厚生労働省は8月24日、「第4回 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」を開催しました。今回は、①多様な人材が参入しやすい養成課程、②医療関係職種の養成・確保体制の在り方の2点について議論されました。
検討会では、7月に閣議決定された骨太方針2026・日本成長戦略、第129回社会保障審議会医療部会での議論も報告されました。骨太方針には「医療人材の実効的な養成・確保の方策について検討する」と明記され、本検討会の位置づけが方針上も裏づけられた形です。
本記事では、このうち①多様な人材が参入しやすい養成課程についての議論を取り上げます。
制度を柔軟にするだけで人材は集まるのか。委員からは、その問いに正面から向き合うよう求める声が相次ぎました。
多様な人材が参入しやすい養成課程について
厚生労働省は、履修免除等の既存の仕組みに加え、社会人等が働きながら学びやすい養成環境の整備の必要性を「正面から捉え」、養成課程の在り方を検討してはどうかと提起しました。
あわせて、医療関係職種のキャリアチェンジを、現場で得た気づきを自らのキャリア形成に反映し、成長実感を得ながら長く働き続けられる手段として捉え、その環境整備を議論してはどうかと示しました。
調査速報値(キャリアチェンジ推進モデル事業)
論点の土台として、既修得単位の履修免除の実態調査(速報値)が報告されました。この調査は、医療関係職種におけるキャリアチェンジの実態を把握し、課題の整理・好事例の展開を図ることでキャリアチェンジの支援を推進することを目的としています。
全国1,920校を対象に7月に実施し、速報時点で回答1,134校(回答率60.3%、最終的に約7割まで回収)。主な調査結果として以下が示されました。
- 約7割の学校が社会人・既資格者への履修免除・単位認定を実施しており、仕組みとしては広く普及している。
- 対象分野は「基礎分野」が中心(95.0%)で、専門基礎分野55.3%・専門分野35.2%と、専門性が高いほど適用は限定的。
- 認定実績は年間1〜2単位の学校が最多で、学生1人当たりの平均は約3単位。
- 履修免除・単位認定の導入理由は「社会人の入学促進」が最多。「働きながら学びやすい環境の整備」を理由とする回答は少なかった。
- 制度導入による入学者数の変化は「変化なし」が8割超で、影響は限定的。
- 運用上の課題は、学校側・学生側ともに「既修得単位の評価に必要な書類・情報(過去のシラバス等)が揃わない」が最多。
主な議論
委員からは、制度の柔軟化だけでは参入は進まないとの認識が相次ぎ、「働きながら学べる教育環境の整備」と「教育の質の担保」を両輪で進めるべきとの意見が大勢を占めました。
具体的には、ICTの活用や夜間・週末・オンデマンド授業、社会人向けコースなど柔軟な養成課程を求める声、授業料の給付や返済免除型奨学金など経済的支援を求める声が多く挙がりました。
一方で、養成の質を下げてはならないとの観点から、教職員に過度な負担をかけないよう国の財政的・人的支援が必要との指摘もありました。
また、他産業からの参入は現状乏しく効果は限定的とみて、賃金・処遇が低く休暇も取りにくいという医療分野へのマイナスイメージの払拭や、他産業や離職者へのヒアリングなど、より幅広い視野での検討を求める意見も出ました。
履修免除については、消極的になる必要はなく、教育機関間で事前に免除を認め合うネットワークの確立や、時間・単位数ではなく「何ができるか(コンピテンス)」に基づく既修学習の認定へ発想を転換すべきとの提案もありました。
医療職種間のキャリアチェンジについては、そもそものニーズの程度を把握したうえで議論すべきとの指摘が引き続き示されました。
議論の前提の確認 ― 「現行の業務範囲を前提とするのか」
質疑では、社会人が参入しやすい養成の在り方を検討するにあたり、各職種の資格・養成内容を定める法制度まで踏み込んで見直す可能性があるのか、複数の委員から質問が出ました。
これについて、中野夕香里委員(日本看護協会)は、「法改正まで踏み込むのか否かが曖昧なまま議論されると、各団体として意見を出しにくい」として、厚生労働省の考えを明確にするよう改めて確認を求めました。
厚生労働省は、本検討会の議論は現行の各職種の業務範囲を前提とし、それを踏まえて各職種および医療界全体の確保方策をどう図るかを検討するものだと説明。佐々木医政局長らも、まず現在の役割分担を前提に、どうすれば参入・キャリアチェンジしやすくなるかを議論する趣旨だとして、議論の「軸」を整理しました。
多様な人材の参入・キャリアチェンジを議論する土台として、資格制度そのものの見直しではなく、養成環境・支援の在り方に焦点を置くことが確認された形です。
PT・OT・STからの発言
日本作業療法士協会・山本伸一会長は、キャリアチェンジ・学び直しの促進は、限られた労働力の有効活用にとどまらず、異なる経験・能力を持つ人材を医療現場に迎える意義があるとして賛同。
そのうえで、単位認定や修業年限の短縮だけでは不十分であり、ICTの活用、夜間・休日授業、柔軟な実習体制など、ライフスタイルや就業状況に応じて学べる仕組みの充実が必要だと述べました。
制度を設けるだけでなく、実際に入学やキャリアチェンジにつながっているかの継続的な検証・改善、他産業からの参入者に医療職への関心が向くよう国による積極的な広報も求めました。
日本言語聴覚士協会・内山量史会長は、方向性に基本的に賛同し、「単位を認定するだけでは社会人は目指してくれない」ことが調査で示された意義は大きいと指摘。
仕事を辞めずに学べるか、実習への対応、学費、国家試験までのロードマップ、卒業後の就職、家庭・子育てとの両立といった課題を挙げ、就労と養成課程を両立できる教育環境の整備が重要だとしました。
あわせて、多様な人材の参入によって現場の質が低下することは避けねばならないとして、卒後教育による質の担保と、各団体が行う生涯学習・生涯教育制度への国の支援・認定をセットで検討するよう求めました。
日本理学療法士協会・斉藤秀之会長は、「各職種ではなく医療全体として人材が足りない、求められている職種だ」というメッセージを参入希望者に示すべきだと提起。
魅力ある職種として見せるには、資格で業務を規定するのではなく、各資格が実際に担う行為の広がりを見直し、「社会のニーズに応えてこんなことができる」という形で示す発想が有効だとし、13職種が集まる場だからこそ多様な見せ方ができると述べました。
若い世代に加え、AI人材など他産業の優秀な人材が保健医療産業を目指したくなるようなキャリアラダーの提示や、大胆な「見せ方」の工夫を求めました。
働きながら学べる環境整備、教育の質の確保へ
履修免除の仕組みそのものは広く定着しているものの、入学の促進にはあまり繋がっていない。調査が示したのは、そういった実態でした。この現実を踏まえ、働きながら学べる修学環境の整備や経済的な支援、そして教育の質の確保を、どう組み合わせて進めていくかが課題となります。
人材の養成には時間がかかり、2040年に向けて残された時間は多くありません。今回示されたさまざまな論点が、どのように具体的な施策へと落とし込まれていくのか。検討会の議論の行方が引き続き注目されます。
引用・参考
■ 第4回 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会(厚生労働省HP)
・資料3_多様な人材が参入しやすい養成課程について
■ 経済財政運営と改革の基本方針2026(令和8年7月21日 閣議決定)(内閣府HP)
■ 日本成長戦略(令和8年7月21日 閣議決定)(内閣官房HP)
■ 第129回社会保障審議会医療部会(令和8年7月24日)(厚生労働省HP)
・資料1 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会における議論の状況について