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2026.09.10

前脛骨筋の収縮が内側縦アーチを挙上・母趾を内反、外反母趾への運動療法に新たな根拠|藤田医科大学らPLOS Oneに報告



前脛骨筋を収縮させると、舟状骨が回外方向へ動き、母趾が内反する。藤田医科大学らの研究グループは、外反母趾への運動療法に関する内容について「PLOS One」に報告しました。

内側縦アーチの支持筋としては後脛骨筋や足部内在筋が着目されてきましたが、前脛骨筋にも同様の機能がある可能性を、実験的に示した内容です。


前脛骨筋はアーチ支持にどう関わるのか

前脛骨筋は足関節の背屈と回外に働き、内側楔状骨と第1中足骨に停止します。内側縦アーチ(MLA)を構成する骨に、解剖学的にきわめて近い位置にあります。



著者らによれば、前脛骨筋がMLAを直接支持するかどうかを示した根拠は限られていました。従来、MLAの安定化に主として寄与するとされてきたのは後脛骨筋と足部内在筋です。

一方で、扁平足の患者では短趾屈筋などの内在筋機能が低下し、その代償として前脛骨筋の活動が高まるという報告があります。回外を生じさせる前脛骨筋が、条件によってはアーチ維持に代償的な役割を果たしている可能性が示唆されるものの、その役割は明らかではありませんでした。

近年は、足部を個々の筋の集合ではなく、協調して働く筋のシステムとして捉える考え方が提唱されています。なかでも前脛骨筋と長腓骨筋が「腱のあぶみ(tendon stirrup)」を形成し、協働してMLAを安定化・挙上させるという概念があります。

ただしこれは解剖学的・理論的な考察に基づくもので、直接的な実験的証拠は限られていました。


背屈を起こさずに前脛骨筋だけを収縮させる

本研究の参加者は健常成人25名(男性11名、平均20.7±1.0歳)です。外反母趾角は14名が正常、10名が軽度(20〜30°)、1名が中等度(30〜40°)でした。

本研究のポイントは、足関節の背屈を起こさずに前脛骨筋を収縮させたことにあります。背屈が生じると、それ自体がMLAや外反母趾角に影響してしまうためです。

電気刺激装置を用い、筋は活動するが背屈が観察されない強度に設定。0.5秒の刺激と1.0秒の休止を10回繰り返しました。参加者は股・膝関節90°屈曲、足関節中間位で座り、随意的な筋活動を避けるよう指示されています。

測定は次のとおりです。

● 舟状骨上の皮膚に三軸加速度計を貼付し、加速度を2回積分して変位を算出
● 母趾MTP関節と足関節に電子ゴニオメータを装着し、外反母趾角と関節角度を測定




舟状骨は25名全員で上方へ ー 回外方向の変位

前脛骨筋の収縮により、舟状骨は上方・後方・内側へ変位しました。これは足部の回外方向にあたり、MLAが一時的に挙上したことを示唆します。

前脛骨筋の収縮による舟状骨の上方への変位は、全員に認められました。

背屈の影響については、目視では背屈が観察されず、電子ゴニオメータで測定した足関節背屈角の平均変化も0.21°にとどまりました。舟状骨の変位が背屈によるものではないことを確認した形です。

母趾は平均1.36°内反 ー 25名中24名で変化

外反母趾角は、平均1.36°の内反方向への変化を示しました。25名中24名で内反変化が認められ、統計学的にも有意な差が認められました(p<0.001)。

さらに、舟状骨の上方変位が大きいほど、母趾の内反変化も大きいという正の相関が示されています。

一方、外反母趾角の変化は、足関節の背屈・底屈角とも母趾MTP関節の屈曲・伸展角とも有意な相関を示しませんでした。

著者らは、母趾の内側移動が個々の関節運動ではなく、MLAの構造的変化を反映している可能性を指摘しています。


前脛骨筋は「アーチを支える筋」でもあるのか

内側縦アーチを支える筋として、これまで主役とされてきたのは後脛骨筋と足部内在筋でした。本研究の結果は、そこに前脛骨筋を加えうることを示しています。

前脛骨筋の単独活性化だけで舟状骨の挙上と母趾の内側移動が生じたことは、前脛骨筋が補助的な筋にとどまらず、協調的な筋システムの一部として足部アーチと足趾アライメントに関与していることを示唆する、という解釈です。

前脛骨筋と長腓骨筋が協働してアーチを支えるという「腱のあぶみ」の概念は、これまで解剖学的・理論的な考察に基づくものでした。本研究は、そこに直接的な実験的証拠を与えた形になります。

臨床応用として挙げられているのが、軽度から中等度の外反母趾に対する運動療法や神経筋電気刺激(NMES)です。装具や手術に対する非侵襲的な選択肢となりうる、と述べられています。

また、著者らは複数の限界を挙げています。

まず、本研究は健常者または軽度の変形を有する者を対象とした単回・短時間の刺激であり、長期介入の効果を反映するものではありません。

次に、舟状骨の変位は皮膚に貼付した加速度計からの推定で、皮膚の動きによる誤差を受けうる点も指摘されています。

また、変化量も1.36°と小さく、一時的な反応であって外反母趾そのものが改善したことを示すものではありません。
今後の課題として、より重度の症例や広い年齢層を含む、縦断的な検証が求められています。


前脛骨筋を「アーチの筋」として捉え直せるか

外反母趾は高齢者に多く、65歳以上の女性では有病率が40%を超えるとの報告もあります。

外反母趾の重症度とアーチ高の低下には中等度から高い相関が報告されており、内側アーチ機能の低下が進行に関与すると考えられてきました。

本研究は、そのアーチ機能に前脛骨筋が関与しうることを、健常成人での単回実験として示したものです。効果が確認されたわけではなく、あくまで力学的な反応が観察されたという段階にあることには留意が必要です。

とはいえ、前脛骨筋は臨床で日常的に扱う筋であり、電気刺激も運動療法も現場の道具立ての範囲にあります。

足部評価の際に前脛骨筋をどう位置づけるか。その視点を一つ増やすきっかけになる研究成果といえるかもしれません。


■ 論文情報

【掲載誌】PLOS One
【論文タイトル】Effects of tibialis anterior contraction on the medial longitudinal arch and hallux valgus angle: A functional anatomical perspective
【著者】Naoki Aizu, Takumi Kito, Kazuhiro Nishii, Kouji Yamada
【DOI】10.1371/journal.pone.0350830

引用・参考
◼️ Aizu N, Kito T, Nishii K, Yamada K. Effects of tibialis anterior contraction on the medial longitudinal arch and hallux valgus angle: A functional anatomical perspective. PLOS One. 2026; 21, 6. DOI: 10.1371/journal.pone.0350830

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