2025年に国内初の遠隔心臓リハビリテーション用プログラム医療機器(SaMD)が薬事承認され、令和8年度診療報酬改定での保険収載に大きな期待が寄せられていました。
しかし、診療報酬改定に向けて示された「短冊(個別改定項目案)」や2026年度診療報酬改定の詳細資料から、今回は保険収載の対象とはなりませんでした。
高まった期待と現実
2025年6月、株式会社リモハブの「リモハブ CR U」が国内初の遠隔心臓リハビリテーション支援用プログラム医療機器として薬事承認を取得しました。
これにより、通院困難な心不全患者等に対する新たなリハビリテーション提供体制として、2026年度改定での保険適用(診療報酬点数の新設)になる可能性ありました。
しかし、2025年12月24日の中医協でも現在での保険収載に否定的な意見が診療側、支払側双方から出されるなど、令和8年度診療報酬改定において、新たな形でのリハビリテーション提供体制の構築は、見送られる結果となりました。
中医協での議論:診療側・支払側双方が「時期尚早」
2025年12月24日の中医協総会では、情報通信機器を用いた心大血管疾患リハビリテーションについて議論が行われました。
厚生労働省としては薬事承認をもとに、保険収載に向けた提案を行った形ですが、その前段階で厳しい意見が相次ぐこととなり、協議会としては前向きに推し進める意見の一致を見ることはできませんでした。
最大の壁は「安全性」に関する懸念でした。治験データにおいて、遠隔心リハ群の有害事象発生率が49.1%(通院群は35.7%)と高かったことが指摘されています。
診療側(医師会)委員からも、現在の心大血管リハビリテーション料の施設基準(除細動器や酸素供給装置の設置、緊急手術体制など)と比較し、在宅での安全基準が未整備なままオンライン化を進めるのは「時期尚早」との指摘がありました。
支払側(健保連)委員からも、機器との因果関係は否定されているものの、「病院ならば迅速な対応が可能だが、在宅ではどうか」と懸念が示され、まずは遠隔リハビリテーションの安全な運用方法を確立した先の保険適用の議論を求めました。
議論の流れとして、診療側・支払側双方が「安全な運用の仕組み確立が先」との認識で一致しており、最終的に短冊(個別改定項目案)や最終的な報酬改定についての公表資料の中でも、項目立てて示されませんでした。
日本心臓リハビリテーション学会のステートメントでも、緊急時の対応(ケアギバーの存在など)について慎重な姿勢が示されており、これらを担保する診療報酬上の要件設定が十分に整備されていないことが一つの要因として考えられます。
技術は進歩している
「リモハブ CR U」に関して、薬事承認自体は降りており、6分間歩行距離などの有効性については通院リハビリテーションに対する「非劣性」(許容できる範囲内で劣っていない(同等か、それ以上である)こと)が証明されています。
また、汗乳酸モニタリングシステム「SweatWatch」のような、より簡便に運動負荷を決定できるデバイスも薬事承認されており、心臓リハビリテ―ションの品質向上、普及を加速させるための技術基盤は整備が進みつつあります。
今後、保険適用外(自費リハビリや実証事業)での実績、実践データの蓄積が進む中、リハビリテーション専門職(PT・OT・ST)には「在宅でいかに安全に高強度の運動療法を管理するか」という運用体制のノウハウ構築が求められるといえるかもしれません。
今後の焦点
次回(2028年度)以降の保険収載を見据え、訪問リハビリテーションとの連携や、緊急時対応フローの確立など、制度設計に向けた現場からのエビデンス創出が重要になるだろうと考えられます。
今回の遠隔心臓リハビリテーションの件は、「技術(デバイス)の進化」に「制度(安全性基準)」が追いついていない典型的なケースともいえます。
リモハブ等のデバイスが画期的であることは間違いありませんが、中医協は「何かあった時に誰がどう責任を取るのか」という安全管理体制を非常に重視します。
特に心臓リハビリテーションはリスク管理が命綱です。 今回の診療報酬改定では保険算定の対象とされなかったとしても、それは「不要」と判断されたわけではなく、「安全基準を作る」という新たな課題が示されたと捉えるべきとも考えられます。
関連記事
参考・引用
■ 中央社会保険医療協議会 総会(第638回)(厚生労働省HP)
総-1個別事項について(その20)技術的事項(その2)・これまでの御指摘に対する回答
■ 中央社会保険医療協議会 総会(第644回)(厚生労働省HP)
総-2個別改定項目について(その1)
■ 中央社会保険医療協議会 総会(第645回)(厚生労働省HP)
総-2個別改定項目について(その2)
■ 中央社会保険医療協議会 総会(第646回)(厚生労働省HP)
総-3個別改定項目について(その3)
■ 令和8年度診療報酬改定について(厚生労働省HP)
■ 心血管疾患における 遠隔リハビリテーションに関する ステートメント(日本心臓リハビリテーション学会)
■ 株式会社リモハブ開発の遠隔心臓リハビリを支援する医療機器プログラム「リモハブ CR U」が薬事承認を取得(株式会社リモハブ)
■ 心臓リハビリテーションなどにおける運動療法の処方を支援する汗乳酸モニタリングシステム「SweatWatch®」薬事承認を取得(株式会社グレースイメージング)