財務省の財政制度等審議会(財政審)は12月2日、来年度予算編成および今後の財政運営の指針となる「令和8年度予算の編成等に関する建議」を取りまとめました。
これまで当サイトでもお伝えしてきた秋の審議内容が、最終的な「建議」として確定したかたちです。
次期診療報酬・介護報酬改定を見据えたこの提言書には、リハビリテーション専門職の働き方や評価体系を根底から見直すよう求める、踏み込んだ内容が記されています。
現場のPT・OT・STが知っておくべき重要ポイントをピックアップしてお伝えします。
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「人手」から「成果」へ ― ストラクチャー評価からの脱却
今回の建議で最も注目される点は、リハビリテーション医療における評価軸の転換です。
これまで診療報酬は、人員配置や設備基準といった「ストラクチャー(体制)」を整えることで高い点数が算定できる仕組みが主流でした。
しかし財務省は、この仕組みが「できるだけ少ない人手で質の高い医療を提供しようとする努力を阻害しているおそれがある」と明記しました。
具体的には、以下の方針が示されています。
1. アウトカム評価への転換
配置数そのものではなく、「患者の生活の質の改善」や「在宅復帰率」といった医療の質・成果(アウトカム)に基づく評価へ軸足を移すこと。
2. 人員配置の適正化
回復期リハビリテーション病棟などにおいて、基準上の必要数を超えて専門職を配置している施設が少なくないと指摘。「人員配置の適正化を徹底すべき」と明記。
つまり、「セラピストを多く雇って手厚くすれば収益が上がる」という従来の経営モデルに対し、明確に適正化すべき、としています。
より多くの人数を配置することが求められる疾患別リハビリテーション料の配置基準ではなく、入院料の配置基準に焦点を当てている点には、財政当局の主張を強調する意図がうかがえます。
また、「少ない人数でいかに高い成果を出せるか」を志向していることがわかります。
タスク・シフト/シェアの加速と業務範囲の拡大
医師の働き方改革や医療全体の効率化の観点から、他職種へのタスク・シフト/シェアが強力に推奨されています。
今回の資料では、医師から看護師やリハビリテーション職等に移管可能な業務を積極的に進めるべきと明記されました。
具体的に例示されている業務は以下の通りです(参考資料より)。
● リハ専門職・共通:リハビリテーションに関する各種書類の記載・説明・書類交付
● 作業療法士:作業療法実施にあたっての運動、感覚、高次脳機能、ADL等の評価
● 言語聴覚士:侵襲性を伴わない嚥下検査、嚥下訓練時の食物形態の選択、高次脳機能障害等の評価に必要な心理検査 等
これは職能の拡大であると同時に、医師の業務を肩代わりすることで、病院全体の生産性を向上させる役割を担うことを意味します。
賃上げの条件は「経営情報の見える化」と「生産性向上」
現場が期待する「賃上げ」についても言及されています。「経済・物価動向等への的確な対応」として、現場で働く人々の賃上げにつながる対応は不可欠とされました。
しかし、これは無条件のバラマキではありません。 建議では、診療所等の利益率が高水準を維持しているデータを示しつつ、報酬改定においては「メリハリ」が必要だと強調しています。
その判断材料として、「経営情報データベース」における職種別の給与・人数の提出を早期に義務化すべきとの提言がなされました。
リハビリテーション専門職を含む、医療従事者の職種別の給与実態がガラス張りにされ、その上で「生産性の向上」や「効率化」が達成されて初めて、持続的な賃上げの原資が認められるというロジックです。
介護分野:ICT活用と軽度者対応の厳格化
介護分野においても、生産性向上がキーワードとなっています。 見守りセンサーやインカム等のICT機器活用を前提とした「人員配置基準の緩和」が既に進められていますが、これをさらに推進する方向です。
また、要介護度が軽度(要介護1・2)な利用者に対する訪問介護・通所介護については、地域支援事業への移行に向けた検討を加速させることが示唆されています。
これは、専門職によるサービスから、ボランティアや地域住民も含めた多様な主体によるサービスへ切り替えることで、給付費を抑制しようという狙いがあります。
その他にも介護・障害福祉分野においては、利用者負担(2割負担)の見直し、ケアマネジメントの利用者負担導入、保険外サービスにおける「ローカルルール」問題の解消や、グループホームへの総量規制の導入といった内容が示されています。
令和8年度報酬改定に向けた準備を
今回の建議は、単なるコストカット論ではなく、「人口減少社会において医療・介護制度を維持するための構造改革」を迫るものといえます。
財務省の視点では、現場のリハビリテーション専門職には、以下の3点が求められています。
1. 成果へのコミット
単に単位数を稼ぐのではなく、患者のADL改善や在宅復帰という「結果」にこだわる。
2. 業務効率化
ICT活用やタスク・シェアにより、限られた人数で最大限のパフォーマンスを発揮する。
3. データへの意識
自施設の経営状況や自身のアウトカムを客観的な数字で捉える。
財政審の建議は、「リハビリテーション専門職がいれば点数が取れる」時代からの転換を求める内容ともいえます。
令和8年度の診療報酬改定、さらには今後の制度改定にどのような影響があるか注視するとともに、自身の働き方をアップデートしていく必要性も高まっています。
引用・参考
■ 令和8年度予算の編成等に関する建議(令和7年12月2日)(財務省HP)