財政制度等審議会は26日、財政制度分科会にて建議「人口減少と不確実性の時代における国力の強化と財政運営」を取りまとめました。
建議は、政府の予算編成や「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)などに向けて、財政当局の立場から今後の制度改革や歳出改革の方向性を示すものです。直ちに制度改正を決定するものではありませんが、診療報酬・介護報酬改定や社会保障制度改革の議論に影響を与える可能性があります。
今回の建議では、人口減少が進む中で、限られた財源や人材をどのように有効活用していくかが大きな論点とされました。医療・介護分野についても、人材確保、生産性向上、報酬体系の見直し、介護サービス提供体制の再構築などに関する方向性が示されています。
リハビリテーション専門職に関しては、「医師・歯科医師・薬剤師以外の医療関係職種医療関係職種(看護職員、リハビリテーション専門職員)を見ても、従事者数は一貫して増加している」と言及。今後の養成規模、専門職間の役割分担、アウトカム評価のあり方などが論点として挙げられました。
EBPMを軸とした政策評価の推進
建議では、政策実施後の成果を測定し、必要に応じて修正するなど、より良い政策へと更新していく予算編成サイクルを回すことが重要であると指摘しています。その中核として、EBPM(証拠に基づく政策立案)の活用をより一層推進すべきとしました。
この考え方は、医療・介護分野にも通じるものです。単に事業やサービスを実施したかどうかではなく、実施後にどのような成果が得られたのかを測定し、制度や報酬体系の見直しにつなげていく視点が、今後さらに重視されることになります。
リハビリテーションにおいても、提供量や実施体制だけでなく、ADL、生活機能、QOL、自立支援、要介護度の改善など、提供したサービスがどのような成果につながったかを示すことがより重要になる可能性が考えられます。
医療・介護分野における人材制約
建議では、医療・介護分野を含む保健衛生・社会事業について、就業者数が大きく増加している一方、労働生産性は低下していると指摘しました。
人口減少が続く中で、医療・介護分野に人材を過度に固定化させるのではなく、希少な人材を社会全体で有効活用していく視点が重要であると提起しています。
医療関係職種については、看護職員やリハビリテーション専門職員の従事者数が一貫して増加していると指摘。
その上で、少子化が進む中で現在の養成規模が今後も維持された場合、18歳人口に占める医療関係職種の割合は大きく上昇することから、質が確保された医療専門職を最大限に活かすことの必要性が示されました。
タスクシフト・シェアと専門資格のあり方
専門人材の効率的活用については、職種間でのタスクシフト・シェアや多職種連携の強化を進めることが重要であるとしています。
令和8年度診療報酬改定では、多職種の協働により患者への適切なケアが実施される場合に、事実上、看護職員の配置を緩和する仕組みが導入されたことにも触れています。
さらに建議では、医療提供のさらなる効率化に向け、中長期的には、現状では分断されている業際規制の見直しも検討すべきとし、医療専門資格の統合も視野に入れるべきと記載しました。
この記載は、直ちに理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の資格制度の見直しが進むことを意味するものではありません。一方で、人口減少下における医療提供体制の再構築の中で、専門職の業務範囲や多職種協働のあり方が、今後の論点となる可能性があります。
報酬体系はアウトカム評価を重視する方向へ
医療提供の効率化を支える報酬体系についても、建議では見直しの方向性が示されました。
現在の診療報酬体系は、ストラクチャー評価やプロセス評価を基礎としており、出来高払いが中心となっていることから、個々の医療機関では、手厚い人員配置の下で、より多くの医療を提供することが合理的な選択となりやすいと指摘しました。
過去にも財務省は、回復期リハビリテーション病棟などにおいて、基準上の必要数を超えて専門職を配置している施設が少なくないと指摘。建議の中で「人員配置の適正化を徹底すべき」と明記し、ストラクチャー評価からの脱却を提言しています。
今後は、入院・外来ともに、アウトカム評価を中心に据えた上で報酬の包括払い化を進めることで、医療の質を確保しつつ、できるだけ少ない人員で医療を提供することを適切に評価できる報酬体系に転換すべきとしています。
リハビリテーションに関わる現場においても、実施単位数や人員配置だけでなく、患者・利用者の生活機能やQOLの改善など、成果をどのように評価し、可視化していくかが問われることになりそうです。
介護現場では生産性向上と提供体制の再構築を重視
介護分野については、介護人材の確保と保険料負担の抑制を両立するため、介護報酬による賃上げだけでなく、介護現場の生産性向上が必要であるとの考えが示されました。
具体的には、介護テクノロジーの導入や、経営の協働化・大規模化を進めることで、収益の増加、職員の賃上げ、さらなる生産性向上投資につなげる好循環を実現すべきとしました。
また、人口減少地域における介護サービス提供体制については、「『特定地域サービス』等を活用しながら、配置基準のさらなる柔軟化、介護事業所の多機能化・広域化、医療・介護の連携強化を進めることが考えられる」としています。
地域リハビリテーションや在宅支援に関わる専門職にとっても、単独の事業所や職種だけで完結するのではなく、地域全体で必要な機能をどのように維持していくかという視点が重要になります。
介護報酬でも自立支援・要介護度改善へのインセンティブを提言
社会保障分野の介護に関する記載では、介護保険制度の持続可能性を確保する観点から、給付の効率化・適正化が論点として示されました。
介護報酬については、利用者の要介護度が進むにつれて報酬が高くなる構造であると指摘。その上で、利用者のウェルビーイングや給付費抑制の観点からは、本来、要介護状態からの自立や、要介護度の改善を促進する構造にすべきであるとしました。
ケアマネジメントの報酬においても、アウトカム評価に基づく仕組みを導入するなど、自立・要介護度改善へのインセンティブ付けを検討すべきとしています。
リハビリテーション専門職にとっては、自立支援や生活機能向上に向けた関与を、ケアマネジメントや介護サービス全体の中でどのように位置づけ、成果として示していくかが重要になります。
軽度者サービスと保険外サービスの活用
建議では、軽度者に対する生活援助サービス等の地域支援事業への移行についても、改めて提言されました。
過去には、要支援者(要支援1・2)に対する訪問介護・通所介護について、地域支援事業へ移行されました。
今回、要介護1・2の軽度者に対する訪問介護・通所介護についても同様に、地域支援事業への移行を目指し、段階的に、生活援助サービスをはじめ、地域の実情に合わせた多様な主体による効率的・効果的なサービス提供を可能にすることが考えられるとしました。
また、今後も増大し続ける多様な介護需要に対して、介護保険事業のみで全て対応することは困難であり、介護保険事業と保険外の民間サービスを組み合わせて対応していくことが有益であるとしています。
リハビリテーション専門職にとっても、介護保険サービスの枠内での支援に加え、介護予防、生活支援、健康づくり、保険外サービスとの接続など、地域における多様な支援の中で専門性をどう発揮するかが論点となりそうです。
今後の医療・介護制度改革にも影響か
今回の建議は、財務省側の問題意識を示すものであり、直ちに制度変更が行われるものではありません。
一方で、医療・介護人材の効率的活用、タスクシフト・シェア、報酬体系の包括化、アウトカム評価、介護テクノロジー、軽度者サービスの見直し、保険外サービスの活用といった論点は、今後の診療報酬・介護報酬改定の議論にも影響を与える可能性があります。
リハビリテーション専門職にとっては、専門性を発揮しながら、多職種と連携して限られた人材・財源の中で必要な支援を届けること、それと同時に提供したリハビリテーションの成果を可視化し、説明できることが、これまで以上に重要になると考えられます。
引用・参考:
■ 建議「人口減少と不確実性の時代における国力の強化と財政運営」(財政制度等審議会 財政制度分科会)