高齢化が進む地域が増えるなかで、障がいのある方々を含め、誰もが安全に避難し、その後の生活支援やケアを受けられる環境を整えるためにも、「福祉避難所」の役割がますます重要になっています。
先日、PT-OT-ST.NETが開催したオンライン講演会「災害リハビリテーション」では、東日本大震災の時と比べて能登半島地震の際には福祉避難所や支援体制の整備が進んでいたこと、そしてその現場に理学療法士が関わる意義についてお話がありました。
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福祉避難所は、災害時において医療・介護において特に配慮を要する人(要配慮者)が、健康や生活を維持できるように支援するための一時的な避難所です。
一般避難所では対応が難しい高齢者、障がい者、妊産婦、医療的ケア児などを対象とし、専門職や支援者によるサポートを受けながら避難所生活ができるように市町村によって設置されています。
参考:青森県「災害時における宿泊施設の提供等に関する協定の概要」
福祉避難所は、一時避難所で対象者の適応を評価する際に、JRAT(一般社団法人日本災害リハビリテーション支援協会)が市町村の保健師らと協働してトリアージを実施し、適応となった方が福祉避難所へ移行します。
このようにリハビリテーションの視点が災害支援において重要な役割を果たしています。
ひとりの住民であり、医療従事者でもある私たちが、自分が住む都道府県や市町村でどのような制度や仕組みがあるのかを理解しておくことは、防災の観点からとても重要だといえます。
本記事では、そうした背景を踏まえ、福祉避難所の実態や、自治体と医療従事者等の連携の仕組みについて整理しました。
福祉避難所とは
福祉避難所は、災害時に一般の避難所での生活が困難な特定の避難者(災害時要配慮者)に特化して、安全と健康を維持するための特別な環境と専門的ケアを提供する場所としています。
避難所は災害対策基本法に基づいて市町村が指定しており、「指定一般避難所」と「指定福祉避難所」の大きく二つに分けられています。指定避難所の基準には満たさなくても、協定等により福祉避難所として確保しているケースもあります。
内閣府の「
福祉避難所の確保・運営ガイドライン」では、2019年10月1日時点において、全国の指定避難所は78,243箇所となっています。そのうち、福祉避難所は8,683箇所、協定等により確保しているものを含めた福祉避難所は22,078箇所とされています。
「福祉避難所」の歴史と制度の流れ
福祉避難所は1995年に発生した阪神・淡路大震災の後、厚生労働省(当時の厚生省)の災害救助研究会が「大規模災害における応急救助のあり方」を総括するなかで、「福祉避難所の指定」が初めて提言・報告されました。
その当時、兵庫県保健環境部は、避難所に生活する高齢者・身体障がい者・震災で障がいを受けた方々が、 その不自由な環境から「寝たきり」とならないように、医師・理学療法士等による「巡回リハビリテーションチーム(ボランティア)」を結成し、支援したと報告されています。
2007年に発生した新潟県中越沖地震では、発災翌日から、学校の空き教室や特別養護老人ホーム、デイサービスセンターの空きスペースを活用した本格的な福祉避難所が9箇所設置されました。
福祉避難所の機能を一定実現したものの、地域差があるなど全体的には十分な成果を得られないまま2011年、東日本大震災が発生しました。
東日本大震災では、犠牲者の過半数を高齢者が占め、また、身体障がい者や精神障がい者の犠牲者の割合についても、被災住民全体のそれと比較して2倍程度に上ったといわれています。
また広域での被災により避難の長期化における支援体制が整っていないなど様々な課題が浮上しました。
その後、2013年に改正された
災害対策基本法において、「切迫した災害の危険から逃れるための緊急避難場所」と、「一定期間滞在し、避難者の生活環境を確保するための避難所」が明確に区別されました。
2016年には、東日本大震災の教訓を考慮し、2008年に日本赤十字社が公表した「福祉避難所設置・運営に関するガイドライン」を改訂・修正し、内閣府は「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」を策定・公表しました。
2019年には台風19号の被害があり、これを受けて、2021年に災害対策基本法が見直され、市町村が事務を行う際の参考とするため、「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」が令和3年5月に改定・公表されました。
福祉避難所となる基準
◯ 対象となる「要配慮者」
災害時において、高齢者、障害者、乳幼児、その他の特に配慮を要する者(妊産婦、傷病者、内部 障害者、難病患者、医療的ケアを必要とする者)
※障害児や医療的ケア児等も含む
特別養護老人ホーム又は老人短期入所施設等の入所対象者は、緊急入所を含め当該施設で適切に対応されるべきとされており、災害時まで自宅で生活をしてきたことが前提とされる。
◯対象となる「施設基準」(一部抜粋)
市町村は平時から福祉避難所となり得る施設を把握し選定しておくことが推奨されている。主眼とされているのは「バリアフリー」「支援者をより確保しやすい施設」であること。
例)一般の避難所となっている施設(小・中学校、公民館等) ・老人福祉施設 (デイサービスセンター、小規模多機能施設、老人福祉センター等) ・障害者支援施設等の施設(公共・民間) ・児童福祉施設(保育所等)、保健センター、特別支援学校 ・宿泊施設(公共・民間)など
現況では指定福祉避難所としての機能を有していない場合であっても、機能を整備すること を前提に利用可能な場合も含む。都道府県が運営する施設であっても状況に応じて市町村の福祉避難所として指定することも考えられる。
また生活相談員(要配慮者に対して生活支援・心のケア・相談等を行う上で専門的な知識を有する者)等を配置するなど指定福祉避難所の基準に適合するものは、指定一般避難所などのスペースを指定福祉避難所として運営することも想定される。
◯ 指定避難所の施設整備
施設のバリアフリー化に加え、医療機器等の確保・維持のため、非常用発電機等の整備に努めることが重要であり、特に在宅酸素療法を必要とする呼吸器機能障害者などを受け入れる場合は、電源の確保が必要である。また介護、処置、器具の洗浄等で清潔な水を必要とすることから、 水の確保も必要となる。
その他にも通風・換気の確保 ・ 冷暖房設備の整備 ・情報関連機器などが挙げられる。
さらに、市町村は施設管理者と連携し、指定福祉避難所における必要な物資・ 器材の備蓄を図り、災害時に不足したものは速やかに調達できるように協定締結など事前対策しておくことを講じている。
例)衛生用品・移動補助具・ストーマ用装具、 気管孔エプロン、酸素ボンベ等の補装具や日常生活用具など
住民の福祉避難所への流れと医療従事者の役割
災害発生後、多くの住民は公民館や小学校などの一時避難所や指定避難所へ避難します。そこでDMAT(災害派遣医療チーム)や地域の保健師などとともにJRATが主に「リハビリテーション・トリアージ」を行い、要配慮者が福祉避難所の適応か否かを判断します。
リハビリテーション・トリアージは、杖や車椅子など福祉用具が早急に必要な方や、廃用性の機能低下が始まっており継続した関わりが必要な方、自ら活動を開始しておりすぐに対応する必要がない方あるいはこれまでの対応を終了する方など、対応の時間的な緊急性や継続性で分別することを示します。
また大規模な被害により、元々入所・入院していた医療機関や介護施設が機能停止・損壊した場合、患者や利用者は外部施設への広域避難を余儀なくされるケースもあります。
その中には、入所・入居の必要はないが特別なケアが必要な方は福祉避難所へ移行する可能性もあります。
「福祉避難所」は一時的に避難する場所であり、一旦一時避難所の福祉避難スペースから必要に応じて二次的に福祉避難所へ移行する所であるとされています。
そのため、避難生活が長期化する際には、避難所を統廃合したり、福祉仮設住宅や社会福祉施設への入所などを検討し、福祉避難所の早期退所を促していくことが求められています。
地域を支える専門職として、今できる備えを
市町村は、災害発生時の活動の基本となる地域防災計画を策定しており、福祉避難所の確保・運営に関する方針もこれらに基づいて実施されています。
また「福祉避難所確保・運営ガイドライン」を参考に、地域の特性や実情を踏まえ、市町村独自の福祉避難所のマニュアルやガイドラインを作成することが推奨されています。
まずは、ご自身の住む地域の地域防災計画やハザードマップ、福祉避難所の指定リストや要配慮者リストを確認するところから取り掛かることが大切です。
福祉避難所は、制度として整備されつつある一方で、地域によって体制や理解に差があります。だからこそ、平時から情報を知っておくこと、また関係機関とつながっておくことが、いざという時の支援につながります。
医療従事者として、自分が住む地域の福祉避難所の場所や支援対象を確認し、地域の支援体制を理解することがとても大切です。
平時から「災害時に自分の専門性をどのように活かせるか」を考えておくことが、防災、災害リハビリテーションに「関心を持つ」ことの第一歩といえます。
引用・参考
■ 福祉避難所の確保・運営ガイドライン(令和3年度改定・内閣府)
■ 福祉避難所の確保・運営ガイドラインの改定(令和3年5月)
■ 福祉避難所の確保・運営ガイドライン(平成28年度)
■ 令和元年度 地域保健総合推進事業(日本公衆衛生協会)
■ 用語から学ぶ! 災害リハビリテーション「基本のキ」(日本作業療法士協会)
■ 大規模災害リハビリテーション対応マニュアル(医師薬出版株式会社)
■ 福祉避難所設置・運営に関するガイドライン(平成20年)
■ 新潟県中越沖地震の被害状況及び対応について(第18報)(厚生労働省)