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2026.07.16

【座談会レポート】高次脳機能障害者支援法は、いかにして実現したのか 第3回:現場の実務はどう動くか? そして今後の課題



令和7年(2025年)12月16日、長きにわたる当事者・家族会の地道な活動が実を結び、「高次脳機能障害者支援法」が衆参両院の全会一致で成立しました。

本連載では、PT-OT-ST.NETが主催したオンライン座談会をもとに、法成立に向けて活動を続けてきたNPO法人日本高次脳機能障害友の会理事長・片岡保憲さん(理学療法士)と同会事務局・岡村忠弘さん(作業療法士)のお話を全3回にわたってお届けします。

第1回では、当事者・家族のリアルな「生きづらさの物語」が、どのように国を動かしていったのかを紹介しました。第2回では、「命をつなぐADL」から「生きがい」を支える支援へという視点から、療法士の役割を考えました。最終回となる第3回では、施行後の実務や今後の課題について整理します。

【連載ラインナップ】
第1回:高知の一理学療法士は、どのようにして「制度」を変えたのか
第2回:高次脳機能障害者支援法の成立で、療法士の役割はどう変わるのか
第3回:現場の実務はどう動くか? そして今後の課題
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第3回:現場の実務はどう動くか? そして今後の課題


支援施策を見直し続ける仕組み――「地域格差」の是正へ

片岡さん 今回成立した高次脳機能障害者支援法の大きな特徴の一つとして、支援施策を継続的に見直していく仕組みが挙げられます。

法律では、国や地方公共団体に対して、体系的・実効的な支援策を策定・実施することや、その実施状況を随時公表することなどが求められています。

こうした仕組みを、支援施策を実施し、状況を確認し、改善につなげていくPDCAサイクルの実現として捉えています。



片岡さん 現在、高次脳機能障害の支援拠点機関は各都道府県に設置されています。しかし、予算や専門人材の確保において、地域ごとに大きな差が生じているのが現状です。

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片岡さん なかには、年間数十万円程度しか予算がつかない県もあります。そうした中で、各自治体が施策の実施状況を公表し、共有することには大きな意味があります。限られた予算の中でも工夫して取り組んでいる事例を、他の地域が参考にできるようになるからです。

このPDCAサイクルを数年、十数年と回し続けることで、全国どこに住んでいても必要な支援にたどり着ける体制へと近づいていくことが期待されます。


現場の実務的な懸念にどう対応するか

座談会の後半では、日本高次脳機能障害友の会事務局であり、作業療法士でもある岡村さんから、医療現場や支援機関が抱く実務的な懸念についても説明がありました。

岡村さん 一つ目は、支援コーディネーターの質をどのように担保するかという課題です。

支援センターに配置される支援コーディネーターについては、社会福祉士、精神保健福祉士、保健師、作業療法士、公認心理師、言語聴覚士等の高次脳機能障害者及びその家族その他の関係者に対する専門的相談支援を行うのに適切な者を配置することが想定されています。

一方で、現時点では、それ以上の明確な基準が細かく設けられているわけではありません。この点について、今後の運用の中で検討していくべき課題だと考えます。

二つ目は、回復期リハビリテーション病棟と高次脳機能障害支援センターにおける高次脳機能障害者等への支援についてです。

診療報酬改定において、退院時に相談窓口の情報を把握し、提供することが求められるようになったことに対し、回復期病院側からは「地域の情報を集めきれるのか」という不安の声も上がっています。

これに対して、高知県の取り組みが一つの参考になります。高知県では、高次脳機能障害者支援センターがワンストップ窓口として相談を受け付けています。病院側が相談内容に応じて支援機関やサービス事業所を選定するのではなく、まず支援センターが相談を受け、就労支援や障害福祉サービス、地域資源などに関する情報を踏まえて適切な支援先につなぐ仕組みとなっています。

このように、支援センターが相談の一次窓口となり、県がその体制を後ろ盾として支えることで、病院側の負担を軽減しながら、円滑な地域移行支援にもつなげていければと考えています。

三つ目は、相談窓口の一本化をめぐる論点です。

ADHDや自閉症スペクトラム症などの先天的な発達障害と、後天的な高次脳機能障害について、相談窓口を一本化すべきではないかという意見もあります。

しかし、就労や修学など、その後の生活課題が多岐にわたるため、これを一つの窓口で対応しようとすると、専門職に求められる対応範囲が広くなりすぎることも指摘されます。

理想としては一体的な相談体制が望ましい面もあるものの、専門性や実務負担を考えると、現実的には窓口を分ける方が対応しやすいというのが、現場の実感としてあるところです。




施行後3年の見直しに向けた「残された課題」

片岡さん 高次脳機能障害者支援法は、令和8年(2026年)4月1日に施行され、施行後3年を目途に見直しが検討される予定です。

今回の法律には可能な限り幅広い要素を盛り込んだとしつつも、まだ十分にカバーしきれていない課題があります。

その一つが、「子どもの高次脳機能障害」です。子どもの高次脳機能障害については、支援体制や理解が十分に整っているとは言い難く、教育、医療、福祉がどのように連携していくのかも含め、今後の議論の広がりが強く求められる分野です。

また、障害のある当事者同士が支え合う「ピアサポート」のあり方についても、今後さらに議論を深め、制度をブラッシュアップしていく必要があります。

法成立は一つの到達点であると同時に、施行後の運用と見直しを通じて制度を育てていく段階の始まりでもあります。


これからの当事者・家族会のあり方

片岡さん 約10年にわたる地道な活動の末、全会一致での法案成立という大きな成果を当事者・家族会として手にすることができました。しかし、これをゴールとは捉えていません。

法律が成立したことは一つの成果であり、社会全体で高次脳機能障害について議論してもらえる未来が来るかもしれない。しかし、だからこそ、いつまでも自分たちの窮状ばかりを訴える団体であってはいけないと考えています。

日本には、高次脳機能障害以外にも、さまざまな困難を抱えて苦しんでいる人々がいます。自分たちのことだけでなく、周りで困難を抱えている他の障害や立場の人たちのことも考えられるような組織体に変化していかなければならないと感じています。


法律を「戦う武器」ではなく、社会との「共感のツール」へ

当事者・家族のリアルな物語と、それを社会に届け続けてきた人々の歩みから生まれたこの法律は、高次脳機能障害のある人たちへの支援を前に進めるだけでなく、地域社会が当事者の生きづらさにどう向き合うのかを問い直す契機にもなります。

誰もが、暮らしたい場所で、機嫌よく生きられる社会へ。その実現に向けて、高次脳機能障害者支援法は新たなスタートラインに立ったといえるでしょう。



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