5月20日、厚生労働省は、令和8年度エイジフレンドリー補助金の申請受付を開始しました。申請受付期間は10月31日迄ですが、専門家総合対策コースの第1段階(労働安全衛生の専門家を活用したリスクアセスメントの実施申請)は8月31日までとされています。
理学療法士等の専門家が関わる運動指導等の取り組みについては、労働安全衛生に係る専門家によるリスクアセスメントを踏まえた2段階制とされたため、これまでのように運動指導だけを切り出して考えるのではなく、事業場のリスク把握と、その結果に基づく対策として位置づける必要があります。
転倒予防や腰痛予防は、職場環境の改善だけでなく、労働者の身体機能の把握や運動指導とも関わる領域であり、理学療法士等が専門性を発揮し得る分野といえます。
予算の制約上、受付期間の途中であっても申請受付を終了する場合があり、本補助金の利用を検討する場合には早めの対応が必要です。
この記事では、背景となる労働安全衛生法の改正についても合わせて解説します。
令和8年度エイジフレンドリー補助金の概要
高年齢労働者の労働災害防止のための設備改善や、専門家による指導を受けるための経費の一部を補助する補助金です。
労災保険に加入している中小企業事業者を対象に、労働者の転倒予防・腰痛災害防止のために、理学療法士等の専門家が運動指導等の取り組みを実施することに対する経費の一部などを補助します。
エイジフレンドリー補助金は令和2年に創設され、近年は法改正の影響もあり、高年齢労働者の労働災害防止策とあわせて、本補助金の位置づけが改めて注目されています。
実際、補助金の予算は令和7年度の7.6億円から、令和8年度は9.5億円へと増額されています。
令和8年度は、専門家総合対策コース、熱中症対策コース、コラボヘルスコースの3コースで構成されています。
複数コースを併せて申請することはできず、申請は1年度につき1回までとされています。なお、専門家総合対策コースの第1段階と第2段階は、あわせて1回の交付申請として扱われます。
運動指導等の取り組みは2段階に
令和7年度のエイジフレンドリー補助金では、「総合対策コース」「職場環境改善コース」「転倒防止・腰痛予防のための運動指導コース」などが設けられていました。
令和7年度においては「職場環境改善コース」として、転倒予防・腰痛災害防止のために専門家による身体機能のチェックや運動指導を行う取り組みが補助対象となっていました。
今回の令和8年度(2026年度)事業では、職場環境改善や運動指導等に関する取り組みが「専門家総合対策コース(職場環境改善・運動指導等)」として整理されています。
令和8年度の専門家総合対策コース(職場環境改善・運動指導等)では、同様の取り組みも補助対象とはなりますが、第1段階として、外部専門家によるリスクアセスメントを受け、その結果を踏まえて、第2段階として職場環境改善や運動指導等の対策を実施する仕組みとなっています。
また、外部専門家の代わりに自社の安全衛生担当者等がリスクアセスメントを実施し、その結果を踏まえて第2段階から申請することも可能です。
特に第1段階のリスクアセスメントを外部専門家に依頼した上で第2段階の専門家による運動指導等を実施する場合、事業実施主体に相応の時間と手間がかかることが想定されるため、早めの動き出しが重要となります。
また、身体機能チェックや運動指導等の取り組みは、転倒防止と腰痛予防で申請様式や指定チェック項目が異なります。申請にあたっては、どちらの対策として実施するのかを整理しておく必要があります。
注意事項として、「転倒防止」においては転倒防止以外、「腰痛予防」においては腰痛予防対策以外の運動指導などは補助対象外となります。また「運動指導等」については、単なる資料提供や動画作成ではなく、専門家との対面による実施に限られています。
転倒防止では、厚生労働省が示す「転倒等リスク評価セルフチェック票」に基づき、2ステップテスト、座位ステッピングテスト、ファンクショナルリーチ、片脚立位などの身体機能計測を行うことが示されています。
高年齢労働者の労災防止に向けた措置、2026年4月から事業者の努力義務に
令和7年5月に公布された労働安全衛生法の改正に伴い、令和8年4月1日から「高年齢労働者の労働災害の防止を図るため、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善、作業管理などの必要な措置を講ずること」が事業者の努力義務となりました。
これに伴い策定された指針では、事業場における安全衛生管理体制の整備、職場環境の改善、高年齢労働者の健康や体力の状況把握、安全衛生教育などが示されています。
安衛法の改正
関連する法改正として、「
労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」が第217回国会で成立し、令和7年5月14日に公布されました。
この改正では、個人事業者等に対する安全衛生対策、職場のメンタルヘルス対策、高年齢者の労働災害防止など、幅広い安全衛生対策が盛り込まれました。
今回の記事との関係で特に注目されるのが、令和8年4月1日から施行となっている「高年齢労働者の労働災害防止のための措置」です。
高年齢労働者は、他の世代と比べて労働災害の発生率が高く、災害が起きた際の休業期間も長くなる傾向があるとされています。
こうした背景から、令和8年4月から、事業者に対して高年齢労働者の特性に配慮した措置を講じる努力義務が設けられました。
また、国において、事業者による措置の適切かつ有効な実施を図るための指針を定めることとしており、令和8年2月10日に指針が策定・公表されています。
高年齢者の労働災害防止のための指針
令和2年3月には「
高年齢者の労働災害防止のための指針」が策定・公表されました。
本指針は、令和8年4月1日の指針適用に伴い廃止された「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)を参考に策定されており、基本枠組みや具体的な対策など、多くの内容が踏襲されています。
一方で、エイジフレンドリーガイドラインは労働安全衛生関係法令と相まって推進される「ガイドライン」でしたが、「高年齢者の労働災害防止のための指針」は労働安全衛生法第62条の2第2項に基づく「指針」として公表されています。
この点で、従来のガイドラインよりも、事業者が高年齢労働者対策を進める際の、より明確な基準として位置づけられたといえます。
また、エイジフレンドリーガイドラインでは、主に高年齢労働者を対象とした体力チェックが想定されていましたが、「高年齢者の労働災害防止のための指針」では「身体機能の低下は高年齢者に限られるものではない」としています。
事業場の実情に応じて「青年、壮年期から体力チェックを実施することが望ましい」として、高年齢労働者対策を起点としつつ、青年期・壮年期からの予防的な体力把握にも視野が広がっている点も、今回の指針の特徴です。
早めの対応が必要
令和8年度エイジフレンドリー補助金と、その背景となる労働安全衛生法の改正・高年齢者の労働災害防止のための指針の策定について過去の法令などを踏まえて情報をまとめました。
高年齢労働者の労働災害防止は、予算の増額もされており、法改正、指針の策定、補助金の拡充が連動して進められている政策領域といえます。
一方で、「交付決定額が予算に達した場合、申請受付期間中であっても受付を締め切ります」と案内されており、また運動指導等の取り組みは2段階となったことから、活用を検討する場合は、早めの準備が求められます。
引用・参考
■ 高年齢労働者の安全衛生対策について(厚生労働省HP)
■ エイジフレンドリー補助金(厚生労働省HP)
■ 令和8年度エイジフレンドリー補助金(日本労働安全衛生コンサルタント会HP)
■ 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)(厚生労働省HP)