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2026.06.04

【臨床】変形性膝関節症の内側痛 |原因が「半月脛骨靭帯と脂肪体の可動性障害」だった2症例



このような患者さんを担当した経験はありませんか?

● McMurrayテストやApleyテストはとくに陽性ではない
● 可動域制限もそれほど目立たない
● でも、正座やあぐら、立ち上がりのときに「ズキっ」と痛む
● MRIや画像所見で半月板変性はあるけれど、それで本当に今の痛みが説明できているか、少し腑に落ちない

こうした症例、経験がある方も少なくないのではないでしょうか。

今回紹介する症例報告(Minamoto et al., Cureus, 2026)は、そのモヤモヤに対して「半月脛骨靭帯(meniscotibial ligament: MTL)とその下の脂肪体」という切り口で臨床的なヒントを与えています。


まず解剖のおさらい:MTLってどこ?

内側側副靭帯(MCL)には浅層と深層があります。深層のうち、半月板から脛骨に付着する部分を半月脛骨靭帯(MTL)と呼びます。

筆者らは、「MCLの深層にはMTLが含まれており、これが内側半月板(MM)に直接付着して生理的な可動性に貢献している」と解剖学的背景を整理しています。



また、変形性膝OAにおいては脛骨骨棘の形成がMTLを外側に引き伸ばし、結果としてMMの逸脱(extrusion)や可動生異常につながると述べています。

そしてこのMTLの脛骨付着部の直下に、小さな脂肪体が存在することが解剖学的に確認されています。

筆者らはこの脂肪体について、「靭帯張力の変化に受動的に適応し、スムーズな半月板の動きを促進する変形可能なインターフェースとして機能する」と述べており、単なる充填組織ではなく機能的な構造として位置づけています。


論文で何が起きていたか:2症例のポイント

症例1(60代男性)

● 深屈曲(あぐら・スクワット)での内側膝痛
● 歩行・階段昇降は問題なし
● 半月板・MCLのストレステストは陰性

超音波で確認したところ、健側では脛骨内旋時にMMが関節外へスムーズに移動し、外旋時に関節内へ引き込まれる動きが観察されました。

一方患側では、脛骨を回旋させてもMMの変位が著明に乏しく、脛骨縁を乗り越えることができない状態でした。

筆者らは「患側ではMCL・MTLの形状変化が乏しく、内旋時にMMが脛骨縁を越えることができなかった」と記述しており、これをMTLおよび脂肪体の適応性低下によるものと解釈しています。


症例2(60代女性)

● 立ち上がり・階段昇段での内側膝痛
● 可動域改善(ROM訓練)後も痛みが残存
● 超音波で確認したところ、脛骨骨棘によるMMの引っかかりが観察された

筆者らは「脛骨骨棘とMMの機械的干渉が、動作に関連した痛みの再現に対応していた」と述べており、骨棘の存在によってMMが関節腔への出入りを円滑に行えない状態になっていたことを示しています。


何をしたか:介入のポイント

MCLを遠位から近位方向へ押し上げてたるませながら(近位方向に組織を寄せてslackをつくりながら)、脛骨を内旋する



イメージとしては、MCLをピンと張った状態から少し「ゆるめる」方向に手で寄せ、その状態を保ちながら脛骨を内旋させる操作です。「滑らせる」というより、組織を近位方向に寄せてたるみを作るという感覚に近いです。

筆者らは、この操作の意図について「MCLを遠位から近位へ寄せることでMTLの形状変化を誘発し、靭帯下に空間を作ることで、脛骨回旋時にMMがその空間へ移動しやすい環境を整えるものだ」と説明しています。

すなわち、MTLの張力を緩め、その下の脂肪体の適応性を回復させることで、MMの生理的な動きを促すことが狙いです。

介入直後にMMの動きが超音波で改善し、痛みも即時軽減。週1回の治療を継続して、症例1では2か月後に疼痛完全消失、症例2では12週でスナッピング解消・痛みNRS1まで改善しています。


この症例報告が問いかけること 「 画像・静的テスト・ROMだけで評価が完結していないか?」

「画像所見で説明できる」と思い込んでいないか?

筆者らは冒頭で、「変形性膝OAにおける内側膝痛は、半月板損傷や骨棘形成などの静的構造異常のみで説明できないことが多い」と明言しています。

またEnglundらの研究(NEJM 2008)を引用しながら、「中高年の無症候性例でも偶発的な半月板所見がMRIで高頻度に認められており、静的な構造変化だけでは内側膝痛を十分に説明できない」と述べています。


静的な評価だけで足りているか?

筆者らは「可動域制限はほぼなく、半月板や靭帯のストレステストも陰性だったにもかかわらず、超音波では明らかなMM可動生異常を認めた」と記述しています。

つまり通常の整形外科的テストをパスしてしまうような症例でも、動きの中でMMがどう動くかを評価することで、新たな病態が見えてくる可能性があります。


脂肪体への介入を考えているか?

筆者らは「MTL下の脂肪体の変形能の低下が靭帯の適応性を制限し、結果としてMMの障害と脛骨骨棘との局所的な機械的ストレスを引き起こしていた可能性がある」と考察しています。

また慢性的な機械的ストレスが脂肪組織の線維化や粘弾性低下を引き起こすという先行研究にも言及しており、脂肪体が単なる付随構造でなく介入ターゲットになり得ることを示唆しています。


超音波がなくても使える視点

この論文は超音波ありきに見えますが、筆者らの評価の本質は「MMは動的に動く構造であり、その動きを制限している因子を探す」という発想にあります。

超音波がなくても、以下の点を意識するだけで評価の解像度は変わるかもしれません。

● 脛骨内側近位(MTL付着部)への局所的な圧痛の有無
● 膝軽度屈曲位での脛骨回旋によって症状が再現されるか
● MCLの遠位部を近位へ押し上げたとき、痛みや可動感に変化があるか
● 立ち上がりや深屈曲の「どのフェーズで痛むか」の精査

筆者らは最後に、「可動生評価とターゲットを絞った理学療法の組み合わせは、静的画像所見だけでは十分に説明できない内側膝痛をもつ症例において、有用な臨床アプローチとなり得る」と結論づけています。

症例は2例のみで、エビデンスとしての強度は高くありません。しかし、あなたの担当患者さんのなかに「なんでこの人、痛いんだろう」と感じているケースがあれば、MTLと脂肪体という切り口で一度見直してみる価値はあるかもしれません。


■ 論文情報

【掲載誌】Cureus 18(1): e102356(2026年1月)
【論文タイトル】Two Cases of Physical Therapy Focusing on the Meniscotibial Ligament and Its Associated Fat Pad for Medial Knee Pain in Knee Osteoarthritis
【著者】Minamoto Y, Takashima H, Honma C, Nakashima K, Chiba S
【DOI】10.7759/cureus.102356

引用・参考
◾️Minamoto Y, Takashima H, Honma C, Nakashima K, Chiba S. Two Cases of Physical Therapy Focusing on the Meniscotibial Ligament and Its Associated Fat Pad for Medial Knee Pain in Knee Osteoarthritis. Cureus. 2026;18(1):e102356. Published 2026 Jan 26. doi:10.7759/cureus.102356

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