8月12日、日本学術会議は科学的助言等対応委員会の議決を経て、「人口減少・人口偏在社会に求められるヘルスケア人材」に関する見解を発出しました。
見解では、医療専門職を「ヘルスケア人材」として横断的に捉え、役割や業務、多職種連携、働き方、基礎教育を見直す方策が示され、理学療法士(PT)と作業療法士(OT)の今後の役割や働き方に関する提案も含まれています。
日本学術会議の見解で示されたセラピストに関わる4つの内容
今回の見解では、PT・OTの専門的な位置づけや自治体への配置に加え、セラピストを含むヘルスケア人材の働き方や教育についても提案されています。
PT・OTを地域の中核職種として位置づける
PTとOTについて、見解で記載されている位置づけは、次のとおりです。
PT・OTがそれぞれの専門性を生かし、相互に役割を担うことも記載されています。
「タスク・シフト/シェアの枠を超え、作業療法士を『生活機能及び社会参加の中核職種』として、理学療法士を『身体活動・運動機能及び予防的介入の中核職種』として地域に位置付け、相補的に役割を担いながらリハビリテーション領域を拡張していく必要がある」
出典:日本学術会議.人口減少・人口偏在社会に求められるヘルスケア人材
自治体への配置と診療所との連携を進める
PT・OTに関するもう一つの提案が、地方自治体への配置と地域の診療所との連携です。
見解では、次のように記載されています。
プライマリ・ケアにおける身体機能、生活機能及び社会参加の中核職種として地方自治体に配置し、地域の診療所との連携を推進する。
出典:日本学術会議.人口減少・人口偏在社会に求められるヘルスケア人材
その目的として、予防の段階から、多様な背景や困難を抱える人を含めたニーズに対応し、生きがいのある暮らしを促すことが挙げられています。
一方、自治体への配置方法や診療所との具体的な役割分担など、実際の仕組みまでは示されていません。
地域の施設を横断する働き方を取り入れる
セラピストを含むヘルスケア人材の働き方として、地域のニーズに応じて複数の施設で活動する「新たな働き方モデル」が示されました。
人口減少が進む地域では、それぞれの施設が必要な専門職を個別に確保することが難しくなる可能性があります。
そこで、地域の医療機関が共同事業体などの連携体制を形成し、人材の移動や配置を地域単位で調整する考え方が挙げられています。
具体的には、次のような取り組みです。
● 医療機関、介護施設、在宅ケアの場を横断して活動する
● 地域の需要に応じて柔軟な勤務体制を取り入れる
● 人員配置基準や診療報酬上の施設基準を見直す
この働き方は、セラピストだけを対象としたものではありません。
医師や看護師、PT、OTなどを含むヘルスケア人材全体への提案です。
職種を超えて業務や学びを共有する
多職種連携の強化に向けては、業務と基礎教育の両面を見直す方向性も示されています。
業務面では、ある職種が担ってきた業務を他職種へ移管したり、複数の職種で共同化したりする「タスク・シフト/シェア」が挙げられました。
教育面では、職種に共通して求められる能力を整理し、大学などの基礎教育課程に共通科目を設けることも盛り込まれています。
● 多様な人とともに地域・社会へ働きかける科目
● 人間の尊厳と理解に関する科目
● 医療教養としての技術に関する科目
こうした共通教育は、異なる職種が共通する知識や視点を持ち、多職種で連携するための基盤として提案されています。
ただし、共通科目の具体的な内容や導入方法については、今後の検討が必要とされています。
セラピストの役割拡大が提案された背景
役割拡大が提案された背景の一つに、医療専門職間の需給バランスと、地域による人材の偏りがあります。
見解では、医師や看護職員で人材不足が見込まれる一方、PT・OTでは供給が需要を上回るとされており、職種によって需給状況が異なります。
※日本学術会議「
人口減少・人口偏在社会に求められるヘルスケア人材」に記載されているデータを基に作成
また、PTの人口当たりの就業者数は、九州地方より東北・関東地方で少ない傾向にあります。
将来の需給は全国的な供給数だけでなく、地域や勤務領域による偏りも含めて捉える必要があると考えられます。
こうした状況を踏まえ、見解では、現在の医療機関からの需要だけを基準とせず、社会環境や支援ニーズの変化を前提に将来予測を行い、人材の配置計画を立てることを提案しています。
セラピストの役割拡大をどう捉えるか
今回の見解では、PT・OTを専門性に基づく地域の中核職種として位置づけ、自治体への配置や診療所との連携、施設を横断する働き方を取り入れることが提案されました。
厚生労働省は、生産年齢人口や18歳人口が減少していく状況を見据え、医療関係職種の養成・確保体制の在り方に関する検討会を開催し、議論を進めています。
今後、日本学術会が示した「ヘルスケア人材に関する見解」が具体化される過程で、セラピストが担う業務や専門性がどのように位置づけられ、支援の質と各職種の専門性がどのように考慮されるのか。動向に注目です。
参考・引用
■日本学術会議.健康・生活科学委員会, ヘルスケア人材共創に向けた看護学分科会.見解「人口減少・人口偏在社会に求められるヘルスケア人材-需要と供給のバランス・地域偏在の課題解決に向けた各医療専門職の役割機能を段階的に拡張する方策-