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2025.04.28

労災防止から生産性向上へ イオンと日本理学療法士協会の共同事業レポート公開



近年、企業で働く理学療法士の役割に注目が集まる中、イオン株式会社と日本理学療法士協会は連携し、小売業における労災防止を目的とした共同事業を進めてきた。その成果と今後の展開についてまとめた報告書が公開された。

同報告書では、小売業で多発し問題視されている転倒災害に対して、理学療法士による指導がどの程度の便益を産生するかなど、社会的インパクトについても分析された。

シュミレーション分析の結果、イオン社における労働者に対して理学療法士の指導下で、理学療法士によって考案された「1分間体操」を導入した場合、4店舗(1,225人)で10年間あたり約22億7千万円の増分便益が得られる可能性が示された。


小売業の現場で労働衛生を支える理学療法士

本事業では、小売業における労働災害の課題に対して、現場の労災リスクを可視化し、従業員の健康保持を支援するため、次の二つの施策が行われた。

健康体力測定会の実施

理学療法士が個別に筋力、平衡性、柔軟性、骨密度を測定し、腰痛や転倒リスクの評価を実施した。その結果に対して、科学的根拠に基づくフィードバックが行われた。

「1分間体操」の開発・導入

短時間で血流促進、転倒予防、腰痛予防を図る「イオン1分間体操」を開発し、始業時に全従業員で実施する仕組みを導入。継続的に実施できるよう動画の提供、広報体制などが整備された。

これらの取り組みは、単なる啓発にとどまらず、職場の安全性を高めるための科学的介入として位置づけられた。




労災リスクと損失額の変化

理学療法士の関与による本事業では、労災防止において一定の成果が認められた。

転倒ハイリスク者の減少
1分間体操を継続した従業員において、転倒ハイリスク者が15.3%減少した。
※転倒ハイリスク者は、複数回の転倒、または単回転倒かつ転倒恐怖感「あり」の場合と定義

慢性腰痛の改善
1分間体操を継続した従業員において、「ときどき実施以上」では、統計学的には有意ではないものの、10.1%の減少傾向が示された。

労災発生率の低下
体操導入店舗では、導入していない店舗に比べ、転倒労災の累積発生率が千人対で2.2人の減少と有意に関連した。

これらの結果は、小売業界の転倒労災の対策において、理学療法士の関わりが職場の安全、労働衛生の向上に寄与できる可能性を示している。


費用対効果の観点からみた理学療法士の意義

各店舗の全体人数と性比を考慮した推定年間損失額の推定では、健康問題による年間損失額は1店舗あたり約4700~4900万円に達するとの結果が示された。

これに加え、今回実施されたシミュレーション分析では、理学療法士の指導下で考案された「1分間体操」の導入により、4店舗(1,225人)を対象とした場合、10年間で総額約22億7千万円の増分便益が得られると推計された。

今回の事業では、体操の実施によって転倒リスクの低下、労働生産性の向上、医療費負担の軽減、健康関連QOL(Quality of Life)の改善が確認されている。

また、理学療法士1名を常勤雇用した場合でも、雇用コストを大幅に上回る経済効果が見込まれた。

これらの結果は、小売業に対する理学療法士の介入が単なる労災防止にとどまらず、企業の生産性向上、医療費削減、社会的便益の創出に寄与する可能性を示している。


小売業界から広がる理学療法士の活躍の場

イオン社と日本理学療法士協会は、得られた知見を活用し、「イオンで働くと健康になる」の実現に向けて、以下のアクションプランを提案している。

● 転倒リスクを把握するチェックリストの標準化

● 売り場での顧客向け体操プログラムの導入検討

● 全国の職場での「1分間体操」普及と転倒リスク判別方法の導入

● 企業や地域社会への広報活動の強化

● 高年齢労働者の労働参加支援、女性活躍推進に向けた制度整備

● 理学療法士が企業現場で活躍しやすくする仕組みの提言

● 高年齢労働者向け転倒予防プログラムの標準化、国際標準化への取り組み

これらにより、従業員だけでなく顧客、地域社会の健康づくりにも貢献する仕組みを目指すとしている。

さらに、本事業の成果を社会に実装し、政策提言や労働災害防止計画への参画などへ展開するアクションプランも提案されている。

本プロジェクトは、理学療法士が企業の現場において、労災防止や生産性向上に貢献できる可能性を示している。今後は小売業のみならず、企業内外のさまざまな産業分野で活躍が広がっていくことが期待される。


引用・参考
◾️イオン株式会社と日本理学療法士協会の共同事業 「健康・安全に活躍し続けられる小売業等の労働災害防止等の共同事業: 仮説、成果等に関するレポート」報告書(日本理学療法士協会HP)

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産業保健 日本理学療法士協会 転倒予防
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