その結果は、これまでの先行研究に比べても明らかに認知機能の向上が大きかったと報告した。



研究者らは、「認知症のリスクが高い地域在住の高齢者は、生活習慣に関連した疾病管理、身体運動、栄養指導、認知トレーニングからなる18ヵ月のリハビリにより、認知複合スコアが改善した。重篤な有害事象はまれであり、脱落率も低かったことから、将来の認知症になるリスクのある高齢者に対する本研究の介入の安全性と有効性が示された」としている。

また、今後の展望について下記のとおり述べている。

今後の展開
様々な領域に働きかける多因子介入プログラムが高齢者の認知機能の改善に効果があることが示されましたが、残された課題もあります。

一つ目は、前述したように18か月間の介入によって認知機能の向上は得られましたが、その効果は持続するのか、本当に認知症の発症を遅らせることが出来るのかは不明なままです。このことを明らかにするために、J-MINT PRIME Tamba研究参加者の追跡調査を実施していく予定です。

二つ目は、現実的で継続可能な認知症予防介入の実施とその効果検証です。これについては、既に丹波市内各地で活動されている「いきいき百歳体操」の場を活用した追加介入や、特定健診受診者等を新規あるいは既存の運動教室に誘導する取り組みを計画しています。また、これらの活動が、将来的には地域自体が自立して実施を継続できるよう、その核となるような人材を育成していきたいと考えています。

最後に、様々な取り組みは行うものの、それによる費用対効果は不明です。これについて、認知症予防のための取り組みが、医療費・介護費などの社会保障費へ与える影響についても調査する予定です。J-MINT PRIME Tamba研究の成果を基盤としつつ、今後も丹波市においてSOMPOケアらを含めたチームで研究を継続することで、認知症予防介入の社会実装を推し進め、その成果を日本全国・世界へと発信することを目標とします。

引用:運動を主体とした多因子介入により認知機能が向上.神戸大学HP




■ 論文情報

【掲載誌】alzheimer's association

【論文名】An 18-month multimodal intervention trial for preventing dementia: J-MINT PRIME Tamba

【著者】Yutaro Oki, Tohmi Osaki, Ryoko Kumagai, Shunsuke Murata, Haruhi Encho, Rei Ono, Hisafumi Yasuda, Hisatomo Kowa

【DOI】https://doi.org/10.1002/alz.14170

引用・参考文献
▪️Oki Y, Osaki T, Kumagai R, et al. An 18-month multimodal intervention trial for preventing dementia: J-MINT PRIME Tamba. Alzheimers Dement. 2024;20(10):6972-6983. doi:10.1002/alz.14170
▪️運動を主体とした多因子介入により認知機能が向上-認知症の予防につながる介入方法が明らかに-(神戸大学HP)
▪️運動を主体とした多因子介入により認知機能が向上-認知症の予防につながる介入方法が明らかに-(SOMPOケアHP)
▪️認知症予防運動プログラム「コグニサイズ」(国立長寿医療研究センターHP)

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