株式会社NTTデータ経営研究所は、厚生労働省の事業として取り組んだ調査研究「生活期リハビリテーションにおけるアウトカム指標の検討」の報告書を公開した。
これまで生活期リハビリテーションにおいては、「改善」だけでなく「状態の維持」や「非悪化」も効果と見なされるべきとされていたが、具体的で科学的妥当性のある評価指標は確立されていなかった。
本調査事業では、生活期リハビリテーションにおけるアウトカム評価指標の立案に向けて、アンケート調査や関係団体や専門家等へのヒアリングを実施。それらの情報を踏まえて、課題や必要な項目等が整理された。
調査の概要
本事業は、介護保険下で提供される訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション、介護老人保健施設等において、アウトカム(成果)を適切に評価するための指標を明確化することを目的に、以下の4つの調査を柱として実施された。
● 文献調査:過去の検討会・研究成果を整理し、現状の課題を明示
● アンケート調査:全国2,500事業所に調査票を配布、772件(回収率31%)の有効回答を分析
● ヒアリング調査:事業所や関係団体、学識者など15団体・個人にヒアリングを実施
● 検討委員会:医師・理学療法士・作業療法士・介護支援専門員などで構成され、全3回にわたり議論を実施
評価指標の現状と課題を整理
文献調査では、平成26年度報告書などを通じて、「心身機能」「活動」「参加」の3要素にバランスよく働きかけ、QOLの向上を目指すという生活期リハビリテーションの基本的な考え方が確認された。従来の評価指標は身体機能やADLに偏っており、QOLや参加といった質的側面の評価が十分ではない点が課題として挙げられている。
アンケート調査の結果、現場で多く活用されている主な指標としては、身体機能に関する「TUG(Timed Up and Go)」、認知機能に関する「HDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)」、ADL評価の「BI(Barthel Index)」などが挙げられた。
一方で、「参加」「QOL」「介護負担」等の領域については、「適切な評価指標が存在しない」「評価を行っていない」とする回答が多数を占め、これらの分野について評価の枠組みの整備が急務であることが浮き彫りとなった。
ヒアリング調査では、「維持」や「悪化の抑制」も成果と捉える現場の意見が多く寄せられた。また、QOLや介護負担のように評価指標が浸透していない領域や、多様な利用者を単一基準で評価することの難しさも指摘された。アウトカム指標を現場で活用するには、簡便性や妥当性を備えることに加え、評価の目的や前提を丁寧に整理する必要性が示唆された。
検討会では、アンケート調査やヒアリング調査結果を踏まえ、指標案の立案に向けて議論された。「心身機能」「身体構造」「活動」には現場で運用されている既存の評価指標が存在する一方で、「参加」「心理」「社会的側面」についてはそうした指標がないことが明らかとなった。そのため、「参加」「心理」「社会的側面」の影響は、その評価方法そのものを検討することが今後の課題であると示された。
指標検討の全体像、完成までの工程
報告書では、単一の指標に基づく評価ではなく、生活期リハビリテーションが及ぼす多面的な「影響」を測ることが重要であるとの考えから、「心身機能・身体構造」「活動」「参加」「心理・社会的側面」の4分類ごとに評価指標の枠組みを整理している。また、想定される指標完成に向けた工程についても示された。
今後について、「生活期リハビリテーションが及ぼす影響を評価する指標を立案するためには、更なる調査研究を行い、本事業において整理した今後の検討課題について議論を行った上で、基本方針に基づいた検討を進めることが必要」と述べられている。
本報告書は、今後のLIFE(科学的介護情報システム)への反映や、介護報酬制度改定に資する基礎資料としても期待される。
引用・参考
◾️令和6年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業 生活期リハビリテーションにおけるアウトカム指標の検討 報告書(株式会社NTTデータ経営研究所HP)
◾️厚生労働省 老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業 事業概要・成果報告書(株式会社NTTデータ経営研究所HP)