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2024.05.02

OT視点のケガをしない家づくり 住宅内事故の予防を目指して



住み慣れた家でも年齢や身体機能の衰えにより転倒リスクは高まり、不安定な姿勢や高い段差の昇降などの転倒リスクを最小限にする住環境の設定が大切です。しかし建物によっては環境整備にも限りがあり、課題を感じているセラピストの方もいるのではないでしょうか。

作業療法士の満元貴治さん(活動名:ヨシロー)は、住宅内の事故を予防するために、作業療法士の視点を活かし住宅業界で家づくりのアドバイザーとして活動しています。2023年9月には書籍「作業療法士が伝えたい ケガをしない家づくり」が出版されました。

今回、満元さんが住環境設定の際に注意しているポイントや、どのように住宅業界に関わっているのかについてお話を伺いました。



満元貴治さん2010年 広島医療保健専門学校卒業。作業療法士国家資格を取得後、回復期病棟や整形外科の「手外科」を専門としたリハビリテーションに従事。住宅内事故で受傷された患者を担当するケースが多く、住宅内の事故予防への課題解決のために2021年に独立。YouTubeチャンネル「ヨシローの家」やSNSで住宅に関する情報発信により、作業療法士の視点を活かした家づくりのニーズを感じ、2022年株式会社HAPROTを設立。住宅の安全性をアドバイスし、安心・安全に暮らし続けられる住宅作りを住宅業界と協力しながら行っている。2023年9月15日「作業療法士が伝えたい ケガをしない家づくり」を出版。


終の住処で住み続けるために


ー 満元さんが家づくりに関わり始めたきっかけを教えてください

「愛着ある家で最期まで暮らし続けたい」という方が多くいる中、骨折や病気により入院後自宅へ戻れない方もいます。

総合病院の「手外科」という上肢に特化した領域でリハビリテーションを行っている時も、住宅内事故で受傷した方を多く担当してきました。リハビリテーションによって受傷前や病気になる前に近づくことはできても、完全に元通りになることは難しいと感じました。

自分自身が家を建てる際に住宅について色々勉強したことから、自宅内でのケガは家づくりの段階で予防できることがあるのではないかと思い、住宅業界において安全な暮らしを作業療法士の視点からアドバイスする事業を立ち上げました。


住宅内の転倒・転落は6割以上?


ー 住環境を考える重要性についてはどのようにお考えですか?

東京消防庁によると、2020年の転倒・転落による高齢者の救急搬送者のうち転倒の60%、転落の78%が「住宅」で発生しているといわれています。転倒・転落は身体機能や認知機能が原因となる「内的要因」、住宅内環境などが影響した「外的要因」、トイレに行くために急に立ち上がったり、身体の向きを変える際にバランスを崩すなどの「行動的要因」が複雑に相互で影響しあって発生します。

外的要因は住宅内の危険という意味で、「ホームハザード」と表記されます。住宅内のどこが危険なのか、どういった事故が自宅内で起きているのかを理解しておくことは住宅内環境を考える上で重要になります。


住宅改修の苦難 新築・リノベーションに着目


ー どのように家づくりに関わられているのですか?

自宅内での事故を防ぐために、工務店やハウスメーカーを対象に作業療法士の視点でホームハザードを意識した家づくりのアドバイスをしています。

住宅改修は介護保険内で納めるのが難しいケースもあり、時に、住宅環境の危険性を理由にやむを得ず施設へ入所しなければならないこともあります。

特に築年数30年以上の古い家は、段差が多かったり歩行補助具を使えない廊下幅や断熱にも弱く、寒かったりと体調管理が難しいこともあります。それらを改修するには金銭的な負担も大きくなるため、私はこれからの未来を見据えて「新築・リノベーション」の家づくりに着目しました。

新築を取得する世代として最も多いのは30代〜40代であり、次に60代で終の住処を移すか検討するタイミングがきます。高齢者になっても愛着ある家で住み続けるためには、ある程度自分で生活ができたり、場合によっては家族の助けがあれば生活できることが大切です。また住環境を整えることで介助や介護をする家族の負担を減らすことができ、大切な家族の生活を守ることができます。

工務店の方にアドバイスする際には、高齢者になってからの身体の変化や自宅生活で困ること、転倒のリスクなどをお伝えして、施主様(家を買う人)の暮らしを一緒に守る家づくりをしています。



安全持続性能とは


ー どのようなアドバイスをされているのか教えてください。

住宅に必要な省エネ、耐震性能とともに、私は、自宅内での事故を防止するために、耐熱性・省エネに加えて、生活の安全性や年齢・身体の変化に対応し住み続けられる家かどうかを判断する基準として「安全持続性能」を提唱しました。

「安全持続性能」は、住宅内での転倒・転落などの事故を予防する「安全性」5項目と、身体状況・ライフスタイル・家族構成が変化しても住み続けられるかを評価する「持続性」の8項目、計13項目を3段階で評価します。



例えば、四肢の重度の骨折や脊髄損傷の原因には階段からの転落がありますが、65歳以上の受傷機転で最も多いのも階段からの転落です。

建築基準法施行令では「床から1,000mの部分」は手すりもしくは側壁の義務は生じません。また狭い家だと階段幅も狭く、段差の奥行きが狭いことが多く、踏み外しによる転落リスクが高まります。

そのため「安全持続性能」の基準では、手すりの有無、蹴上(けあげ)の高さ、踏面(ふみづら)の奥行きを評価ポイントとしています。




段差の高さ(蹴上)が高く、奥行き(踏面)が狭いと階段の傾斜(勾配)が急になります。昔の家や土地の狭い家では階段を広くつくることが難しく、急な階段が多いのですが、私が推奨するのは、高齢者等配慮対策等級よりも緩やかな勾配になるように設定しています。

他にも椅子の上に立たないと取り出せない収納スペースの設置や天井に換気口をつけないなど不安定な姿勢によって椅子からの転落を防止するための基準を設けています。また、180度転回ではなく90度転回で済むように、トイレのドアの向きを便器の正面ではなく横に設置したり、衣服の着脱の際に安全に動きやすいように意識した面積なども評価項目にしています。



建築業界と医療業界の架け橋へ

家を購入することは人生の一大イベントです。大切な時に、子どもが生まれたり、高齢者になってからも安心して住み続けられる家を提案することは工務店様の信頼度にも繋がっていると評価をいただいております。なかでも、工務店の方に「人の暮らしが見える」と言っていただいたのは印象的でした。

自宅内での転倒は住環境だけで解決する問題ではありませんが、自宅内での事故を最小限に防ぐためには住環境の設定は大切です。作業療法士としての視点を活かしながら、建築業界の方とより安心・安全に住み続けられる家づくりをしていきたいです。

私は新築やリノベーション住宅を専門としており、将来の自宅内事故を予防することを目指しています。これからは介護保険における住宅改修や家屋調査時の評価で何ができるのかを考え対処するために、現場で働かれているセラピストと連携し、予防から受傷後までアプローチができるようになることを目標に活動を続けていきたいと思います。





引用:
安全持続性能について(HAPROT公式HP)
著書「作業療法士が伝えたい ケガをしない家づくり」

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