10月26日、障がい者の職業体験イベント「キャリアランド」が東京都錦糸町のすみだ産業会館で開催されました。
今回、PT-OT-ST.NETでは現地を訪れ、実際に参加した方々に「なぜキャリアランドに参加したのか」「障がい者雇用の課題や展望」についてお話を伺いました。
「キャリアランド」は、障がいのある方と企業が直接出会い、楽しみながら仕事を体験できるイベントとして昨年スタートしました。
今年は、障がい者雇用を推進する大手企業が多数出展し、職業体験や個別相談など“働く”をより具体的に感じられる内容となりました。前日(25日)に行われた「脳卒中フェスティバル」と合わせて、2日間で延べ1,500名を超える来場者が訪れ、昨年度を上回る盛り上がりを見せました。
当日は、医療従事者や学生ボランティアがスタッフとして会場をサポートしており、来場者には、車いす利用者や白杖を手にした視覚障がい者など、さまざまな当事者の方の姿が見られました。
【脳フェス・キャリアランド2025】ダイジェストMV職業体験ブースでは、本に値札を貼る作業や洋服のタグ付け、お札を数える「札勘」などへの挑戦や、実際に働いている障がい当事者の方とお話できる機会もあり、参加者の真剣な表情が印象的でした。
職業体験ブースの他にも、ステージイベントやリハビリ体験コーナーなども展開され、会場全体が活気に包まれていました。
少し緊張した様子の来場者にスタッフが優しく声をかける場面も多く、会場ではあたたかいコミュニケーションが生まれていました。
参加者たちが語る、「選べる」「出会える場」の大切さ
当事者の皆さまからは、【働ける企業を知れる機会】【人と出会える楽しさ】【理解してくれる企業との出会い】といった当事者に情報が届かないという課題を解消し、可能性を実感できる場となっていることが伝わりました。
「働きたいと思っても障がい者雇用をしている会社が少なく情報にありつけなかった。キャリアランドでは障がい者雇用をしている会社を直接知ることができ、職業体験を通して情報を得られることができるからいいなと思った」(30代男性)
「これから就職活動をする上では自分と近い立場の人とか、色んな人と出会いたいなと思って参加しました。1人でも色んな人が話しかけてくれて楽しいです」(10代女性)
「今は仕事を辞めてしまいましたが、障がいを理解してどうしたら一緒に働くことができるのか考えてくれる良い企業さんと出会える場はありがたいと思いますね」(30代男性)
職業体験ブースでは、作業の「できる・できない」だけでなく、障がいを理解しどのような関わりができるのかを直接企業の担当者と対話できることの大切さを感じました。
単なる体験イベントではなく、「相互理解」を深めるためのコミュニケーションが生まれていることが印象的でした。
障がい者雇用「理解から始まる採用」の難しさと手応え
キャリアランドには、障がい者雇用を積極的に進める企業が複数出展していました。
その中で、実際に話を伺った企業担当者からは、ブース出展を通して得たリアルな気づきや、障がい者雇用における採用現場での課題が見えてきました。
ブース出展を通じて得た気づき
「これまで精神疾患の方しか採用したことがありませんでしたが、キャリアランドに参加したことにより車椅子の方など身体障害者の方々と触れ合い、弊社でもできることがありそうだなと可能性を感じることができました。」(出展企業担当者)
課題を感じながらも、前向きに取り組む企業の姿勢
「弊社では多くの障がい当事者の方が働いてくださっています。人それぞれ個性もあれば、得意なことも異なるので適材適所に人員配置をして、しっかり評価できるように心掛けています。ブックオフ店舗のバックヤードに事業所を構えているため、バリアフリーなどの環境整備が整っていないこともあり、通勤や廊下幅など改善したい点はいくつかありますが、すぐに対応できないことはなるべく人のサポートでお互いに助け合いながら働ける環境づくりをしていきたいです。」(BOOKOFFグループ ビーアシスト株式会社担当者)
企業で働く当事者が語る、「理解される職場」とは
出展ブースのスタッフの中には、障がい当事者であり、企業で就業している方々も多く参加されていました。会場では、職業体験コーナーで来場者に元気よく案内していました。
その中で、実際にユニバーサルツーリズムを展開する大手旅行業者のHISで働く脳卒中当事者の方に、職場で感じる思いや変化について話を伺いました。
株式会社エイチ・アイ・エス 人事本部 ユニバーサルデザイン推進室
倉谷 嘉廣 さん(脳卒中当事者)
ー HISさんにご入社されてから半年ほどと伺いました。働いて感じるやりがいや、障がいを持った今の自分だからこそできていると感じることは何ですか?倉谷さん 脳卒中による失語症と右麻痺を発症して5年になります。障がいを持つ前と今の両方を経験したことで、職場における理解や支え合いの重要性をより深く感じるようになりました。
現在はユニバーサルデザイン推進室で、障がいを持つ方の旅行をサポートするユニバーサルツーリズムの認知活動に携わっています。
また、HIS協賛の「失語症の皆様のカラオケコンテスト」を通して言葉の障がいへの理解促進にも取り組んでいます。今後も多様な人が活躍できる社会づくりに貢献したいです。
隠していた病気の自分、発信することが誰かの力へ
参加者の中には、病気を公表し、新たな夢を抱きながら自らのキャリアを切り拓く挑戦者の姿もありました。お話を伺ったのは難病に指定されているベッカー型筋ジストロフィーの当事者である鳥越勝さん(通称:とりちゃん)です。
鳥越さんは12歳の時に病気を発症し、30歳まで周囲には病気であることを伝えずにいました。
当時は一般企業で勤めていましたが、病気の進行とともに電車通勤や企業理解の難しさを感じ、後に退職を決意。
現在は今の自分だからこそできることがあるかもしれないという思いから病気を公表し、仲間とともにYouTubeなどの発信活動に取り組まれています。
障害や難病のある方のための情報発信•コミュニティ「とりすま」https://www.torisuma.info/ ー 企業で働いていた当時の心境を教えてください。鳥越さん 会社で働いていた時は「病気だからこうじゃないといけない」と思って過ごしていましたし、やりたいこととか考えたこともありませんでした。
改めて、「12歳で病気と分かったことは何の意味があるのだろうか」と考え直してから、病気だからこそできること、役に立てることをしてみようと思い、発信活動を始めました。
ー 障がい者雇用に対して大切だと思うことを教えてください。鳥越さん 障がいがあっても得意なことや能力があるので、強みを伸ばして価値を提供し、それに対して対価を貰えるのが働くということなのかなと。
当事者もやりがいを持って働けて、企業側もしっかり貢献してもらえる、そのような関係性を築けるのが一番だなと思います。
PT-OT-ST.NET 鳥越さんの取材をしている際にも、発信活動を通じて出会った仲間の方たちが鳥越さんの周りに集まり、歓談される様子がありました。
キャリアランドは一人ひとりの挑戦や想いが交わる場所でもあり、企業やボランティアスタッフも含めて、障がい当事者と同じ目線で関わることで、互いに気づきや学びを得られる空間であると実感しました。
障がいを超えて楽しむ「キャリアランド」
キャリアランドでは職業体験以外にも、ステージイベントやスポーツイベントなど障がい関係なく楽しめる企画が繰り広げられていました。
車椅子に乗ったまま着れる着物を販売する「
キモノール」の試着ブースでは、日本盆踊り協会のスタッフが着付けを担当していました。お話を伺うと、ステージイベントで盆踊りを披露するために来ており、ステージまでの間に出店ブースのお手伝いをされていました。身体障がいのある方と関わることは初めてということで、実際に着付けなどで関わった感想を伺いました。
「これまで障がいのある方と関わる機会がほとんどなく、最初はどこまでお身体を動かしていいのかなど戸惑いもありました。ですが、皆さんご自身の身体について教えてくださり、確認しながら一緒に着付けをすることができました。実際に浴衣を着ていただいた時のお顔がとてもキラキラしていて、私も嬉しかったです。」
【PV】KIMONALL キモノールキャリアランドは、障がいの有無に関わらず、人と人が出会い、理解し合う場として広がりを見せています。
職業体験という枠を越えて、“ともに働く”“ともに生きる”社会の形を体感できる一日となりました。
脳フェス代表 小林さんよりメッセージ
キャリアランドは、障がいのある方が企業と直接出会い、職業体験や対話を通じて「自分にもできるかもしれない」と感じられる社会実験です。
ここで生まれた手応えや、つながりを一過性で終わらせないために、出会いの地図「ぴあまっぷ」を育てていきます。
ただ今絶賛クラウドファンディングで開発資金を募集中です。
https://camp-fire.jp/projects/878950/viewリアルとオンラインを行き来しながら、働く夢をあきらめなくていい社会を、一緒につくっていきませんか?
NPO法人ぼこでこ
一般社団法人脳フェス実行委員会
代表理事 小林純也
引用・参考
■ 脳卒中フェスティバル公式サイト
https://noufes.com/
■ キャリアランド公式サイト
https://noufes.com/event/2025tokyo/