先日、理学療法士の志垣健一朗さんをゲストにお迎えし、「年内に触れておきたいセラピストのリアルなAI活用」をテーマにオンライン座談会を開催しました。
昨今、AIに関するセミナーは数多く開催されていますが、「情報の速さについていけない」「自分に使いこなせるのか不安」「仕事でどう使ったらいいのか」と、焦りや疑問を感じているとの声も少なくありません。
本座談会は、そんなセラピストの「不安や疑問」を共有し、AI活用への一歩を踏み出すことを目的に企画しました。
前半の志垣さんのセッションでは、最新機能の紹介ではなく「現場で再現性のある活用」に重点をおいて、現場目線でのリアルな活用術やリスク管理についてお話いただきました。また後半には、活用事例をもとに参加者との対話を交えながら座談が行われました。
本記事では志垣さんにお話いただいた内容を一部凝縮してご紹介します。
AIは「仕事を奪うもの」ではなく、あなたの力を広げる「増幅器」
志垣さん まず皆さんに最初にお伝えしたいのが、AIは「仕事を楽にする単なる道具」ではなく、自分の能力を最大化する「増幅器(アンプ)」として捉えてほしいということです。
現場の人(労働人口)は減っており、この先さらに高齢者が増えていく時代に対応しきれないという問題に直面しているわけです。
さらに、記録や報告書、教育、会議といった「周辺業務」ばかりがどんどん増えていますよね。
このままでは、私たちが一番大切にしたい「臨床で患者さんと向き合う時間」が削られ続けてしまいます。
だからこそ周辺業務にAIを活用することで、臨床に集中する時間を取り戻そうというのが、今回のお話になります。
あくまでAIは「臨床判断を代行する機械」ではなく、私たちの説明や資料作成を強力に助けてくれる相棒です。
「何ができるか」よりも「何をしたいか」から逆算する
志垣さん よく「AIの使い方を教えて」と聞かれますが、実はこれ、すごく危うい質問だと思っています。なぜなら、使用目的が決まっていないと、AIという機能の海で迷子になってしまうからです。
例えば、誰かに「スマホの使い方を教えて」と言われても、「電話をしたいのか、動画を見たいのか、SNSをやりたいのか」で教える内容は全く変わりますよね。
AIもそれと同じです。「AIの使い方」を学ぶのではなく、自分の仕事の中で「どの作業を楽にしたいか」を先に決めることが大切です。
● 研修資料の「構成」を考えるのが苦痛なら、そこをAIに任せてみる。
● 議事録の「要約」に時間がかかるなら、AIに叩き台を作らせる。
AIが作った「8割の骨組み」に、私たちが「2割の魂(現場感)」を入れて共作することができます。
最終の判断は絶対にAIではなく自分がすることを守り、AIとうまく役割分担をして取り組むことが現場でAIを使いこなす一番のコツです。
今回使用した資料もAIと一緒に作成しました。1時間くらいで30ページほどの講義資料が作れてしまうというのは、活用するメリットを強く実感する使い方ですね。
議事録作成・事業設計におけるAIと人間の役割分担
志垣さん 実際に議事録を作成する時のAIと人間の役割分担をまとめてみました。AIは文字起こしをして、会議で色んな話題が行ったり来たりするものをまとめて構造を作ってくれます。
人間は、AIがまとめた内容をもとに不要な内容は削除したり、言い換えをするなど微調整と事実確認をして関係者へ配布するという役割です。
これだけでも大幅に作業時間が削減できるというのは想像がつくと思います。
志垣さん 次に管理者の活用事例として「業務改善」にAIをどう活用するのかについてです。
現状起きていることや疑問などをAIに入力し、内容の分解や具体的な課題の抽出をしてもらいます。
AIは分析した課題に対する改善案やアイディアを複数提案してくれるため、現場の肌感から解くべき課題の選定や優先順位を人間が決めていきます。
AIと壁打ちしながら導いた内容をさらにAIに資料化してもらって、人間が熱量を持って実行していくことが可能になります。
自分の頭の中のモヤモヤが、AIを活用することによって言語として整理され、さらに図解などイメージしやすい状態にまで早く進めることができるのもメリットです。
AI活用のリスク管理「3色ルール」の線引き
志垣さん 事前アンケートで最も皆さんの関心が高かったのが、「個人情報とリスク管理」についてでした。ここが一番の不安要素になっていると思います。
基本的に、患者さんの指名や住所など具体的な個人情報を直接入力することは避け、匿名化することが必須です。
AIが全て正しいと思わず、必ず一度自分の目で確認してから使用するようにしましょう。
今回は、あくまで個人的に決めている線引きについてご紹介します。線引きの内容については組織や個人によっても異なるため、これが正しいというわけではないものとして参考にしてください。
志垣さん よく「名前さえ消せば大丈夫」と思われがちですが、疾患名や家族構成、特異なエピソードが重なると、文脈から個人が特定されてしまうリスクがあります。
臨床の相談をしたい時は、具体的なデータを貼るのではなく、「一般的な症例」として抽象化して質問する癖をつけることを意識すると良いかもしれません。
そして何より、「判断は人間にあり、AIの出力はあくまで下書き」という鉄則を忘れないことが、自分たちの身を守ることにつながります。
事前質問への回答(一部抜粋)
Q: ExcelやパワポでのAI活用法は?
志垣さん 私はMicrosoft CopilotなどのOffice組み込み機能は使っていません。無理にツールを連動させなくても、ChatGPTなどで作った下書きをコピペするだけで、資料作成のスピードは十分に上がります。
Q: 臨床現場での具体的な使い方は?
志垣さん 「患者説明文の下書き」がおすすめです 。同じ内容でも「ご家族向けに分かりやすく」「中学生でも理解できるように」とAIに書き分けてもらうことで、説明の質がぐっと上がります。
Q: 最新情報の収集ツール(OpenEvidenceやGrok)はどう?
志垣さん OpenEvidenceは現在の私のフローには入っていません。流行りのツールを全部追う必要はなく、自分の目的に合うものだけを使いこなせばいいと考えています。
Q: 勤務表作成や人員配置にAIは使える?
志垣さん 実は今、そうしたAIアプリを開発中ですが、正直ものすごく苦労しています。現場の複雑な人間関係やパズルを解くのは、AIにとっても難関の一つです。
志垣さん、貴重な実践例と丁寧な質問回答をしてくださりありがとうございました。
座談会の後半パートでは、ゲストの志垣さんへの質疑応答に加え、参加者の皆さんと「現場の生の声」を交わす時間を持ちました。
アンケートから見えた「現場のリアル」
当日、参加者の皆さんに「具体的にどんな業務でAIを活用しているか、あるいは使ってみたいか」という簡単なアンケートを行いました。
結果、最も多かったのは「情報収集」や「文章作成の下書き」「資料作り」でしたが、同時に「業務ではまだ使っていない」という声もありました。
特に、「AI活用を他部署へどう波及させればいいか」という質問に対して「うちの職場ではこう動いている」「ここが壁になっている」と参加者の皆さんからも声が上がり、共に悩みを共有する非常に温かい時間になりました。
最後に、志垣さんから提案されたアクションプランとしては、 自分の業務を「得意3つ・苦手3つ」に仕分けて、「苦手なこと」を、まずはAIに任せてみるといった内容でした。
AIは決して魔法ではありませんが、私たちの「ゆとり」を生んでくれるパートナーになり得ます。日に日に進化するAIに、少しずつ触れてみることが大切という志垣さんの言葉に背中を押された方も少なくないのではないでしょうか。
PT-OT-ST.NETでは今後も、臨床におけるAI活用のトピックスに着目していきます。
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
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