米国心臓協会(AHA)と米国脳卒中協会(ASA)が、成人脳卒中リハビリテーション・回復に関するガイドラインの2026年版を公表しました。
2016年版を置き換えるもので、10年ぶりの改訂です。米国理学療法士協会、米国作業療法士協会、米国言語聴覚学会をはじめとする関連団体が承認・支持を表明しています。
本ガイドラインは、2025年6月から10月にかけて文献検索が行われ、併存疾患の管理、骨折リスク、転倒予防、テクノロジーを活用したリハビリテーション、介護者支援、参加、復職・運転再開といった領域で、新規および改訂された推奨が示されました。
「リハビリテーションに終点はない」概念そのものを更新
本改訂で注目されるのが、リハビリテーションを終点の定まらない縦断的プロセスとして概念化したことです。
生涯にわたる評価と関与を支持する立場が明示されました。
これに関連して、11項目の「Top Take-Home Messages」でも次の点が強調されています。
● 多職種によるリハビリテーションへの参加は、神経学的な障害を軽減し機能を改善するうえで決定的に重要である
● リハビリテーションは急性期から開始されるべきである
● 定期的な再評価と、さまざまな時点での治療への再関与が、新たな治療目標の設定と機能低下の予防に重要である
● リハビリテーション終了後も定期的な評価を行い、低下や新たな問題を把握する必要がある
「退院したら終わり」ではなく、必要に応じて何度でも戻ってくる場所としてリハビリテーションを位置づける、という方向性が示されています。
運動の量と強度 ー 24時間以降は「中〜高強度」
Top Take-Home Messagesの4番目は、量と強度について記載されています。
Rehabilitation should provide sufficient amounts and intensity of various types of task practice to reduce functional impairments and teach compensatory strategies. After 24 hours poststroke, moderate to high-intensity exercise and task practice should be performed.
機能障害を軽減し代償戦略を教えるために、十分な量と強度の課題練習を提供すべきである。発症24時間以降は、中等度から高強度の運動と課題練習を行うべきである。
身体活動については、次の推奨が示されています(いずれもClass 1、エビデンスレベルA)。
● 心肺機能と移動能力を最適化し、将来の血管イベントリスクを低減するため、個別化された運動プログラムを行う
● リハビリテーション中に開始し、自宅や地域で継続する運動・身体活動プログラムにより、認知的健康を最適化する
● 週150〜300分の中強度身体活動、有酸素運動を週3〜5日、筋力トレーニングとバランストレーニングを週2〜3日
運動開始前の医学的クリアランスとして最大運動負荷試験が挙げられていますが、強度が低い場合(心拍予備能の50%未満など)は6分間歩行テストなどで代替しうる、との記載もあります。
明確に「行うべきでない」とされた3つ
臨床で特に留意したい点として「行うべきではない」項目も示されています。
AHA/ASAの推奨クラスでは、Class 3: Harm(有害)が最も強い否定的推奨にあたります。ただし根拠の強さは項目ごとに異なるため、エビデンスレベルもあわせて示します。
① 発症24時間以内の高頻度な離床(エビデンスレベルA)
急性期の脳卒中患者に対し、発症後24時間以内の高頻度な離床は、神経学的悪化と機能転帰の悪化を避けるため行うべきでないとされました。
一方で、発症24〜48時間で開始する段階的な離床プロトコルは推奨されています(Class 1、エビデンスレベルA)。肯定・否定の両方に最高水準の根拠が付記されています。
「早ければ早いほどよい」ではなく、開始時期と頻度の双方に基準が示された形になります。
② 弾性ストッキングによる静脈血栓塞栓症予防(エビデンスレベルB-R)
弾性ストッキングは静脈血栓塞栓症(VTE)の予防に有効ではないとされました。
代わりに推奨されているのが、中等度から重度の可動性制限がある急性期患者への間欠的空気圧迫法(IPC)です(Class 1)。
システマティックレビューでは、深部静脈血栓症の発生をリスク比0.50(95%信頼区間0.27〜0.94)で有意に減少させたと報告されています。
③ オーバーヘッドプーリー訓練(エビデンスレベルC-EO)
プーリーは、頭上の滑車にロープを通し、健側の腕で麻痺側の腕を引き上げる訓練器具です。国内ではあまり多くはないかもしれませんが、欧米では自主訓練として処方されることがあります。
肩関節亜脱臼、肩の筋力低下、または肩関節痛を有する患者において、関節可動域の拡大や疼痛軽減を目的とした使用は推奨されないとされました。利益より害が大きい、という判断です。
ただし根拠はC-EO(専門家の意見)であり、①発症24時間以内の高頻度離床、② 弾性ストッキングによる静脈血栓塞栓症予防とは性質が異なります。
片麻痺性肩関節痛のセクションで否定されたのは、この1項目のみです。同セクションの推奨の大半は肯定的なもので、Class 1として肩関節の臨床評価と患者・介護者への教育が、Class 2aとしてポジショニング装具・スリング、ボツリヌス毒素注射、末梢神経刺激などの神経調節治療、ステロイド注射、肩甲上神経ブロック、体外衝撃波、神経筋電気刺激(NMES)、キネシオテーピング、鍼などが挙げられています。
脳卒中後の肩関節痛は発生率10〜22%とされる一般的な合併症であり、こちらは国内でも参照しやすい内容です。
そのほかの主な改訂ポイント
今回新たに設けられたのが、睡眠と脳卒中後疲労のセクションです。脳卒中患者は一般人口より睡眠障害の頻度が高く、それが脳卒中後うつのリスクを高めることが背景にあります。
本改訂で、認知行動療法が疲労と睡眠の質の改善に有益でありうる(Class 2a)、光療法は疲労軽減のために考慮しうる(Class 2b)とされました。
評価の領域では、標準化され妥当性が検証されたツールの使用がより強調され、対象が視覚・聴覚・知覚の障害へと広がりました。遠隔医療を含むテクノロジー活用型介入への重点も高まっており、通院が困難な場合にはテレヘルスを考慮すべきとされています。
このほか、介護者への教育とトレーニングが「決定的に重要」と位置づけられたこと、うつと不安の早期スクリーニングと再スクリーニングが求められたこと、レクリエーションや社会参加、復職、運転再開に関する推奨が拡充されたことなどが、主な改訂点として挙げられています。
日本の現場でどう読むか
本ガイドライン自身は、焦点が米国における医療実践にあるとしたうえで、多くの側面は世界中の患者に関連するとも述べています。
推奨についても、米国の医療制度において比較的実行可能なものに限定するよう努めた、と明記されています。そのため、そのまま国内の医療制度に当てはまるとは限らない点には留意が必要です。
一方で、24時間以内の高頻度離床の否定、弾性ストッキングの否定といった項目は、手技や物品のレベルの話であり、制度を問わず参照できます。
また、リハビリテーションを終点のないプロセスとして捉える視点や、退院後も定期的に評価して必要なら再介入するという考え方は、地域包括ケアの文脈とも接続しうるものです。
ガイドライン自体も、大きな前進を反映しつつ知識のギャップを浮き彫りにしており、治療戦略を洗練させるための継続的な研究が急務だと述べています。最良の治療アプローチ、その時期、頻度については、依然として不確実性が残るとされています。
■ 論文情報
【掲載誌】Stroke
【論文タイトル】2026 Guideline for Adult Stroke Rehabilitation and Recovery: A Guideline From the American Heart Association and American Stroke Association
【著者】Lorie G. Richards(Chair), Nneka L. Ifejika, Joel Stein, et al.
【DOI】
10.1161/STR.0000000000000536
引用・参考
◼️ Richards LG, Ifejika NL, Stein J, et al. 2026 Guideline for adult stroke rehabilitation and recovery: a guideline from the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke. 2026; 57. DOI: 10.1161/STR.0000000000000536