11月26日、「リハビリテーションを考える議員連盟」(鈴木俊一会長)の第12回総会が自由民主党本部にて開催されました。
日本理学療法士協会、日本作業療法士協会、日本言語聴覚士協会のリハビリテーション専門職3団体は、リハビリテーションの強化・推進に向けた要望を提出し、議員連盟はこれを踏まえた「決議」を採択しました。
総会では、現場の賃金水準の低さがもたらす人材流出の危機感が強く共有され、特に処遇改善については「掛け声だけではなく実行性のある政策」を求める活発な議論が展開されました。
物価高に対応した「持続的な賃上げ」が最優先課題
リハビリテーション専門職3団体は、他産業に匹敵する水準での持続的な賃上げの必要性を訴えました。
【現場の危機的な現状】
● 令和6年度トリプル改定で拡充されたベースアップ評価(処遇改善加算)の措置は、2年経っても目的を達成していません。
● 3団体の調査によれば、この2年間でベースアップが「なし」だった施設は、介護施設で39.6%、障害福祉施設で41.1%に上ります。
● ベースアップが実施された施設でも多くは1万円未満にとどまり、物価上昇に見合う賃上げには至っていません。
● 医療・福祉分野の賃金改定額は、全産業中で最も低い水準にあることが示されています。
決議と国会議員からの強い要望
決議では、「令和7年度補正予算において、リハ専門職1人あたり月額2万円以上の賃上げ(年間約960億円の確保)を行うこと、そして来年度の改定で最低でも物価上昇を上回る12%以上の賃上げ」を実現することを求めました。
特に賃上げの財源について、経営者の判断に左右されないよう、「純粋に上乗せするいわゆる『真水』による大規模で抜本的な対応」を行うことが強く要請されました。
出席した議員からは、以下のような声が上げられました。
◯ 「人を支える人(リハ専門職)が報われる社会でなければならない」とし、物価上昇を上回る確実な賃上げの実施をすべき。
◯ 「給料が低く、今後どう上がるかも分からないから、30代を前に20代で辞めて他職種を選ぶ若いPTが多い」という現状にショックを受けている。ベースアップ評価を算定しない施設で働く職員にも給与が確実に届くよう仕組みを構築すべき。
◯ 多くの学生が奨学金を借りており、この給与水準では奨学金の返済が困難になるという観点からも、待遇改善は必須。
20年間据え置きの「疾患別リハ料」基本報酬体系の見直し
賃上げの構造的基盤を確保するため、長年にわたり据え置かれてきた診療報酬の基本報酬体系の見直しが強く求められました。
疾患別リハビリテーション料は、平成18年度(2006年)の導入以来、約20年間ほとんど基本点数は据え置かれてきました。
これらを踏まえて、要望書では「総合的に10%程度引き上げることを最低限の目標とし、これによりリハ専門職の平均年収を403万円に達成できる」との試算が示され、決議にも盛り込まれました。
出席した議員からは、以下のような声が挙げられました。
◯ リハビリテーションの実施による医療費削減効果や、社会復帰効果のエビデンスがあるにもかかわらず、疾患別リハビリテーション料の「205点が相変わらず205点」のままである点は問題ではないか。
◯ 外科手術や内視鏡の技術料と同様に、リハビリの技術料が20年間据え置かれているのはおかしい。積算方法を抜本的に見直し、点数を上げていかないと人件費に跳ね返り、病院経営が持たない。
また、リハ専門職3団体は専門性を適切に評価する新たな仕組みが必要と要望し、議連では「登録理学療法士、認定・専門理学療法士といった専門性を持つセラピストによる診療について、施設基準や研修要件への明確な位置づけや評価を行うべきである」との内容が決議されました。
早期・連続的な「訪問リハビリテーション」提供体制の強化
日本理学療法士協会は資料にて、現在の訪問リハビリテーションは、病院・診療所等に限定された開設要件により、市町村の約4割で事業所がゼロであることを報告しました。
また、訪問リハビリテーションの提供時間も、中山間地域では他の事業に比べて最長であるなど、地域偏在が大きいこととサービス供給が著しく不足していることを指摘しました。
さらに、退院後早期に訪問リハビリテーションを提供すると、半年で約107万円の医療費削減効果があり、要介護度の悪化を約30%抑制する効果があるというエビデンスが示されました。
これらの現状を踏まえ、「地域包括ケアを担う訪問サービスについて、医療人材が不足している地域での継続的な提供を可能とするため、『復興特別区域』の特例措置(医療機関等との密接な連携を前提に、被災地で例外的に訪問リハの開設要件を緩和した措置)と同等の開設要件を平時にも適用し、提供体制の基盤強化を図るべき」との提言が決議されました。
予防医療への貢献と資格法の改正
リハビリテーション専門職の活躍の場を広げ、政府が掲げる「攻めの予防医療」を推進するため、資格法の改正に向けた検討が求められました。
理学療法士及び作業療法士法については、制定から約60年間改正されていません。今回、「現在の活動領域(公衆衛生、予防)と法律上の業務範囲との間にある乖離は深刻である」との指摘も示されました。
これを受け、決議では、現行の資格法では3療法士の「公衆衛生、領域への関与や貢献についての記載」がない現状を踏まえ、3療法士の資格法の一括改正の在り方に関する検討会を早急に省内で検討するよう求めました。
また、リハビリテーション専門職(PT・OT・ST)が全国の地域包括支援センター(全国約5,500か所)に配置されているのはごくわずか(とある老健事業の調査によると、わずか3.8%)であることから、この配置を強化するための財源確保と自治体への啓発を要望しました。
出席した国会議員からは、今国会で成立予定の高次脳機能障害者支援法を例に挙げ、リハビリテーション専門職が地域社会の中で活動する領域が広がっていくことに期待の声が挙げられました。
厚生労働省内に「リハビリテーション課」の設置を
リハ専門職3団体は、リハビリテーション政策が、医療、介護、障害福祉、健康増進など多岐にわたることから、部局横断的かつ一体的・専門的な対応を進めるためにも、専門的に担う部署として「リハビリテーション課」の設置を強く要望しました。
これを受け、議連では厚生労働省内に、リハビリテーション政策の統括・推進を担う「リハビリテーション課」を設置し、さらにリハビリテーション政策を専門的知見に基づき検討するための省内検討会を早急に設置することが決議されました。
議連決議が示す、現場のリハビリテーション専門職への影響
今回の総会では、リハビリテーション専門職の処遇改善について、単なる加算の議論に留まらず、医療・介護報酬の基本報酬へのテコ入れが必要な構造的な問題として取り上げられました。
議員連盟の総会では、出席した議員から「賃金上昇と物価高騰に対応した大幅なプラス改定」を要望する声が挙がり、特に補正予算による賃上げ財源が「現場で働くリハ専門職の手に確実に届くような仕組み」を構築するよう、厚生労働省に強く要請しました。
この決議は、リハビリテーション専門職が国民の健康と医療財政の安定に不可欠な存在であるという認識のもと、長年見過ごされてきた構造的な課題に、政治が「待ったなし」で向き合う姿勢を示しています。