近年のAI技術の発展は目覚ましいものがあり、リハビリ業界へも参入が盛んになってきました。しかし実際に導入するとなると、何をどう使えばいいのか、患者情報を入力して大丈夫なのか、AIが書いた内容を信頼していいのかと、疑問は尽きません。
2026年5月、国際医学誌Cureusにその疑問に対して取り組んだ研究成果が掲載されました。京都・蘇生会総合病院リハビリテーション科の中野雅司氏・井村拓人氏による本研究は、作成時間の削減効果だけでなく、AIが生成した文書のエラー実態、そしてAIに正しく書かせるためのプロンプト設計まで、実践的な知見を詳細に報告しています。
ワークフローの全体像——AI生成・VBAマクロ・療法士の確認を融合
本研究では、ユビー生成AI(Ubie株式会社)とExcel/VBAマクロを組み合わせたワークフローが導入されました。
流れは、①電子カルテの情報をもとにAIにプロンプトを入力→②AIが9項目のテキストを出力→③VBAマクロでワンクリックでテンプレートに自動転記→④療法士が確認・修正して完成、という手順で実施されました。
ここで重要なのは、AIだけでは完結しないという点です。AIの出力はテキストのみで、実際に使っているサマリーテンプレートには直接貼り付けない仕様でした。
そのギャップを埋めるためにVBAマクロ(バージョン8.3)を独自開発しており、AIとマクロの組み合わせによる実用的なワークフローとして構築されました。
また合併症や既往歴などの項目では、AIが候補を提示し、担当療法士がその中から臨床的に適切な情報を選ぶ設計でした。全部AIに任せるのではなく、「候補を出す→人が選ぶ」という役割分担が明確な仕様として運用されました。
作成時間は約57%削減、ただし「確認込み」の数字
結果として、PT・OT・ST 21名が作成したリハビリサマリーを導入前後で比較したところ、作成時間の中央値は導入前23.0分から導入後10.0分へと短縮されました。
著者らは、線形混合効果モデルによる解析でも12.26分の有意な削減(95%CI: -15.71〜-8.81、p<0.001)が確認されたと報告しています。
ただし、この「10分」という数字にはAIがテキストを生成する時間だけでなく、療法士による内容確認・修正・候補項目の選択・最終仕上げまでの全工程が含まれています。
「AIが書いた時間」ではなく「人が確認して完成させた時間込みで10分」という意味であることには留意が必要です。
ユーザビリティの評価では、SUS(System Usability Scale)スコアの中央値が83.75と高く、回答者18名中15名(83%)が「Acceptable(許容できる)」に分類されました。
著者らは、現場での受け入れられやすさという点でも一定の成果が示されたと報告しています。
8割以上のサマリーにエラーが存在した
効率化の成果が示された一方で、安全性の評価では見過ごせない結果も報告されました。
無作為に抽出した11件のAI生成サマリーを専門家が評価したところ、9件(81.8%)に少なくとも1件のエラーが含まれていました。
エラーは大きく2種類に分けられます。「ハルシネーション(幻覚)」は存在しない情報をAIが作り出すもの、「省略」は記載すべき情報が抜け落ちるものです。今回は19件のハルシネーションと1件の省略が確認されました。
特に注目されるのが「でっち上げ型(fabrication)」ハルシネーションです。電子カルテに記載のない合併症が追加されたり、症状から根拠なく病名が生成されるといったケースで、fabrication型のmajorエラー率は83.3%に達しました。majorエラーとは「患者管理に影響しうるエラー」を指します。
エラーが多く発生したのは身体機能(47.4%)、合併症・疾患名(各21.1%)のセグメントでした。
これらの結果は、AIが生成したサマリーをそのまま使うことは現時点ではリスクを伴うことを示しているとも考えられます。
著者らは、最終的に療法士が内容を確認・修正する運用が前提であり、それを含めた上での「10分短縮」という評価であることを伝えています。
プロンプトはバージョン4.0
本研究で使用されたプロンプトは「バージョン4.0」であると示されました。
繰り返しの改良を経て現在の形に至っており、論文にはプロンプト全文がCC-BY 4.0ライセンスのもと公開されています。プロンプトの改善には、現場での失敗経験が随所に反映されていることも想像されます。
「記載がない項目は推測せず必ず『特になし』と書く」
「身体機能欄に経過や改善の表現を入れない」
「BBSとFBSの表記ゆれに対応する」
電子カルテを毎日触っているセラピストなら当たり前と感じる部分が随所に盛り込まれています。バージョン4.0という数字が、試行錯誤の積み重ねをそのまま表しています。
本研究に使われたプロンプト全文は、Cureusの論文(DOI: 10.7759/cureus.109247)の付録に日本語・英語で公開されています。
「効率化」と「リスク」のあいだで、人とAIの役割を整理する
本研究では「AIを導入すれば自動化できる」ではなく、「適切に設計されたワークフローの中でAIを使えば効率化できる」という現実的な側面が示されました。
著者らは、「これらの知見は、低コストで技術的障壁の低いAI支援文書化ワークフローが、調査対象となった機関の文脈において文書化の効率と使いやすさを向上させる可能性があるという予備的証拠を提供するとともに、AI生成のリハビリテーション要約には最終的な人的検証が必要であることを示しています」との考えを示した上で、「安全な実装は、人間がループするワークフローと、高リスクコンテンツセグメントのリスク層別検証に基づくべきです」と述べています。
AI導入を検討している理学療法士、作業療法士、言語聴覚士にとって、何をどう設計するかを考える上で、具体的な手がかりを提供している研究はまだ多くありません。現場での活用を考えている方は、本論文よりヒントが得られるかもしれません。
■ 論文情報
【掲載誌】cureus
【論文タイトル】Implementation of an AI-Assisted Workflow for Rehabilitation Discharge Summary Creation: Evaluation of Documentation Efficiency, Usability, and Hallucinations in a 290-Bed General Hospital in Japan
【著者】Masaji Nakano • Takuto Imura
【DOI】
10.7759/cureus.109247 お詫びと訂正記事おきまして、誤りがございました。皆様にご迷惑をおかけしたことを謹んでお詫びいたしますとともに、ここに訂正させていただきます。
(正)中野雅司氏・井村拓人氏らによる本研究
(誤)井村拓斗氏らによる本研究
引用・参考
■ Masaji Nakano • Takuto Imura. Implementation of an AI-Assisted Workflow for Rehabilitation Discharge Summary Creation: Evaluation of Documentation Efficiency, Usability, and Hallucinations in a 290-Bed General Hospital in Japan doi:10.7759/cureus.109247
■ 生成AI導入でリハビリサマリー作成時間を約57%削減。蘇生会総合病院の医療DX研究が国際医学誌Cureusに掲載(医療法人社団蘇生会プレスリリース)