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2026.09.11

うつ病診療ガイドライン2025、軽症うつ病に「運動療法」という選択肢 重症度で異なる運動療法の位置づけと、リハビリ専門職への示唆



日本うつ病学会は2025年12月25日、「うつ病診療ガイドライン2025」を公開しました。2016年版(2024年3月に一部修正)以来の改訂ですが、今回は加筆修正ではなく、ゼロベースからの全面刷新です。

日本医療機能評価機構のMinds作成マニュアルに準拠し、システマティックレビュー(SR)に基づくエビデンス評価を基盤としています。PDF版は学会サイトで一般公開されています。

この改訂のなかに、運動を専門性の一つとするリハビリテーション専門職にとって見逃せない変化があります。軽度うつ病の治療選択肢の一つとして、「集団あるいは指導下での運動療法」が明記されたことです。

ただし、この一文だけで「運動療法がうつ病治療として認められた」と読むのは早計です。

「うつ病診療ガイドライン2025」にて、運動療法がうつ病治療全体のどこに、どの強さで位置づけられたのか全体像から把握して、リハビリテーション専門職にとっての意味を整理します。




「うつ病に対する運動療法」は重症度で扱いが変わる

ガイドライン2025年版を通読すると、うつ病に対する運動療法は重症度に応じて扱いが変わります。三つの層に分けると位置づけがはっきりします。

第一に、生活習慣としての運動です。第1章「治療計画の策定」では、適切な身体活動が抑うつ症状の減少と関連すること、有酸素運動の抗うつ効果が指摘されていることが紹介されています。また、身体活動性が改善してきた時期に無理のないレベルで運動を取り入れることが望ましいとされています。これは特定の重症度への「治療」ではなく、睡眠や飲酒などと並ぶ、うつ病診療の基盤的な生活習慣指導の層です。

第二に、軽度うつ病(第2章)です。軽度うつ病への介入は、支持的な傾聴、生活における負担の軽減、心理教育といった基礎的介入が根幹となります。そのうえで、新規抗うつ薬、認知行動療法とそれを基盤とした集団・ガイド付きプログラム、そして「集団あるいは指導下での運動療法」が、それぞれ治療選択肢の一つとして挙げられています。生活習慣の層とは異なり、診断されたうつ病への治療の選択肢として運動療法が並べられた層です。

第三に、中等度・重度うつ病(第3章)です。ここでは新規抗うつ薬による単剤治療が強く推奨される一方、運動療法・高照度光療法・自然食品などの単体による治療は「提案しない」と明記されています。軽度とは異なり、単独の治療手段としては位置づけられていません。

三つの層を並べると、運動療法は「重症度を問わない基盤的アドバイス → 軽度では治療選択肢の一つ → 中等度・重度では単独治療としては提案されない」と、段階的に扱いが変わります。軽度に限って治療選択肢に格上げされている、というのが正確な理解です。




2016年版からどう変わったか

旧版(2016年版/2024年一部修正)と比べると、変化の意味が立体的になります。

旧版でも、運動療法は軽症うつ病の章に記載自体は存在しました。ただしそれは「その他の療法」という項の中で、薬物療法や精神療法への併用を前提とし、単独でのエビデンスは十分でないため併用療法として行うべき、と位置づけられたものでした。

運動の有効性については「まだ確立された治療法とはいえない」と、慎重な書き方にとどまっていました。基礎的介入に加える主たる推奨治療(新規抗うつ薬・認知行動療法)とは、明確に区別されていました。

2025年版では、この運動療法が軽度うつ病の「選択肢の一つ」へと格上げされ、さらに「集団あるいは指導下での」という実施形態の限定が加わりました。旧版では併用が前提で、有効性も未確立とされていたことを踏まえると、扱いが一段上がったことになります。

運動療法は旧版にも本文記載があり、2025年版で新規に登場したわけではありません。正確には、軽度うつ病の治療選択肢の一つとして明確に並べられたのが2025年版から、ということになります。


「選択肢の一つ」の根拠

格上げされたとはいえ、その根拠は正確に押さえておく必要があります。

2025年版は、SRで十分なエビデンスが得られた場合に「推奨(強く/弱く)」を用い、SRの形式に適さないが有用とする一定のエビデンスがある場合に「選択肢のひとつとする」を用いる、という作成ルールに則っています。

運動療法の扱いは後者、すなわちSRに基づく「推奨」ではなく、ナラティブレビューに基づく「選択肢のひとつ」です。推奨度としては最も慎重な段階に置かれているといえます。

実際、軽度うつ病のみを対象に運動療法の有効性・安全性を検証したランダム化比較試験(RCT)は存在しなかった、と本文では明記されています。軽度〜中等度を含む試験に範囲を広げて検討されましたが、参照された運動療法の試験結果は一貫していません。

最終的には、NICE(英国)、CANMAT(カナダ)、米国心理学会といった海外のガイドラインを参照し、エキスパートの判断として「選択肢のひとつ」とされたものです。

なお、具体的な運動処方(種類・頻度・強度・期間)の定義は本文には見当たりません。旧版にあった「週3回以上・中等度」といった記述はむしろ削除され、「集団あるいは指導下」という実施形態の限定に記載が留まったかたちです。


担い手は誰か —— リハビリ専門職への示唆

では、この運動療法を誰が担うと書かれているのでしょうか。

結論から言えば、2025年版の本文に、運動療法の担い手として理学療法士を名指しした記載はありません。運動に関して具体的に想定されているのは「身体疾患の主治医」です。

軽度うつ病の治療開始にあたって、安全性の観点から心疾患・脳血管障害・整形外科的疾患などの既往歴や合併症を確認し「必要に応じて身体疾患の主治医に診療情報提供を求め」身体的に可能な運動の種類・頻度・強度を確認する、と記されています。

作成に携わった多職種メンバーにも作業療法士は複数名参加していますが、理学療法士の記載はありません。運動療法が選択肢の一つになったからといって、その担い手が定められたわけではありません。

そのうえで、前向きに捉えられる点もあります。運動療法は、旧版では併用前提の「その他の療法」にとどまっていましたが、2025年版では軽度うつ病の治療選択肢の一つに位置づけられました。

現時点で理学療法士の関与が明記されていないことは、裏を返せば、その担い手像がまだ定まっていない領域だともいえます。

うつ病に対する治療として「運動療法」が確たる位置を占めるには、なお良質なエビデンスの蓄積が求められます。それでも、診療ガイドラインで扱いが引き上げられたことは、運動を専門性の一つとするリハビリテーション専門職にとって注目に値します。

引用・参考
「うつ病診療ガイドライン2025」(日本うつ病学会、2025年12月25日公開)
「日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ.うつ病(DSM-5)/大うつ病性障害」(最新版:2016年7月31日/2024年3月1日 一部修正)(日本うつ病学会HP)

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