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2025.04.08

“活動が変われば、人生が変わる“ ショッピングリハビリが切り拓く介護予防の新たな可能性|杉村卓哉さん

買い物を通して介護予防や生活支援に取り組むショッピングリハビリカンパニー株式会社が、「第13回健康寿命をのばそう!アワード」の介護予防・高齢者生活支援分野で優良賞に選ばれました。

健康寿命をのばそう!アワードは、厚生労働省とスポーツ庁が主催し、健康増進・生活習慣病予防、介護予防推進に資する優れた事業を表彰するものです。企業・団体・自治体の先進的な取組みを表彰し、その普及・定着を促進することを目指しています。




ショッピングリハビリカンパニー株式会社は、「高齢者がずっと健康・アクティブでいられること」を理念に掲げ、高齢者が楽しみながら社会参加と介護予防を両立できる「ショッピングリハビリ」を提供しています。

ショッピングリハビリの起案者である作業療法士・杉村卓哉さんは、前腕支持台型歩行器とショッピングカートを組み合わせた『楽々カート』を独自開発しました。

杉村さんは、島根県雲南市を拠点に光プロジェクト株式会社を創設し、全国展開を見据えてショッピングリハビリカンパニー株式会社の共同代表として活動しています。

今回、「買い物×リハビリテーション」という新しい介護予防の形である「ショッピングリハビリ」の背景や事業に込める想いについて杉村さんにお話を伺いました。


ショッピングリハビリとは


ー ショッピングリハビリの目的や実施方法について教えてください


杉村さん ショッピングリハビリは、「楽々カート」を使用しながら買い物活動を行うリハビリテーションです。ショッピングという日常の当たり前な生活場面には、リハビリ要素が多くあり、楽しみながら自然に身体と心を動かすことができます。

買い物に含まれるリハビリ要素として、商業施設という環境の中では、買い物を達成するために買いたいものを探し、選び、自宅の冷蔵庫を思い出しながら財布と相談するなど、実生活に即した複合的な状況の判断が求められます。その場面にリハビリテーション専門職が同行することで、買い物中に評価して見えた課題や目標を日頃のリハビリテーションに活かすことができます。

「大好きで楽しい買い物をしていたら、気づくと元気になってた」そんな新しいリハビリテーションの仕組みを作るために、楽々カートを活用した「ショッピングリハビリ」という仕組みを構築してきました。

対象となるのは、要介護認定で要支援1・2の認定を受けた方や、「基本チェックリスト」判定で要介護・要支援となるリスクが高いと判断された65歳以上の方です。

ショッピングリハビリを目的とした「ひかりサロン」では、理学療法士や作業療法士による集団体操やレクリエーションを行っていただいた後、買い物(ショッピングリハビリ)をしていただきます。




ー 「買い物 × リハビリ」という発想はどのように生まれたのですか?リハビリが義務ではなく、楽しみにできるという考えに至った背景を教えてください


杉村さん デイケアで作業療法士として働いていた頃、ある高齢の女性を担当していました。彼女は「もう年だから、早くあの世へ行きたい」と話し、目標を見つけることが難しい様子でした。

そんなある日、「もし最後に夢が叶うとしたら、何がしたいですか?」と尋ねると、「買い物がしたい」と答えました。さらに「買い物をして何をしたいですか?」と聞くと、「お世話になった方にプレゼントを贈りたい」と話してくれました。その言葉を聞き、とても素敵だなと感じました。

当時の私は、機能訓練にばかり注力していて、患者さんが元気にならないことに課題を感じていました。そんな中、ラビット型歩行器の研究を続けていると、車椅子生活だった方が、それを使うことで自力で歩けるようになる場面を目の当たりにしました。



杉村さん 「環境が変われば、活動も変わる」と実感した私は、利用者さん約10名と美術館や買い物に出かけるレクリエーションを企画しました。

歩行器のメーカーさんの協力で10台ほど借り、全員がラビット型歩行器を使って買い物をしました。すると、皆さんとても楽しそうに歩き、ケーキ屋さんではケースが空になりそうなほど家族へのお土産を買ったり、お世話になった方への贈り物を選んだりしていました。

その光景を見たとき、「作業を通して元気になる」ーーこれこそが本当の作業療法だと感じました。そして、「買い物×リハビリ」という形を実現するために起業を決意しました。

その後、店で買い物をする人々を観察していると、カートにもたれかかって押している人が多いことに気づきました。そこで、「ラビット型歩行器にカートをつければ、ショッピングしながらリハビリができるのでは?」と思い立ち、現在の「楽々カート」の開発に至りました。




ショッピングリハビリ開発における苦労とその背景


ー 取り組む中で苦労したことや現在に至るまでについて教えてください


杉村さん 2010年に病院を退職し、起業しました。最初は「楽々カート」の開発に力を注ぎ、起業から4年後に法人化しました。その後、完成した楽々カートを量産し、各商業施設に設置していただくことができました。

しかし、思ったようにカートが使われず、事業は難航しました。さらに、行政機関と連携して商業施設内にサロンを併設する計画も、当時いた地域では実現が難しく、会社は倒産の危機に陥りました。

そんな中、2017年に縁のあった島根県雲南市に移住し、状況が大きく変わりました。市長自ら私のプレゼンテーションを聞いてくださり、ショッピングリハビリの可能性を感じていただいたのです。

ちょうど雲南市は、介護予防の取り組みを強化しようとしており、再開発した商業施設の空きスペースの活用にも課題を抱えていました。そのタイミングがショッピングリハビリと合致し、本拠点となる「ひかりサロン」を開設することが実現できたのです。

そして2019年、ショッピングリハビリカンパニー株式会社を設立し、全国17拠点へと事業を拡大することができました。




ー 様々な苦労を重ねてこられたにも関わらず、諦めずに続けられたその想いとは何でしょうか


杉村さん 作業療法業界が、機能訓練だけでなく作業を通じた生活に根付いたリハビリテーションを実現できるようにしたいと思い続けてきました。

私はこの目で作業を通じて利用者さんたちが元気になっていく姿をたくさん見ています。そして、各拠点でも利用者さんが元気になったよ、できることが増えたよ、こんな素敵な出来事があったんだよと様々な感動が生まれています。

月に一度全国のスタッフたちと勉強会を開催していますが、毎回嬉しい報告と「作業療法ってすごい」という声が届くのが、本当に嬉しいですね。


これから目指すこと


ー 現在の目標と、今後の展望について教えてください


杉村さん 全国展開を進める中で、コロナ禍などさまざまな苦労を経験しました。これからは、山陰地方のマーケットに直営店を増やしていくことを目指しています。

まだまだ作業療法の魅力が伝わっていないと感じています。だからこそ、ショッピングリハビリを通じて「作業療法ってこんなに素晴らしいんだ」と感じてもらえる機会をもっと増やしていきたい。その想いを胸に、これからも活動を続けていきたいと思います。




PT-OT-ST.NET 「作業を通したリハビリテーション」の魅力と、介護予防の新たな可能性を切り拓くショッピングリハビリへの情熱が強く伝わってきました。どこの商業施設に行っても楽々カートで楽しく買い物をする方々の姿が見られる未来を心から願っています。

杉村さんありがとうございました。


引用・参考
◾️第13回 健康寿命をのばそう!アワード(厚生労働省HP)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_45784.html

◾️ショッピングリハビリカンパニー株式会社
https://shopping-reha.com/

◾️光プロジェクト株式会社
https://hikari-project.studio.site

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