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2026.07.14

【座談会レポート】高次脳機能障害者支援法は、いかにして実現したのか 第2回:高次脳機能障害者支援法の成立で、療法士の役割はどう変わるのか



令和7年(2025年)12月16日、長きにわたる当事者・家族会の地道な活動が実を結び、「高次脳機能障害者支援法」が衆参両院の全会一致で成立しました。

本連載では、PT-OT-ST.NETが主催したオンライン座談会をもとに、法成立に向けて活動を続けてきたNPO法人日本高次脳機能障害友の会理事長・片岡保憲さん(理学療法士)と同会事務局・岡村忠弘さん(作業療法士)のお話を全3回にわたってお届けします。

第1回では、当事者・家族のリアルな「生きづらさの物語」が、どのように国を動かしていったのかを紹介しました。第2回では、支援法の成立を受けて、療法士の役割がどのように問い直されるのかを考えます。

【連載ラインナップ】
第1回:高知の一理学療法士は、どのようにして「制度」を変えたのか
第2回:高次脳機能障害者支援法の成立で、療法士の役割はどう変わるのか
第3回:現場の実務はどう動くか? そして今後の課題
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第2回:高次脳機能障害者支援法の成立で、療法士の役割はどう変わるのか


「命をつなぐADL」から「生きがい」を支える支援へ

片岡さんは、自身も医療従事者として病院で働いてきた経験を踏まえ、医療現場におけるリハビリテーションのあり方を振り返りました。

片岡さん 病院では、「歩けるようになること」はもちろん、食事、入浴、排泄といったADLの獲得が重要な目標となります。いわば、生命や生活の維持に直結する課題を、医療的な評価と介入によって支える支援です。

もちろん、命をつなぐためのADLの獲得は極めて重要です。しかし、視点を変えて「人は何のために生きているのか」と考えたとき、毎日排泄をすることや、最低限の食事をとることだけを人生の生きがいにしている人は少ないはずです。

人が生きていく上で本当に大切にしているものは、映画を見に行く、友人と旅行に行く、お祭りに参加する、といった時間かもしれません。それらは、やらなくても命に直ちに関わるものではありません。しかし、その人にとっては人生の楽しみであり、生きがいそのものです。

今回成立した法律の基本理念には、高次脳機能障害者が「基本的人権を享有する個人としての尊厳」を保ち、地域社会で他の人々と共に生きることを妨げられないよう支援を行う、という考え方が示されています。

この人権とは、障害の有無にかかわらず、一人ひとりが生きがいを持ち、暮らしたい場所で、機嫌よく生きられることを保障することではないかと思います。



療法士もまた、医学的な機能回復、すなわち「治すこと」だけにとどまらず、社会が歩み寄ることで当事者が楽しい人生を送れるようになるという、社会モデルの視点を持つことが求められています。


病院から地域へ――患者の「未来を想像する力」を持つ

片岡さんは、病院勤務の療法士に向けて、「自分自身の反省でもあるが、想像力が足りていなかった」と語りました。

片岡さん 療法士は、リハビリテーションの時間を重ねる中で、患者と良好な関係を築き、患者の身体や心の声、あるいは言葉にならない違和感や訴えに触れる存在になり得ます。

しかし、患者が退院し、自分の手を離れて地域コミュニティへ帰っていくとき、その先でどのような困難やトラブルが起こり得るかを、どこまで想像できているでしょうか。

患者を地域へ送り出す際に不安要素があるならば、「困ったときはここに相談するんだよ」と、支援拠点機関などの相談先を当事者や家族にあらかじめ伝えておく。あるいは、支援拠点機関に対して「こういう人が地域に帰るので、少し様子を見ておいてほしい」と情報提供を行う。

このような一歩踏み込んだ連携を実践しようとする思いのきっかけに、この法律がなってほしいです。


「クロノス」と「カイロス」――当事者の気づきに伴走する

片岡さん リハビリテーションの現場では、「何月何日までに歩行を自立させる」といった、客観的な時間に基づく目標設定が一般的です。こうした時間を「クロノス」と表現します。

一方で、高次脳機能障害の回復や障害受容のプロセスは、必ずしもこのクロノス通りには進みません。

そこで重要になるのが、もう一つの時間概念である「カイロス」です。カイロスとは、「花が咲く時」や「子どもが生まれる時」のように、いつ訪れるかは分からないけれど、その人にとって意味を持つ「その時」を指します。

高次脳機能障害の当事者にも、「自分は忘れっぽいのかもしれない」「人に迷惑をかけているのかもしれない」と、自らの障害に気づき、受け止めようとする瞬間が訪れることがあります。

療法士に求められるのは、その瞬間が訪れるまで、当事者と信頼関係を築きながら伴走し続けることです。そして、気づきの瞬間にどのような言葉をかけるかが、その後の人生を大きく左右する重要な支援になります。




法律を「戦う武器」ではなく「共感のツール」に

片岡さん 新たに成立した高次脳機能障害者支援法は、現場の支援者にとって大きな力となるものです。一方で、この法律の「使い方」についても注意が必要です。

この法律ができたからといって、これを振りかざして『ここを変えてくれ』『あれを変えてくれ』と、社会や行政と喧嘩をするために使ってほしくないと思います。

この法律は、当事者の未来を想像し、社会の歩み寄りを促し、共感してくれる支援の仲間を増やしていくために活用されるべきものです。

目の前の患者・利用者の「生きがい」を取り戻すために、療法士は地域社会とどのように手を取り合うことができるのか。

高次脳機能障害者支援法の成立は、制度の前進であると同時に、患者・利用者の退院後の暮らしや、その先にある「生きがい」まで想像する療法士の役割を問い直す契機にもなると期待しています。

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