
舞台芸術に携わるパフォーマーの身体を医学的にサポートし、パフォーマンスの向上や怪我の予防・治療に役立つ知識を提供する書籍『舞台医学実践入門』が、新興医学出版社より発刊されました。
本書は、舞台上で活動する音楽家、ダンサー、俳優、演芸家など、さまざまな表現者の健康管理に関する実践的な内容を網羅し、舞台特有の外傷や疾患への具体的なアプローチを紹介する一冊となっています。

「舞台医学」は、舞台芸術に特有の身体的負荷や疾患に焦点を当てた医学分野です。スポーツ医学と同様に、演者の健康維持とパフォーマンスの最適化を目的とし、リハビリテーション、トレーニング、障害予防、メンタルヘルスケアなど、多岐にわたる側面をカバーしています。
本書は、舞台医学の専門家が携わり、それぞれの分野における知識と経験を活かして執筆されています。
「舞台表現者の運動器障害とリハビリテーション」を担当する理学療法士の浦邉幸夫氏と石原萌香氏は、舞台表現者が抱える運動器障害に焦点を当て、運動器障害に起こる問題やゴール設定などを詳しく解説し、リハビリテーションの具体的な方法を紹介しています。

また、「バレエ外来(名古屋)」を担当する医師の菱田愛加氏は、バレエダンサー特有の疾患や負傷の治療法について執筆し、実際の診療現場での取り組みをもとに、どのようなケアが必要なのかを詳細に説明しています。
各章では、テーマごとの解説に加え、実際の症例をもとにしたケーススタディや、舞台現場での実践における課題も提示されており、より実用的な知識が身につく構成となっています。
今回、本書の企画に携わった東京健康リハビリテーション総合研究所所長/東京大学名誉教授である武藤芳照氏に、発刊の経緯や見どころについてコメントをいただきました。
ー 本書を執筆するに至ったきっかけについて教えてください。
武藤先生 本書の発刊にあたっては、2018年に出版された『舞台医学入門』(新興医学出版社)が舞台医学の旗印的な意義を果たしていましたが、今回は(一社)日本舞台医学会の設立を機に、より実践的な内容に焦点を当てた一冊を目指しました。
舞台医学の臨床現場での展開の仕方や、舞台表現の現場での医療対応のあり方を具体的に示すことを企図し、「実践」にこだわった構成となっています。
ー 執筆に際して考慮された点を教えてください。
武藤先生 2014年に始まった日本舞台医学研究会の9回の歴史をどのように生かし、研究発表の内容を整理して構成するかに多くの時間を要しました。また、各執筆者の決定にも慎重を期し、舞台医学の現場での実践を的確に伝えられるよう配慮しました。
さらに、個々の舞台芸術家の名前や顔が特定されないようにするため、種々の配慮や工夫を施し、それぞれの現場の了解を取る手続きにも細心の注意を払いました。
ー 特にこだわったポイントを教えてください。
武藤先生 本書の表紙デザインには特にこだわりがありました。作家・五木寛之氏が著書『錆びない生き方』(毎日新聞出版、2024年)で『舞台医学入門』の表紙を「美しい本」と評価したことを受け、それに負けない魅力的なデザインを目指しました。
デザイナーと何度も協議を重ね、前作のバレエのイメージに加えてピアノの要素を取り入れることで、音楽と舞踊に象徴される舞台芸術の医学を表現しました。
本書の前に出版された「舞台医学入門」の表紙
ー この本を手に取った人(セラピスト)に、どのような行動や変化を期待しますか?
武藤先生 本書を手に取ったセラピストの方々には、舞台芸術家が抱える姿勢や動作、四肢・手指の表現、発語・滑舌といった課題に対して、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)それぞれの専門性を活かし、調整や改善を図る役割を担っていただきたいと考えています。
これにより、個々の身体機能と身体表現能力が向上し、より質の高い舞台芸術の創出に貢献することが期待されます。
ー 読者へのメッセージ
武藤先生 舞台医学は、日本ではまだ発展途上の分野ですが、今後の努力次第で専門家としての地位を築くことが可能です。
それぞれの療法士としての専門知識や技術を磨き、臨床現場で医師と連携しながら、舞台芸術における医療の発展に貢献してほしいと願っています。
「人生は舞台、男も女も皆役者」(シェイクスピア『お気に召すまま』より)という言葉のように、舞台医学という新たなフィールドでの活躍を期待しています。
【書籍概要】
書 名:舞台医学実践入門
監 修:日本舞台医学会
編 集:
武藤芳照(東京大学名誉教授 / 東京健康リハビリテーション総合研究所所長)
山下敏彦(札幌医科大学理事長・学長)
田中康仁(奈良県立医科大学整形外科教授)
山本謙吾(東京医科大学病院病院長 / 東京医科大学整形外科学分野主任教授)
発行者:株式会社 新興医学出版社
価 格:4,400円+税
引用・参考
■ 舞台医学実践入門(株式会社 新興医学出版社HP)
https://shinkoh-igaku.jp/mokuroku/data/135.html
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