2026年(令和8年)9月9日に開催された中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、厚生労働省より「令和7年度 医療費の動向(概算医療費の年度集計結果)」が報告されました。概算医療費は、医療機関から提出されたレセプトに基づいて集計した速報値で、労災や全額自費などを含まないため、国民医療費の約98%に相当するものです。
本記事では、この資料をもとに、医療費全体の動向と、リハビリテーション領域の動向を数字で整理します。
なお、当日の議論でリハビリテーションが直接取り上げられたわけではありません。
以下のリハビリに関する数値は、公表資料の「診療内容別」データから抽出したものです。
全体像 総額49.2兆円、対前年+2.6%
令和7年度の概算医療費は49.2兆円で、前年度から約1.3兆円、率にして+2.6%の増加となりました。
伸びの内訳を分解すると、受診延日数は-0.7%と減少した一方、1日当たり医療費は+3.3%と増加しています。つまり令和7年度は、患者数(延べ日数)が減る一方で、1日あたりの単価が伸びたことで医療費全体が増加した、という構造です。
診療種類別の伸び率は、入院+2.3%、入院外+1.6%、歯科+3.5%、調剤+3.9%となっています。
受診延日数は歯科を除くすべての診療種類でマイナスとなっており、入院外(-1.6%)と調剤(処方せん枚数-1.1%)で減少幅が大きくなっています。一方で1日当たり医療費はすべての診療種類でプラスで、特に調剤は+5.0%と大きく伸びています。
伸びの中身 ―「その他の要因」が主因に
医療費の伸び+2.6%を要因ごとに分けると、次のようになります。
- 人口増の影響:-0.5%
- 高齢化の影響:+0.6%
- 診療報酬改定等の影響:-0.39%
- それ以外の影響(医療の高度化・受療行動の変化等):+2.9%
注目すべきは、人口の要因です。人口減少による押し下げ(-0.5%)と高齢化による押し上げ(+0.6%)がほぼ相殺され、人口要因全体では医療費をほとんど伸ばさない状況になっています。その分、「それ以外の影響」(医療の高度化や受療行動の変化など)である+2.9%が、伸びの大きな部分を占めています。
コロナ前と比べると、令和元年度〜7年度の平均伸び率は2.1%で、コロナ前(平成28〜令和元年度)の1.8%とほぼ同水準です。事務局は、コロナ禍の乱高下を経て、医療費の伸びがおおむねコロナ前の水準に戻ってきたと説明しています。
当日の議論では、委員から「その他2.9%の中身が、医療の高度化によるものか、受療行動の変化によるものか、より詳細に分析すべき」「物価が大きく上昇する局面でも医療費のトレンドが以前と変わっておらず、医療現場は厳しい状況にある」といった意見が出されました。
単価上昇の背景 ―感染症の落ち着きと高額薬剤
1日当たり医療費が伸びた背景には、大きく2つの流れがあります。
1つは、感染症の落ち着きです。令和6年度まで流行していた感染症が令和7年度は落ち着いたことで、呼吸器系疾患やCOVID-19を含む「特殊目的用コード」の医療費が減少し、小児科・耳鼻咽喉科などで受診延日数(患者数)が減りました。これが受診延日数のマイナスにつながっています。
もう1つは、高額な薬剤の影響です。腫瘍用薬(がんの薬)やホルモン剤などの伸びが大きく、調剤医療費や入院外の薬剤料を押し上げています。患者数が減っても単価が上がる、という令和7年度の構造は、この薬剤要因が大きく関わっています。
また、入院では推計平均在院日数が-1.1%と短縮傾向が続いています。在院日数が短くなると、密度の高い医療が短期間に提供されるため、1日当たりの単価は上がりやすくなります。
リハビリテーション医療費の動向
ここからは、医科医療費(電算処理分)の「診療内容別」データから、リハビリテーションの動向を見ていきます。
入院のリハビリテーション
入院のリハビリテーション医療費の伸び率は+3.6%で、前年度(令和6年度+3.4%)から伸びが続いています。入院医療費全体に占める構成割合は5.2%で、手術・麻酔やDPC包括部分などと並び、上位に位置する診療内容の一つです。令和元年度〜7年度の平均伸び率は2.5%であり、令和7年度はこれを上回る伸びとなっています。
入院外のリハビリテーション
入院外(外来)のリハビリテーション医療費の伸び率は+7.3%で、前年度(令和6年度+6.2%)からさらに伸びています。入院外医療費全体に占める構成割合は1.8%です。令和元年度〜7年度の平均伸び率は5.2%であり、令和7年度はこれを上回る高い伸びとなっています。
全体として受診延日数が減少するなかでも、入院・入院外いずれのリハビリテーションもプラスの伸びを維持しており、入院外では平均を上回る伸びとなっている点が特徴です。
伸びの中身が問われる局面へ
令和7年度の概算医療費は49.2兆円(+2.6%)で、患者数(受診延日数)が減る一方、1日当たり医療費の伸び(+3.3%)が全体を押し上げる構造となりました。伸びの要因では、人口減少と高齢化の影響がほぼ相殺され、医療の高度化や受療行動の変化などの「その他の要因」が大きな部分を占めています。
診療内容別に見ると、リハビリテーションは入院+3.6%、入院外+7.3%と、いずれもプラスの伸びを維持しています。特に入院外リハビリは近年の平均を上回る伸びとなっています。
もっとも、伸びていることが、そのまま良い評価につながるとは限りません。医療費の動向は診療報酬改定の議論の基礎資料となるものであり、伸びが大きい項目ほど、その内訳や妥当性が確認されやすくなる面があります。当日の中医協でも、委員から「医療費の伸びの内訳、特に医療の高度化や受療行動の変化にあたる部分をより詳細に分析すべき」との意見が繰り返し出されました。伸びの中身を丁寧に見ていこうという議論は、今後リハビリテーションの領域にも及んでいく可能性があります。
特に入院では、平均在院日数の短縮が続いています(推計-1.1%)。在院日数が短くなるなかで入院リハの医療費が伸びているという事実は、限られた期間のなかでどのようなリハビリが提供されているかという点に、あらためて関心が向きやすいことを示しています。外来リハの伸びについても、どのような対象者や疾患で増えているのかを、現場の実感と照らして捉えておくことが、次の改定に向けた議論を読み解く助けになります。
こうしてみると、令和7年度の動向は、リハビリテーション専門職にとって、自らが提供している医療の内容や成果を、あらためて整理しておくきっかけになるものといえます。数字が伸びている今だからこそ、その一つひとつが何のために行われ、どのような結果につながっているのかを説明できるようにしておくことが、これからの制度議論に向き合ううえで意味を持つと考えられます。
引用・参考
◼️ 中央社会保険医療協議会 総会(第656回)(厚生労働省HP)
・総-1 医療費の動向 令和7年度の状況
・総-1 参考2