~「我慢」から「回復」へ。産前産後の身体トラブルにリハビリテーションの光を~
令和7年12月11日、参議院議員会館にて「産前産後の母体に対するケアを通じて包括的に女性支援を考える議員連盟(以下、母体ケア議連)」の第2回総会が開催されました。
本議連は、理学療法士である小川かつみ議員が事務局長を務め、産前産後の女性の健康課題を社会システムとして支える仕組みづくりを目指しています。
設立総会(第1回)の振り返り:医療支援の死角
本議連は、11月13日に設立総会(第1回)が開催されました。
第1回では、よしかた産婦人科院長の善方裕美医師が登壇。「女性のライフコースにおける医療支援のBlind spotとは?」と題し、産前産後の症状(腰痛・尿漏れ・骨盤底の不調など)が診療科の狭間で拾い上げられにくいことが提示されました。
ここに、評価と介入を担うリハビリテーション専門職の役割が期待されています。
第2回総会:現場の実態と理学療法士の役割
第2回総会の焦点は、次の2点でした。
● 当事者調査で見えた「受診の壁」
● 産科チームにおける理学療法士の機能
1. 産前産後の女性の9割が身体トラブルを抱える実態
講師:NPO法人ReMind 代表理事 吉井麻美氏
吉井氏は「妊娠中・出産後の母体の身体トラブル実態調査」として、約1万人規模のアンケート調査の結果を発表しました。
アンケートでは、妊娠中・産後の女性の9割(91%)が腰痛や尿漏れなどの身体的トラブルを抱えていました。しかし、実際に医療機関を受診したのはわずか15%。85%の女性は「育児優先」「我慢するしかない」と諦めている現状が明らかになりました。
また、身体的トラブルは、産後うつ(自己肯定感の低下、不安)や、復職不安、「もう二度と産みたくない」という次子希望の低下にもつながりうることが報告されました。
吉井氏は、「産前は母子手帳で母体の記録があるが、産後は子どもの成長記録が主となり、母体の身体的アセスメント項目がない」と指摘。母子手帳に、腰痛や尿漏れなどの有無をチェックする項目を追加することを強く提言しました。
2. 理学療法士が繋ぐ「チーム医療」の必要性
講師:Women’s Body Labo 代表 / 理学療法士 山崎愛美氏
続いて、理学療法士の山崎愛美氏が「産前産後の母体トラブル事例と改善へのアプローチ法」をテーマに登壇しました。
山崎氏は、現場で起きている課題として下記を提示しました。
● 「妊娠中だから様子見」となり、休職・離職につながるケース
● 産後の腹直筋離開や骨折など、早期介入で回復が変わりうるケース
これについて、海外の制度例にも触れつつ、産科チームに「回復の専門職」としてリハビリテーション専門職が入る必要性を訴えました。
母子手帳への項目追加と制度化へ向けて議論
質疑応答では、小川かつみ議員の司会進行のもと、活発な意見交換が行われました。
特に「母子手帳への母体アセスメント項目の追加」については、こども家庭庁の担当者から「様式の見直しの中で検討可能」「自治体が採用しやすいような提示の仕方を考える」といった前向きな答弁が引き出されました。
また、参加した医師や議員からは「産後うつなどのメンタルケアと同様に、身体的ケアも必須項目としていくべき」「整形外科と産婦人科の連携不足を解消する必要がある」といった、領域横断的な課題意識が共有されました。
今回、産後の腰痛・尿漏れ・骨盤底機能などを「生活機能」として評価することが議論されました。
リハビリテーション専門職にとっては、産科・整形外科・地域支援とつなぐ役割が制度議論の中心テーマとして扱われ始めた点が大きなポイントです。
母体ケア、リハビリテーション専門職への期待
今回の総会を通じて、産前産後の身体的課題を「我慢」ではなく「回復」の対象として捉え、社会システムで支える必要性が共有されました。
吉井氏からは「出産は病気ではないが、母体へのダメージは交通事故に匹敵する」との趣旨の発言もあり、母体の身体的回復にリハビリテーション専門職が関わる重要性が国政レベルで認識され始めています。
産後ケアの充実に向けて、母子保健・産科領域で働くリハビリテーション専門職はもちろん、整形外科・訪問リハビリテーション・地域支援といった多様な現場においても、その専門性への期待が高まっています。
単に症状への対症的なアプローチにとどまらず、日常生活動作や育児動作、社会参加といった生活全体の文脈から産後女性の困りごとを拾い上げ、包括的に支援していく。そのためにも「産後の不調を生活機能の課題として拾う視点」がより一層、重要といえます。
本議連は今後も議論を重ねていく予定で、次回総会は年明けに開催される見込みです。
参考
■ 産前産後の母体に対するケアを通じて包括的に女性支援を考える議員連盟設立(小川かつみ公式HP)