9月8日に開催された「介護保険部会」(第124回)では、中山間・人口減少地域における介護サービスの維持に関して、特に訪問系サービスへの「包括報酬」の導入が提案され、議論が行われました。
「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会のとりまとめ(令和7年7月25日)では、過疎化が進む地域において、次のような課題が指摘されています。
● 利用者の急なキャンセルによる収入の不安定化
● 利用者宅間の長距離移動に伴う事業者側の負担
● 利用者数の減少による経営基盤の弱体化
これらの状況は、介護サービスを提供する事業者にとって「サービスを続けたくても赤字になりやすい」という深刻なリスクをもたらしています。
「包括報酬」提案の背景と狙い
従来の訪問介護は、サービス提供の「回数」を基準に報酬が支払われる仕組みとなっています。しかしこの方式では、利用者が急にキャンセルした場合や、スタッフの移動時間に対する費用が補償されません。
そのため、特に人口が少なく広域に点在する地域では、事業所の経営が不安定になる原因となっていました。
そこで今回の提案では、「月単位の定額報酬(包括的評価方式)」を選択できる仕組みを導入することが論点として示されました。
これにより、利用者ごとの利用回数の変動に左右されず、事業所が安定的に運営できる環境を整える狙いがあります。
また、期待される効果として下記が挙げられます。
● 経営の安定化:キャンセルや移動負担に伴う収入減のリスクを軽減
● 持続可能性の確保:利用者が少ない地域でもサービス継続を後押し
● 柔軟な対応:利用者ごとにサービス内容を調整しやすくなる
一方で、導入により懸念されることもあります。詳細がまだ明らかになっていない現状ではありますが、以下のような点が挙げられます。
介護事業者の視点
●
サービスの質の担保定額制になると、コスト削減を優先し必要なサービス提供が削られるリスク
●
経営判断の偏り収入が一定のため、コストのかかる利用者(重度者・遠方居住者など)を敬遠するインセンティブが働く可能性
利用者の視点
●
サービスの自由度の低下「必要な回数を柔軟に受けたい」というニーズに必ずしも応えられず、利用機会が制限される懸念
制度運営者である国や自治体においては、定額制(包括報酬)においても利用者が適切なサービスを継続的に受けられるよう、質の確保に向けた仕組みの整備が不可欠といえます。
現在運用されているLIFEをはじめとする科学的介護の活用や、サービスの実態を把握・検証できるモニタリング体制を構築するなど、行政側としての体制整備も今後の論点になると考えられます。
そのほか今回の部会では、中山間・人口減少地域における介護サービスの維持のため、専門職の常勤・専従要件や夜勤要件などの人員配置基準の緩和や、市町村が介護保険財源を活用し、事業者へ委託してサービスを実施する新たな枠組みの導入についても提案されました。
中山間地域の介護サービスをどう守るか
いずれの項目も、現時点では議論の端緒が示された段階にすぎず、実際の制度化は今後の検討に委ねられています。部会でも多様な意見が出されましたが、詳細はまだ固まっていません。
ただ一つ確かなのは、どのような地域に暮らしていても、必要な介護サービスを受けられる環境を担保することが不可欠だという点です。
もちろんサービスの質を確保することは重要ですが、そもそもサービスそのものが地域から存在しなくなってしまえば、住民はサービスを受けることすらできません。これは、「サービスの質」以前の問題です。
過疎地域や中山間地域でも、最低限の介護サービスを途切れなく提供できる仕組みをどのように設計するか――こういった視点から検討されることを望みつつ、今後の議論を見守りたいと思います。
引用・参考
■ 2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関するとりまとめ(厚生労働省)
とりまとめ(PDF)
とりまとめ概要(PDF)
■ 第124回社会保障審議会介護保険部会(厚生労働省)
資料1 人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築(PDF)