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2010.11.18

「長靴を履きたい!」~理学療法士と義肢装具製作会社が叶えた少女の夢~

今度は長靴を履きたい!」 装具「長靴が履きたい」 当時小学4年生の真央ちゃん(仮名)の希望を耳にしたとき、理学療法士・友清直樹は、口には出さないものの、正直「ちょっと難しいかな…」と思ったと言う。右半身麻痺という障がいを背負った真央ちゃんは、新しい装具とリハビリの結果、ようやく不安定だった歩行が安定してきた状態。 友清自身、「次の希望はなあに?」と聞いたは良いが、まさか長靴が履きたいと返ってくるとは想像していなかった。 大のリハビリ嫌いだった真央ちゃんに、リハビリと向き合ってもらう。それだけでも、道は険しかった。「真央ちゃんのこれまでの人生には、できないこと、あきらめないといけないことが多すぎて、何度も壁にぶち当たってきたんだと思う。だから彼女は、自己防衛のために『どうせ無理でしょう?』と最初からあきらめてしまう部分も多かった」と、友清は振り返る。リハビリ嫌いの彼女に目標を持ってもらうために、友清が夢を問うと、「お友達と同じように、私も自分の好きな靴を履きたい」という言葉が返ってきた。  ゲイトソリューションデザイン装具の改良 その夢を聞いて、友清は、株式会社川村義肢が出している「ゲイトソリューション」を思いついた。この装具は、従来の「足首を固定することで安定性を得る」という考え方とは逆に、「足首を制動させて本来の動きを引き出しながらも、足部の動きをサポートする」というアプローチで開発された短下肢装具で、これならば、靴も比較的自由に選べる。しかし、当時、体の小さい子どもに使用した例はほとんどなく、当然、真央ちゃんに合ったサイズは販売されていなかった。    友清は、「ないんだったら仕方がない」と言って、あきらめることはしない。パシフィックサプライに電話をかけ、なんとか真央ちゃんに合う形のものがないか相談した。相談を受けたパシフィックサプライの安井は、喜んでその依頼を受け入れ、大阪から何度も東京に出張して、実際に真央ちゃんに合う形に装具自体を調整してくれたのだ。成長段階にある子どもにとってもゲイトソリューションのような高性能な装具が有効にはたらくのであれば、真央ちゃんと同じような悩みや希望を持つ多くの子どもたちにも活用できる。真央ちゃんを通じて、友清と安井の夢も膨らんだ。真央ちゃんも努力してリハビリを続けた。その結果、不安定だった歩行も、かなり安定し、今まで以上に長距離を力強い足取りで歩けるようになったのだ。遠足などでは必ず持参が必要だった車椅子が、不要となった喜び――。何事もあきらめやすいところのあった少女の表情は、いつしか夢に向かって前進する輝きで満ち始めた。 「今度は長靴を履きたい!」  冷静に考えれば、出てきて当然の願いである。雨に濡れた靴や靴下のまま歩く不快感は、誰だって抱くものだ。ただ、パシフィックサプライも、ブカブカの長靴に装具を入れて履くというシチュエーションは想定していなかった。再び、安井と友清の挑戦が始まった。デパートで真っ赤な長靴を選んだ真央ちゃん。彼女の夢をなんとか叶えたい。パシフィックサプライの出したソリューションは、真央ちゃんの選んだ長靴の後ろ側に、防水加工を施したチャックを取り付け、チャックを開閉することでゲイトソリューションをつけたまま長靴を履くというアイデアだった。真央ちゃんが自分ひとりで長靴を履いてみる。長靴特有のブカブカ感はあるものの、傘を差して雨の中、歩くことができた。少女のささやかな夢が叶った瞬間だ。 「理学療法士をはじめとするセラピストたちは、日々直面している医療の現場で制度上の疑問を感じたり、あるいは急増する有資格者の数に先行きの不安を感じることが少なくない。でも、原点に立ち返って、私たちは、こうして、患者さんの夢を叶えることができるという、誇れる仕事をしているということを仲間のみんなには忘れないでほしい。私たちセラピストたちの熱意や能力、アイデア次第で、真央ちゃんのように、多くの患者さんの表情に輝きを取り戻すことができる。」友清は微笑んだ。
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