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2024.12.18

片麻痺後遺症の歩行改善を目指して 理学療法士が杖「Paracane」開発



愛知県に本社を置くシュポーン株式会社は、脳卒中後遺症による片麻痺患者を対象に歩行改善を目的とした杖「Paracane(パラケイン)」を開発。2024年度グッド・デザイン賞を受賞し、グッド・フォーカス賞「技術・伝承デザイン」に選ばれた。

Paracaneは、理学療法士2名が中心となり業者による協力のもと開発された。従来の歩行補助具としての機能を持つ杖と異なり、歩行・姿勢改善や手の二次障害の予防を目指した物となっている。

外観のデザインは、「杖を使いたくない」などといった杖へのネガティブな側面を払拭するためスタイリッシュなものとして創作された。現在は回復期病棟等でリハビリ訓練用に使用される「Spiralモデル」と、歩行の推進力をサポートする「Three Partモデル」の2種類を販売している。

今回、開発に至った背景や各モデルについて、Paracaneの開発者にお話を伺った。


◾️開発背景

シュポーン株式会社はリハビリ専門デイサービスや訪問看護ステーションなどを運営する株式会社Welloopの子会社として設立しました。

デイサービスで働いていた当時、リハビリテーションを担当していた片麻痺患者さんが杖を握る健常側に手根管症候群を発症し、活動量の低下からADLが顕著に低下するのを目の当たりにした経験から、Paracaneの開発に至りました。

Paracaneは、陸上用スポーツ義足と同じ素材のCFRP(炭素繊維強化プラスチック)カーボンで作られた杖です。従来の形状に囚われない『たわみ・しなり』を取り入れたことにより、手の痛みを防ぐだけでなく姿勢改善や歩行改善につながることに気づき、試行錯誤を得て現在の形状となりました。湾曲の角度など細かいデータはあるものの、カーボンで調整するのは何度も失敗を繰り返し苦労しました。

杖は支持基底面を広げ転倒を予防するために使われる場面が一般的には多いです。しかし、プロトタイプを作成した際に、患者さんより「手が痛くないのはもちろんだが、姿勢が良くなる感じがする」というフィードバックをいただいたことから、杖の構造上の変化により異常歩行そのものを改善できる可能性を発見しました。

最近では、国立研究開発法人国立長寿医療研究センターをはじめ、複数の病院や大学と共同研究を進めながら医学的根拠となるデータの収集と製品開発を進めています。




◾️リハビリ訓練用「Spiralモデル」の特徴

Spiralモデルは、リハビリテーションの訓練用に歩行姿勢を整えることに特化した杖となっています。

形状の特徴として、Spiralモデルは湾曲と外側への捻転が加えられており、ラテラルスパイラルシャフトの弾性から生まれる反発力によって麻痺側への荷重を促す仕組みになっています。

そのような作りから、片麻痺患者が麻痺の影響により体幹が左右に傾き過ぎることを防ぎ、まっすぐな姿勢作りをサポートしています。同時に、手の3つのアーチを崩さない手関節回内保持で握れるグリップ形状により健常側の手関節にかかる負担を軽減することができます。






◾️日常生活用「Three Partモデル」の特徴

Three Partモデルは、麻痺側の蹴り出しをサポートし歩行の推進力を向上させる杖となっています。

支柱(シャフト)は定規のように前後にしなる板バネにより床からの衝撃を吸収し、膝関節の負担を補うことができます。地面接地部は麻痺側足首の蹴り出しをアシストする形状となっており、前方への推進力を増加することで歩行速度の向上に貢献する機能を持ちます。

Three Partモデルは麻痺側への荷重が安定してできる方を対象としており、長距離を歩きたい方に推奨する杖となっています。





使用方法として、まずはレンタル利用で杖の使用感を体験いただいた上で購入する流れとなっています。

実際に長期レンタル利用したユーザーからは「長時間歩いた時の疲れ方が全く違う」という声が生まれています。病気により閉じこもり傾向だった方は、これまでにないデザインの杖により、周囲の意識が身体ではなく「杖」に向くことによって外出への抵抗がなくなったという方もいます。

因果関係は明確ではないものの、行動変容がみられていることには、杖の活用性の拡大として新たな価値が期待できると思います。


◾️日常生活用の「Three Partモデル」がより実用的に

現在は、Three Partモデルの発展として高さ調整が可能になったモデルが今季冬頃の販売を予定しております。シュポーン株式会社は、病院や展示会にて杖の貸し出しも実施しており、依頼があった病院ではリハビリテーション職を対象にParacaneの機能説明や適応についてレクチャーをさせていただいております。

今後の展望として、シュポーン株式会社は杖が疾患や症状ごとにどのように影響しているのかを明らかにし、対象者の歩行状態を評価した上で「適切な素材と形状の杖」を提供できるよう開発を進めて参ります。



引用・参考
◾️シュポーン株式会社 公式サイト
◾️2024グッドフォーカス賞 [技術・伝承デザイン]
◾️2024年度グッドデザイン賞「 ベスト100 」「 グッドフォーカス賞 」を受賞!(みなともHP)

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