11月20日に開催された社会保障審議会医療保険部会にて、厚生労働省より「令和8年度診療報酬改定の基本方針(骨子案の概要)」が示されました。
今回の改定は、日本経済が持続的な物価高騰・賃金上昇の新たなステージに移行していることを踏まえて、公定価格である医療分野が直面する厳しい経営状況や人材確保の必要性に対応し、医療機関等の経営安定と現場で働く幅広い職種の賃上げに確実につながる的確な対応が基本的な考えとして示されました。
また、2040年頃を見据え、全ての地域・世代の患者が適切な医療を受けられる体制と、医療従事者が持続可能な働き方を確保できる医療提供体制の構築も重要視されています。
改定の基本的視点は、以下の4本柱の方向性が掲げられ、次期改定の「基本方針(案)」 は12月上旬に発表するスケジュールが公表されました。
物価や賃金、人手不足等の環境変化への対応
物価や賃金、人手不足などの環境変化に対応するため、持続的な物価高騰や賃金上昇を踏まえつつ、医療機関の経営を安定させ、人材を確保していくことが重要との考えが示されました。
人件費や医療材料費、光熱水費などの物件費の高騰に対して適切な措置を講じることに加え、全産業の賃上げ水準から乖離しつつある医療分野において、確実に賃上げにつながる処遇改善を進めることが急務とされています。
あわせて、医師の働き方改革を推進し、すべての医療従事者が健康に働き続けられる環境を整備することは、医療の質と安全を確保し、持続可能な医療提供体制を維持する上でも不可欠です。
今後は、ICT・AI・IoT の積極的な利活用や、タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進により業務効率化と負担軽減を図り、医療従事者全体の人材確保につなげていくことが求められています。
また、診療報酬上求められる基準の柔軟化など制度面の見直しを進めることで、持続可能な医療提供体制の確保につなげていく方針が示されています。
骨子案(1)
2040年頃を見据えた機能分化・地域医療の確保
2040年頃を見据え、「治す医療」と「治し、支える医療」の役割分担を明確化し、患者の状態に応じた入院医療の評価、在宅療養の後方支援機能の評価、およびかかりつけ医機能等の強化を通じて、地域完結型医療体制の構築を図る方向性が示されました。
医療資源の最適化・効率化を図るため、患者の状態及び必要とされる医療機能に応じた入院医療の評価を行う方針が明記されました。
また、患者の状態に応じた入院医療の評価を強化し、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理など、高齢者の生活を支えるケアを一体的に推進していくことも重要な方向性として位置づけられています。
さらに、地域における重症者の訪問診療や在宅看取りを担う医療機関の評価を充実させ、質の高い在宅医療・訪問看護を確保していくことが求められています。
その上で、人口や医療資源が少ない地域への支援を進めるとともに、医療従事者確保が制約される状況でも必要な医療機能を維持するため、ICT・AI・IoT の活用やタスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進を強化することが求められています。
また、医師の地域偏在対策を進め、必要な地域に医療提供体制を確保していくことも重要な視点として示されました。
骨子案(2)
安心・安全で質の高い医療の推進
医療技術の進展に対応し、患者の安心・安全な体制の評価を基本に、「アウトカムにも着目した評価」や「医療DX・ICT連携を活用する体制」を推進し、質の高いリハビリテーション等の重点分野への適切な評価を行う方針が示されました。
医療の質の向上と安全の確保においては、アウトカム(成果)評価として、データを活用した診療実績による評価の推進の方向性が示されています。
また、効率的で質の高い医療を実現するため、医療DXやICT連携を活用する医療機関・薬局の体制の評価(電子処方箋、オンライン診療等)の推進も明記されています。
「質の高いリハビリテーションの推進」については、具体的な方向性として、発症早期からのリハビリテーション介入の推進と、土日祝日のリハビリテーション実施体制の充実が明記されました。
骨子案(3)
効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上
国民皆保険を堅持し次世代に継承するため、医療費増大への対応として、効率化・適正化の不断の取組が必要であるとされています。
具体的には、費用対効果評価制度の活用や、医薬品・医療機器等に関する市場実勢価格を踏まえた適正な評価を実施する方向性が示されました。
また、医療資源の効率的な配分として、後発医薬品・バイオ後続品の使用促進を図ることが盛り込まれています。
骨子案(4)
今後の課題:診療報酬制度の枠組みを超えた政策と国民理解
骨子案では、診療報酬改定の方向性に加えて、医療制度全体が直面する構造的な課題にも触れられました。
持続可能な「全世代型社会保障」を実現するためには、診療報酬だけでなく、医療法や医療保険各法、さらに国や地方自治体の補助金といった制度全体を見据えて、総合的に政策を進めていくことが求められています。
また、制度の内容をわかりやすく説明し続けるとともに、社会保障について国民が議論に参加できる機会を確保し、制度を支える当事者としての意識を育むことが求められています。
「骨子案」で示された方向性は、多職種が協働して質の高い医療を提供していくための基盤づくりに大きく関わるものであり、現場としてもこの後の議論が注視されます。
引用・参考
◾️ 第204回社会保障審議会医療保険部会(厚生労働省HP)
令和8年度診療報酬改定の基本方針(骨子案の概要)
令和8年度診療報酬改定の基本方針(骨子案)