日本スポーツ理学療法学会の標準化検討委員会は7月23日、スポーツ理学療法評価の標準化を目的とした評価項目の検討結果を公表しました。
対象疾患は「足関節捻挫」「投球障害(肩・肘)」「膝前十字靱帯損傷」の3疾患で、約1,400名の会員アンケートを経て、合意形成された内容として整理されました。
スポーツ現場における評価の質向上と復帰判断の標準化に向けて活用が期待されています。
標準化の背景と作成プロセス
スポーツ理学療法の臨床現場では、競技復帰(Return to Sport:RTS)の判断に用いる評価項目が施設・担当者によって大きく異なり、エビデンスに基づいた標準的な評価プロセスの確立が長年の課題でした。
今回の検討では、修正Delphi法(Modified Delphi Method)が採用されました。この手法は、複数回のアンケートと意見のフィードバックを繰り返すことで専門家集団の合意を導くものであり、ガイドライン策定においても広く用いられています。
対象は日本スポーツ理学療法学会会員で、延べ1,400名を超える専門家が最大3回のアンケートに参加しました。
標準化に向けた評価項目の抽出・絞り込みにあたっては、疾患ごとに専門チームが組まれ、大学病院・スポーツクリニック・プロスポーツチームなど多様な臨床背景を持つ理学療法士が参画し、検討が進められました。
各疾患・病期別の評価項目一覧
評価項目はいずれの疾患においても、競技復帰の段階(病期)に対応した形で設定されています。
国際的に広く用いられている「Return to Participation(RTP)」「Return to Sport(RTS)」「Return to Performance(RTPerf)」のフレームワークを採用しており、段階が進むにつれて評価項目の数と複雑性が増す構造となっています。
足関節捻挫
足関節捻挫の病期は、以下の3段階で整理されています。
● Return to Participation(急性期〜スポーツ競技部分復帰):26項目
● Return to Sport(部分参加〜競技復帰):34項目
● Return to Performance(競技復帰〜受傷前レベル):34項目
いずれの病期でも、患者主観評価(足部・足関節機能、不安定性)、心理的因子、腫脹・疼痛、関節可動域(背屈・底屈・外がえしほか)、静的アライメント、筋力評価、姿勢バランス(静的・動的)が共通して含まれています。
Return to Sport以降では、筋持久力評価、機能的パフォーマンステスト、アジリティテスト、競技特異的動作が追加される点が特徴となっています。
膝前十字靱帯損傷
膝前十字靱帯損傷では、手術を前提とした4段階設定が採用されています。
● Preoperative(受傷〜手術):18項目
● Return to Running(術後〜ランニング開始):30項目
● Return to Participation(ランニング開始〜スポーツ競技部分参加):34項目
● Return to Sport & Performance(部分参加〜完全復帰):31項目
術前の段階(Preoperative)では腫脹・疼痛・ROM・膝周囲組織機能・筋肉量・姿勢動作評価・心理的側面・身体活動レベルが評価対象となっています。
段階が進むに伴い体幹・股関節・足関節の評価、動的バランス、ジャンプ・ホップ跳躍距離、アジリティ、持久力が追加されます。
Return to Sport & Performance段階では、競技特異的動作まで評価範囲が拡張されており、再受傷リスク管理の視点が反映されています。
投球障害肩
投球障害肩は、以下の3段階で整理されています。
● Return to Participation(投球禁止期):11項目
● Return to Sport(復帰期):15項目
● Return to Performance(完全復帰期):12項目
Return to Participation段階では肩甲上腕関節・肩甲胸郭関節の可動域・筋力・アライメント評価、肩甲骨動的安定性、上腕骨頭求心性の評価が中心となっています。
Return to Performance では投球動作分析(肘下がり、Hyper Angulation、体幹早期回旋、軸足のtriple flexionなど)および投球パフォーマンス(球速・回転数・立ち幅跳びなど)が加わっています。
投球障害肘
投球障害肘も同様に、以下の3段階で整理されています。
● Return to Participation:15項目
● Return to Sport:16項目
● Return to Performance:12項目
投球障害肩の評価との共通性が高い一方、肘特有の指標として超音波エコーによる手関節掌屈・手指屈曲時の肘関節内側裂隙距離の変化や、ring-down artifactの有無が、Return to Sport・Return to Performance段階における動的安定性評価として位置づけられています。
スポーツ現場で抑えておきたい標準化評価
今回公表された評価項目は、今後のガイドライン策定や臨床研究のベースラインとして活用されることが期待されます。
スポーツ現場に携わる理学療法士にとって、自施設の評価プロトコルを確認する機会として、各疾患の検討結果の資料を一読することは参考になります。
詳細は日本スポーツ理学療法学会の公式ホームページよりご確認ください。
引用・参考
◾️ スポーツ理学療法評価の標準化に向けた評価項目の検討結果について(日本スポーツ理学療法学会HP)