厚生労働省は9月11日、第215回社会保障審議会医療保険部会を開催し、次期医療保険制度改革に向けた議論を開始しました。
この日は、政府・与党がこれまでに示した社会保障改革の方針をまとめた資料が提示され、現役世代の保険料負担の抑制と、医療提供体制の維持を両立するための検討課題が共有されました。
資料には、人口減少地域における医療・介護サービスの提供体制や職員配置基準の柔軟化、外来包括報酬、アウトカム評価、医療機関による健康増進事業など、今後の具体化によってはリハビリテーション専門職の働き方や評価にも影響し得る項目が含まれています。
なお、今回は具体的な制度案を審議したものではなく、厚生労働省は、今後の議論の素材として現時点で示されている事項を紹介したものと説明しています。
保険料負担の抑制と医療提供体制の維持を両立
今回の資料では、「経済財政運営と改革の基本方針2026」(骨太方針2026)や、自由民主党と日本維新の会が合意した13の社会保障改革項目などをもとに、次期制度改革の方向性が整理されました。
政府は、医療・介護を中心とした社会保障制度改革を通じて、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げることを目指しています。2027年度の社会保障負担率については、2025年度と比較して上昇しないよう取り組む方針です。
医療給付費についても、診療報酬に経済・物価動向などを基本的に反映しつつ、医療給付費の対GDP比や雇用者報酬の伸びとの関係などを参照し、次期医療費適正化計画に向けた抜本的な見直しを行うとしています。
一方、医療・介護・福祉などの公定価格については、現場の人材確保、経営の安定、サービスの質の確保に必要な対応を進める方針も示されています。
医療費や保険料負担の抑制を図りながら、物価・賃金上昇への対応と医療従事者の処遇改善をどのように両立させるかが、今後の制度改革の大きな焦点となります。
人口減少地域を念頭に、職員配置基準の柔軟化を提示
PT・OT・STへの影響という点で注目されるのが、「人口減少下でも地方の医療介護サービスが持続的に提供されるための制度設計」です。
資料では、人口減少によって患者数が構造的に減少する地域でも、限られた人員・人材で質の高い医療・介護サービスを提供できる体制を構築する方針が示されました。
具体的な検討事項には、医療・介護現場における生産性向上に加え、「職員配置基準の一層の柔軟化」が盛り込まれています。また、AIを含む医療・介護テクノロジーについて、実証、導入、伴走支援を行い、職員の負担軽減や資質向上につなげるとしています。
医療DX・介護DXを通じたプラットフォームの整備や、地域における業務効率化も検討課題となっています。
ただし、どの施設や職種の配置基準を対象とするのか、リハビリテーション専門職の配置にどのような影響が及ぶのかといった具体的な内容は、現時点では示されていません。
外来包括報酬、アウトカムや地域連携も評価の視点に
人口減少地域では、患者数の減少により、現在の出来高払いの診療報酬体系では医療機関の運営が難しくなる可能性も指摘されています。
こうした課題を踏まえ、資料では、アウトカム評価の充実とあわせて、外来包括報酬の在り方を検討する方針が示されました。
検討に当たっては、地域における医療提供体制の維持のほか、予防・健康管理、在宅医療、介護との連携などを評価する観点も含めるとしています。
今後の制度設計によっては、実施した診療行為だけでなく、重症化予防や地域生活の維持、在宅・介護との連携といった成果や機能を、評価する方向へ進む可能性があります。
一方、外来包括報酬の対象となる医療機関や機能、具体的な評価指標については、今回の資料では明らかにされていません。
医療機関の人材を生かした健康増進事業も検討
医療機関の経営基盤を強化する方策として、医療法人が行う附帯業務・附随業務などの規制を見直す方向も示されました。
資料では、医療機関が保有する医学的知見や人材を活用し、地域の健康増進に貢献する事業などを、新たな収益源として位置づけられるよう検討するとしています。
具体化されれば、医療機関に所属するPT・OT・STが、保険診療にとどまらず、地域住民の健康増進や疾病予防、企業における健康づくりなどに関与する可能性も考えられます。
ただし、対象となる事業の範囲や実施要件などは今後の検討事項であり、今回の部会でも具体的な議論は行われませんでした。
切れ目のないリハビリ、訪問リハ充実も改革方針に
「攻めの予防医療」に関する方針では、健康増進、疾病予防、早期発見、早期介入、行動変容などを関係機関が連携して進めることが掲げられています。
リハビリテーションについても、「予防・医療・介護を通じた切れ目のないリハビリテーション」を推進し、効果的な訪問リハビリテーションの充実を図る方針が改めて示されました。
このほか、企業と保険者が連携するコラボヘルスや、データヘルスを基盤とした保健事業モデルの構築なども盛り込まれています。
「他産業と遜色のない処遇改善が必要」と委員
委員からは、医療保険制度の持続可能性や高齢者の窓口負担に関する意見に加え、医療従事者の人材確保と処遇改善を求める意見が出されました。
日本看護協会の任和子委員は、医療機関や訪問看護ステーションなどで働く医療・介護従事者の賃金について、診療報酬改定でベースアップ評価料などの対応が行われたものの、なお他産業の賃上げに追いついていないと指摘しました。
このままでは医療・介護の現場を支える人材が他産業へ流出することが懸念されるとして、「他産業と遜色のない処遇改善」を確実に進める必要があると述べました。
また、限られた人材で質の高いサービスを提供するため、DXやAI、ロボティクスの活用は重要とした一方、効率化を優先するあまり、サービスの質が低下する事態を招かないよう注意が必要との考えを示しました。
連合の林鉄兵委員も、安心して医療・介護・福祉サービスを受けられる体制を整備するには、現場で働く人材の確保が欠かせないとして、継続的な処遇改善と勤務環境改善を求めました。
委員からはこのほか、医療DXを目的化せず地域医療の持続につなげる必要性や、DX基盤の整備・維持を現場の負担だけに委ねるべきではないとの意見も挙がりました。
高齢者の窓口負担をめぐって意見分かれる
今回の部会では、70歳以上の高齢者の医療費窓口負担も主要な論点となりました。
政府は、低所得者などの必要な受診が確保されるよう配慮することを前提に、原則3割負担となっている現役世代との間で、年齢によらない応能負担を実現する観点から見直しを行う方針です。
負担割合を区切る所得基準や対象年齢、外来特例、公費負担の在り方などを総合的に検討し、2026年末までに改革工程表を策定するとしています。
保険者側からは、現役世代の負担軽減を実感できる改革や、年齢にかかわらない応能負担を求める意見が出されました。
一方、医療提供側や高齢者を代表する委員からは、高齢者には低所得者や複数の疾患を抱える人が多く、窓口負担の引き上げが受診抑制や重症化につながる可能性があるとして、慎重な検討を求める意見が相次ぎました。
高齢者の窓口負担だけを切り離すのではなく、公費、保険料、給付の効率化、医療提供体制を含め、給付と負担の全体から議論すべきとの指摘もありました。
配置基準や報酬体系の具体化を今後検討
今回の部会は、次期医療保険制度改革に向けた初回の総論的な議論であり、職員配置基準の柔軟化や外来包括報酬などについて、具体的な制度設計が示されたものではありません。
今後は、現役世代の保険料負担を抑えながら、医療機関の経営、人材確保、従事者の処遇、サービスの質をどのように維持するかが焦点となります。
PT・OT・STに関しても、職員配置基準、アウトカム評価、在宅医療・介護との連携、予防・健康増進事業などが、具体的な制度や診療報酬にどのように反映されるのか注目されます。
引用・参考
◼️ 第215回社会保障審議会医療保険部会(厚生労働省HP)
・【資料2】次期医療保険制度改革に向けて
・【参考資料】基礎資料