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2025.10.31

PT・OT・ST養成校の定員割れ、地域偏在が深刻化 厚労省が充足率データを報告



10月27日に開催された社会保障審議会医療部会にて、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)の養成施設における定員充足率が、全国的に低下していることが厚生労働省よりデータで示されました。

養成施設の充足率の低下は、単なる一職種の課題にとどまらず、医療・福祉分野の全体が直面する「人材の構造的減少」を象徴するデータとなっています。

背景には、現役世代の急減と高齢化があり、2040年には大学全体の充足率が70%台まで落ち込むと予測されています。

医療従事者全体の確保が困難になる中で、職種間の需給バランスだけでなく、限られた人材で持続可能な医療提供体制を構築する視点が求められています。


PT・OT・ST養成施設の定員充足率の低下、厚労省が資料を提示

養成校の定員充足率は、医療関係職種の多くで低下傾向にあることが指摘されています。

今回、PT、OT、STの養成施設においても、この傾向は顕著であることが厚生労働省の資料で示されました。

PT、OT、STの各養成施設について、平成27年度(H27)と令和6年度(R6)の充足率を比較すると、3職種すべてで低下傾向が確認されました。



特に、作業療法士養成施設(養成施設区分)の充足率は、H27年度の77.2%からR6年度には52.6%へと大幅に低下しています。

また、言語聴覚士養成所(養成所区分)も75.5%から63.1%に減少しています。

理学療法士についても、養成施設区分では88.8%から78.0%に減少しており、養成施設の定員割れが進行していることが分かります。





充足率低下の構造的背景と深刻な地域偏在 ST養成所は35都道府県のみ

養成施設の充足率低下の背景には、主に18歳人口の急激な減少という構造的な要因があります。

18歳人口は1992年をピークに減少しています。大学進学率が上昇傾向にあったとしても、2026年をピークに大学進学者数が減少局面に突入すると予測されています。

この傾向が続くと、現在の大学の入学定員規模が維持された場合、2040年の定員充足率は70%台(72.75%~76.76%)にまで低下すると推計されています。

医療・福祉分野に限らず、今後は人材確保の困難があらゆる領域で顕在化していくとみられます。



こうした全国的な減少傾向は、地域ごとの学生確保の格差をさらに広げつつあります。

PTとOTの学校養成施設は令和6年度時点で全国47都道府県すべてに存在していますが、STの養成所は35都道府県のみに設置されている状況です。

令和6年度の都道府県別充足率を見ると、地域によって学生の確保状況に極端な差が生じています。

PT養成の例
京都府(129.2%)のように定員を大きく超える地域がある一方で、島根県(59.3%)や山口県(55.0%)など、極端に低い充足率の地域が存在します。

OT養成の例
京都府(129.5%)のように非常に高い充足率を達成している地域がある一方で、愛媛県が20.8%、さらに30%台の地域も複数見られます。

ST養成の例
滋賀県(205.0%)が高い充足率を示す一方で、愛媛県(20.0%)など低い地域も見られます。

こうした人口減少のスピードの違いは地域によって大きく異なり、将来的に、これまでと同じ医療提供が難しくなる地域が出てくる可能性を示唆しています。






厚労省が対応策を提示 遠隔授業やサテライト化を推進

医療部会の資料では、こうした危機的な状況を踏まえ「医療関係職種を目指す若者が地域において必要な教育を受けられる体制」を安定的に確保するための方策が、具体的な論点として提示されました。

厚生労働省は、以下のような環境整備の推進を提案しています。

地域における医療従事者の養成体制の確保

養成校における遠隔授業の活用、または地域や養成校の実情に応じたサテライト化の活用など、多様な学び手のニーズを踏まえた学習環境を整備する必要があるのではないか。

医療従事者の確保に資する環境整備等について

医療関係職種が自身の能力を高めながら、意欲・能力やライフコースに合わせた働き方・キャリアを選択できたり、地域において活躍の場が広がることや、他業種から医療分野への就業者の参入など、若者のほか社会人にとっても医療関係職がより魅力あるものとなるよう、各職種の状況に応じた養成課程を含めた環境整備が必要ではないか。

充足率の低下は、将来的な医療提供体制の維持に直結する深刻な問題です。

国は、医療従事者の需給の状況を見通しつつ、都道府県等が養成体制の確保のために講ずることが考えられる施策のメニューを整理していくことが求められています。


少ない人手で質を保つ時代に向けて

養成施設の定員充足率の低下は、単なる「人気の低下」ではなく、人口構造そのものが変わる中で避けられない現象といえます。

2040年以降、あらゆる産業が人材不足に直面する中で、医療分野だけが例外ではいられません。

今後は、「いかに人を増やすか」ではなく、「限られた人材でいかに医療・介護・リハビリテーションを持続させるか」が問われています。

そのためには、タスクシフト・タスクシェアの推進、ICTの活用、地域ネットワークによる連携強化など、現場の生産性を高める発想が不可欠になるとも考えられます。

同時に、教育現場においては、養成校の充足率低下が構造的に続くなかで、養成施設の数や配置そのものをどう適正化するかという制度的な議論も求められます。

厚生労働省はかつて、PT・OTの養成数について「2040年頃には供給数が需要数の約1.5倍に達する」との需給推計を示していました。

一方で、今回は医療・福祉分野全体の人材確保をテーマとした議論であり、不足する職種の人手をPT・OTで補うような方向に議論が傾かないか、注意深く見ていく必要があります。



過去には、平成10年8月27日の福岡地方裁判所判決(柔道整復師養成施設認可拒否事件)がありました。それ以降、行政が需給を理由に新設を制限することは困難とされ、結果的に需要が伸び悩む中でも養成施設の新設が続いてきたのが現状です。

リハビリテーション専門職の養成充足率の低下は、危機であると同時に、制度・教育・現場の仕組みを再構築する転換点でもあります。

2040年に向けて、あらゆる産業が人材不足に直面する中で、医療提供体制においても「少ない人手でも質を保つ——そのための“しくみづくり”」にむけて、制度の再設計が急務となっています。

引用・参考
第120回社会保障審議会医療部会(厚生労働省)
 資料1 医療機関の業務効率化・職場環境改善の推進に関する論点(PDF)

医療従事者の需給に関する検討会 理学療法士・作業療法士分科会(第3回)(厚生労働省)
 資料1 理学療法士・作業療法士の需給推計について
 資料2 理学療法士・作業療法士の需給推計を踏まえた今後の方向性について

関連タグ
厚生労働省 理学療法士 作業療法士 言語聴覚士
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