「足が攣ったときにピクルスの漬け汁を飲むと、1分半ほどで治まる 」そんな報告があるのをご存じでしょうか。
米国アスレティックトレーナー協会の学会誌「Journal of Athletic Training」に、運動誘発性筋痙攣(exercise-associated muscle cramp:EAMC)に関するエビデンスレビューが掲載されています。運動中や運動直後に足などがつる、あの“つった”状態のことです。1900年から2020年までの文献を対象に病態・治療・予防を整理し、16項目の推奨をSORT基準でグレード評価しています。
SORT基準は、症状の改善など患者が実感できるアウトカムを重視した3段階の評価で、Aが最も強い推奨にあたります。Aは一貫性のある良質なエビデンスに基づくもの、Bは限定的または一貫性を欠くエビデンスに基づくもの、Cは専門家の合意や通常診療に基づくものです。
ピクルスジュースは水より37%速く痙攣を消失させる
本レビューが治療手段として取り上げているのが、酢や唐辛子など、口や喉のセンサー(TRPチャネル)を刺激する成分を含む食品です。その代表例がピクルスの瓶に残る漬け汁(ピクルスジュース)です。
Millerらの研究では、電気刺激により誘発した筋痙攣に対し100mL未満を摂取させたところ、次の結果が得られたと報告されています。
本レビューはこれを推奨グレードBと評価しています。適用にあたっては、①100mL未満の少量投与、②食物アレルギーの有無の確認、③2分以内に改善しない場合は他手段へ移行、という3つの条件が付帯されています。
なお、対象はアスリートに限られません。2022年には筋痙攣を有する肝硬変患者82名を対象としたランダム化比較試験が報告され、痙攣発現時の漬け汁摂取により重症度の有意な低下が確認されました。有害事象の報告はありませんでした。
なぜ筋痙攣は起きるのか
そもそもなぜ筋痙攣が起きるのでしょうか?
筋痙攣の原因については、「脱水と電解質不足」が定説とされてきました。大量の発汗でナトリウムや水分が失われ、それが神経や筋の興奮性を乱すという考え方です。「攣ったら水分と電解質を」という指導は、この理解に基づいています。
しかし本レビューは、この説を主要因ではないと論じています。痙攣を起こした選手と起こさなかった選手で血漿電解質濃度に差が出ないこと、脱水も電解質喪失も全身性に生じるにもかかわらず痙攣は活動中の筋にのみ発生することなどが、その根拠です。
現在支持されているのは、疲労によって神経の興奮と抑制のバランスが崩れるという説明です。疲労が蓄積すると筋紡錘からの興奮性の入力が増え、ゴルジ腱器官からの抑制性の入力が減少します。この不均衡がα運動ニューロンの過剰興奮を招くとされています。
痙攣が腓腹筋やハムストリングスなど多関節筋に好発し、競技終盤に集中することとも整合すると説明されています。
作用機序として想定されるのは、口腔・咽頭の反射
注目されるのは、ピクルスジュースの効果が電解質補充によるものではないという点です。
Millerらが血漿指標を測定したところ、血漿量・血漿電解質濃度・血漿浸透圧のいずれにも変化は認められませんでした。投与量が100mL未満であることを踏まえれば当然ともいえ、電解質が体内に分布する前段階で痙攣が消失していることになると、著者らは指摘しています。
現在有力とされているのが、一過性受容体電位(TRP)チャネルを介した反射性抑制です。TRPチャネルは口腔・咽頭・食道・胃に分布し、温度および刺激性化学物質を感知します。この感覚入力が求心性に脊髄へ伝達され、過剰興奮状態にあるα運動ニューロンを抑制するという機序が想定されています。
摂取後約85秒とわずかに遅れて効果が発現する点も、口に入れた直後の反応ではなく、口腔から咽頭にかけての感覚入力が神経経路を介して作用する解釈と整合します。
推奨グレードAは静的ストレッチ
本レビューは16項目の推奨をSORT基準で評価しています。主要なものは次のとおりです。
【推奨A】寛解まで穏やかな静的ストレッチを実施する
【推奨A】キニーネ含有製品(トニックウォーター等)を使用しない
【推奨B】酢酸・TRPチャネル作動物質を用いる(100mL未満、アレルギー確認のうえ)
【推奨B】神経筋再教育・プライオメトリクス・筋力トレーニングを導入する
【推奨B】競技と同等の強度・環境下でトレーニングする
【推奨C】予防目的の静脈内輸液を行わない
ピクルスジュースに付与されたBは、効果を示す報告はあるものの、エビデンスの一貫性や質が限定的であることを意味します。
また、痙攣が寛解した後も感受性は高い状態が持続するため、初回発作後1時間程度は安静や穏やかなストレッチの継続といった治療を続け、再発を防ぐことが推奨されています。
ピクルスジュースは本当に効くのか ー 追試では有意差を示せず
本レビュー以降にも、関連する報告が出ています。
2021年には、痙攣を起こしやすい成人11名を対象に、筋痙攣後にピクルスジュースの摂取、ピクルスジュースで口をすすいで吐き出す、水の摂取の3条件を比較した研究が報告されました。
痙攣消失までの時間は水を100%としたとき摂取群82.8%、口すすぎ群68.6%でしたが、ばらつきが大きく統計的な有意差は認められていません。使用した市販製品の酢酸濃度(0.260%)が、先行研究で用いられた漬け汁(0.406〜0.796%)より低かったことが限界として挙げられています。
ピクルスジュースが示す、筋痙攣対策の転換点
本レビューは脱水・電解質不均衡説を主要因ではないと結論づけ、急性期の第一選択として静的ストレッチに推奨グレードAを、ピクルスジュースなどの酢酸・TRPチャネル作動物質を推奨グレードBに付与しました。
「筋痙攣は脱水と電解質不足によって生じる」という前提をいま一度見直し、最新の知見を踏まえながら運動誘発性筋痙攣対策を行うことが重要といえます。ぜひ明日からの現場での知見の一つとしてアップデートしてはいかがでしょうか。
■ 論文情報
【掲載誌】Journal of Athletic Training【論文タイトル】An Evidence-Based Review of the Pathophysiology, Treatment, and Prevention of Exercise-Associated Muscle Cramps【著者】Kevin C. Miller, Brendon P. McDermott, Susan W. Yeargin, Aidan Fiol, Martin P. Schwellnus【DOI】10.4085/1062-6050-0696.20
引用・参考
■ Miller KC, et al. An evidence-based review of the pathophysiology, treatment, and prevention of exercise-associated muscle cramps. J Athl Train. 2022; 57, 1. DOI: 10.4085/1062-6050-0696.20
■ Miller KC, et al. Reflex inhibition of electrically induced muscle cramps in hypohydrated humans. Med Sci Sports Exerc. 2010; 42, 5. DOI: 10.1249/MSS.0b013e3181c0647e
■ Miller KC. Electrolyte and plasma responses following pickle juice, mustard, and deionized water ingestion in dehydrated humans. J Athl Train. 2014; 49, 3. DOI: 10.4085/1062-6050-49.2.23
■ Tapper EB, et al. Pickle juice intervention for cirrhotic cramps reduction: the PICCLES randomized controlled trial. Am J Gastroenterol. 2022; 117, 6. DOI: 10.14309/ajg.0000000000001781
■ Garrison SR, et al. Magnesium for skeletal muscle cramps. Cochrane Database Syst Rev. 2020; 9. DOI: 10.1002/14651858.CD009402.pub3
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■ Georgieva J, et al. Effectiveness of mouth rinsing versus ingesting pickle juicefor alleviating electrically induced cramp in physically active adults.Appl Sci. 2021; 11, 24. DOI: 10.3390/app112412096