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2026.08.27

【開催レポート】ウィメンズヘルスと理学療法 第1回|医療機関での取り組みと自費診療の実態 ― 理学療法士・井澤美保さん



8月4日、リハビリテーション職を対象にPT-OT-ST.NET主催のオンライン座談会『ウィメンズヘルスと理学療法 第1回』を開催しました。

ゲストは、医療機関で女性骨盤底外来を立ち上げ、排尿ケアチームの運営にも携わった経験を持つ理学療法士・井澤美保さん。「医療機関での取り組みと自費診療の実態」をテーマにお話しいただきました。

座談会には100名を超える応募があり、医療機関に勤めている方から自費リハビリテーションでウィメンズヘルス分野に関わっている方、これから挑戦してみたいという方まで、さまざまな立場の方が参加されました。

井澤さんの経験談をもとに、自分なりに何ができるのか、今の環境でできる第一歩を見据えることができる機会となりました。

本レポートでは、井澤さんのこれまでの歩みと取り組みについて一部ご紹介します。

【座談会】「ウィメンズヘルスと理学療法」第1回: 医療機関での取り組みと自費診療の実態|理学療法士 井澤美保さん

2026.07.21


原点は「自分自身の経験」から

井澤さんがウィメンズヘルスに関心を持ったきっかけは、ご自身の妊娠・出産の経験でした。

妊娠中は体も心も大きく変わります。いつまで働けるのか、どのくらい動いていいのか、悩むことが次々と出てきても、どこに相談すればいいのかがわからない。そんな状況が、理学療法士として働いていた井澤さん自身にも起きていました。

さらに、一人目の出産直後には子どもが救急搬送されるという出来事が起きました。子どもは別の病院へ搬送される中、自分は産後で思うように動けないまま産院に残り、会いに行くこともできない。そのとき痛感したのは、何かあったときに頼れる場所・支えてくれる存在の大切さでした。この経験が、「女性が安心して相談できる場所を作りたい」という思いの原点になっていきました。

その後、二人目の妊娠中、「これはチャンスだ」と感じた井澤さんは、職場のスタッフや主治医に相談しながら、自ら妊娠中の運動負荷試験に取り組みました。産後6か月で学会発表までやり遂げたその場で、初めて「ウィメンズヘルス」という分野の存在を知りました。それまで独学で学びを深めてきた井澤さんにとって、同じ問いを持つ人たちがいるのだという発見は、大きな一歩でした。



病院での骨盤底外来立ち上げ

2014年、勤務先の総合病院で、泌尿器科の医師から「尿漏れ・頻尿・骨盤臓器脱で悩む女性のサポートをしてほしい」という依頼がありました。

当時、日本ではこの領域に関する論文自体がまだ少なく、井澤さんは海外文献を読みながら手探りで学んでいました。そんな中で、自分の職場に実践できる場ができたことは「大きな一歩」でした。

医師が全面的にバックアップしてくださる体制と「何かあったら一緒にサポートするから」という言葉が背中を押しました。依頼を受けた翌月には早速動き始め、さらにその翌月にはプレ開催を実施するという、驚くほどのスピードで外来が動き出しました。

外来では個別ケアと集団教室の両軸で展開し、さらには院内の排尿ケアチームの立ち上げと後進育成にも関わっていきました。


現場で見えてきた「本当の課題」

外来を続ける中で、症状の奥にある生活の困りごとが見えてきました。傾向としては、治療を必要としている段階に達している方が多く来院されます。

しかし、受診するほどではないが気になる症状がある、という方にとっては外来受診の手前で止まってしまい、どこに相談したらいいのかわからないということに気づきます。

また、症状の奥にある「生活自体の困りごと」が見えてきました。

「尿漏れが気になり外出できなくなった」「遠出をすると不安で旅行を諦めた」「力を入れられないから孫を抱っこできない、寂しい」

患者さんたちの言葉は、尿漏れや骨盤臓器脱が単なる身体症状にとどまらず、日常生活のあらゆる場面に影響していました。症状だけを見ていては届かないものがある。そのことを、井澤さんは日々の外来を通して実感していきました。

一方で、保険診療の枠の中では、生活全体に伴走し続けることには限界があります。病院だけでは支えきれない女性たちの力になるためには、別のアプローチが必要だと思い、焦点は「病院の外」へと向かっていきました。


地域での取り組み ~医療と生活をつなぐ場所づくり~



総合病院を退職し独立することを決意。現在、井澤さんは古民家・カフェ・無印良品でのワークショップ、子育て支援施設での産後講座など、「女性が日常生活の延長で立ち寄れる場所」での活動を展開されています。

「病院に行くほどじゃないけど、相談したい」「でも、どこに行けばいいかわからない」

そうした段階にいる女性たちが、専門外来にたどり着くまでに、もっと手前の場所に相談できる入口があれば、という思いが、地域への活動につながっていきました。

現在は循環器内科クリニックでの骨盤底外来も担当しており、医療と地域の両方に軸足を置きながら実践を続けています。

さらに、セラピスト育成事業にも力を入れており、「私一人では、すべての声を受け止めることができない。同じ思いを持った仲間を、いろんな場所に増やしたい」その言葉には、一人では届けられない場所に届けるために、仲間を増やしたいという強い意志が伝わってきました。


仕事・事業・家庭の両立について

とても活動的な一方で、家庭と仕事の両立は今も「できていない」と感じているようです。その言葉の背景には、一時期、母親として、妻として、女性としての役割を考えすぎて苦しくなってしまった経験がありました。

そこから気づいたのは、自分だけが頑張り続けなくていいということ、そして自分がどんなふうに生きていきたいのかという問いと向き合うことの大切さでした。今も家族の予定を先に手帳に入れておくことや、忙しい時は夫を頼ることなど小さな工夫を続けながらも、「両立できていると思えたことはない」と笑顔で話されたことが印象的でした。

どうなったら両立している状態なのか、自分はどんなバランスでありたいのか、まずは自分がどうしたいのかと向き合うことが出発点になると伝えていただきました。そうした悩みや気になることも相談できるのが井澤さんが提供する場の一つです。


学びはゴールではない

井澤さん 「学びはゴールではない」と私は思っています。

知識や技術を習得し、新しい学びを積み重ねることはもちろん大切です。でも、本当に大切なのは、学んだことを目の前の一人にしっかり届けること。そして、安心して相談できる場所があると知ってもらうこと。その小さな積み重ねが、女性がライフステージを通じて安心して暮らせる未来へとつながっていくと信じています。

もし興味を持って何かしてみたいと思った方は、まず現場を見学に行ってみてください。机上で学ぶことと、現場で感じることは全く違います。その第一歩を踏み出す時にはぜひ気軽にご連絡いただけたら嬉しいです。


参加者からの質問(一部抜粋)

座談会の後半は参加者の皆様より、多くの声が寄せられました。その中からいくつか質問を抜粋しご紹介します。

Q. 妊娠・出産を経験していなくても、この分野に関われますか?

井澤さん 妊娠出産を経験していないからといって、引け目を感じないでください。

例えば、骨折していなくても骨折された患者さんに関わるのと同じで、理学療法士としてのトレーニングをしっかり積んでいれば大丈夫です。

理学療法士だからこそできる、ということではなく、色んな職種・立場の方がその強みを活かして関わっていただくことで包括的なサポートができると感じています。

私たちが日頃から行っている評価・情報収集・身体状況の考察こそが強みであり、それをこの領域でも発揮することが大切なのかなと思っています。


Q. 病院勤務をしながら、この分野に関わるにはどうすればいいですか?

井澤さん まずは職場の仲間や家族、友人に話してみることから始めてみてはいかがでしょうか。まだ見ぬ誰かに届けたいと思う前に、今自分の周りにいる人に届けることが、新しい一歩になるかもしれません。

例えば院内で実施されている公開講座の枠をもらって骨盤底筋の話をしたり、事務の方や地域連携室を巻き込んで、公民館でイベントをしたりなど職場の取り組みに応じたアイディアをまずは職場の仲間に相談してみると、一緒に取り組んでくれる方が出てくるかもしれません。

今の職場・立場で、できることを一つひとつ積み上げていくことが大切で、必ずしも今の職場を離れないとできないというものではないということが伝わると嬉しいです。



井澤さんがご自身の歩みを振り返りながら、「恵まれた環境だった」と話してくださる場面がありました。しかしその言葉の裏側には、相談できる場所を一つひとつ手探りで作り続けてきた、ご自身による長い試行錯誤の年月があります。

今回の座談会を通じて印象的だったのは、「今の自分の環境でできることは何か」「目の前の一人にとって、今できることは何か」そういった問いを、聴いている誰もが自分ごととして考えられるような話し方をしてくださったことです。特別な環境や資格がなくても、ファーストアクションは必ずあるということを、参加されたみなさんが感じ取れた時間だったのではないでしょうか。

また、「机上の勉強だけではわからないことがたくさんある。興味を持ったら、ぜひ現場に見学に行ってほしい」という言葉も、多くの方の背中を押したと感じます。

知識を積み重ねることと、実際の現場に触れることは、どちらも欠かせない学びの形です。今回の座談会がそのどちらも大切にしながら、一歩ずつ進んでいくきっかけになっていれば幸いです。

井澤さん、貴重な経験談をありのまま率直にお話しいただき、ありがとうございました。

「ウィメンズヘルスと理学療法」は、第2回の企画を進めています。エビデンスの現在地や保険収載に向けた取り組みをテーマに座談会を開催したいと思いますので、ぜひ今後のお知らせをチェックいただけると嬉しいです。詳細はPT-OT-ST.NETのトピックスをご確認ください。

▪️井澤さんInstagram
https://www.instagram.com/miho.izawa/
https://www.instagram.com/women.care.koshigaya/

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