厚生労働省は9月16日、令和9年度介護報酬改定に向けて、中山間・人口減少地域の自治体や介護事業者からヒアリングを実施しました。
島根県や川本町、長崎県西海市などからは、利用者宅が点在することによる訪問・送迎コスト、船での移動を伴う長時間の拘束、利用者数の減少による経営の不安定さなどが報告されました。
自治体や事業者は、全国一律の介護報酬や人員基準では地域のサービス提供体制を維持することが難しいとして、移動コストの評価や地域の実情に応じた制度設計を求めました。
中山間地域では訪問・送迎コストが経営を圧迫
島根県は、中山間地域では高齢者の住まいが点在しており、都市部のように効率的な訪問ができないと説明。自動車による長距離移動が必要となる一方、1日に訪問できる件数は限られている実情を紹介しました。
県の調査では、前回の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬が引き下げられたなか、効率的な訪問が難しい事業所では、特別地域加算の有無にかかわらず赤字となっている実態が示されました。
川本町で訪問介護などを運営する川本福祉会は、ヘルパー1人当たりの1日の移動距離は平均約28.6km、移動時間は約40分に上ることを紹介。利用者のキャンセルがあった場合にも、予定していたヘルパーの人件費が発生している現状を報告しました。
通所介護についても、送迎距離が長くなるほど燃料費や人件費が増えますが、訪問介護のような特別地域加算はありません。このため、島根県内では遠距離の訪問や送迎に対し、市町村が独自に補助している例もあると指摘しました。
ヒアリングに出席した島根県は、住家が点在する地域の訪問・送迎コストを介護報酬で適切に評価することを要望し、介護報酬で対応することが難しい課題には、地域医療介護総合確保基金などを活用できるように求めました。
今回の自治体側の報告は訪問介護や通所介護が中心ですが、長距離移動によってサービス提供の効率が低下する問題は、訪問リハビリテーションなどにも共通します。
同日の団体ヒアリングでは、リハビリテーション専門職団体協議会が、訪問リハ事業所のない自治体が約4割に上るとして、中山間・人口減少地域における提供体制の拡充を要望しました。
離島では1回の訪問に半日、最長2日の拘束も
長崎県西海市からは、船による移動が必要な離島の実態が報告されました。
江島と平島では、島内に設置された介護サービス事業所は通所介護のみで、訪問介護や居宅介護支援は、基本的に本土から渡航する職員が担っており、市営船の運航時間の関係で、1回の訪問に職員が半日または1日拘束される実態が示されました。民間船を利用して江島から平島へ渡る場合には、出航時刻の関係で日帰りできず、2日間の拘束となるケースもあることも報告されました。
離島の通所介護事業所では、利用者数が少ないため、利用者の欠席などで利用実績が減ると介護報酬も減少し、経営への影響が大きくなります。一方、少人数であってもサービスを維持するための人員や設備は必要で、事業運営が不安定になりやすい状況です。
このような実態を踏まえ、長崎県と西海市は、事業所の減少が進む地域を特別地域加算の対象とする柔軟な運用や、離島での移動時間・拘束時間を踏まえた報酬上の支援を求めました。
通所介護についても、利用実績だけでなく、離島でサービスを維持するための固定的な負担を考慮した制度設計を要望しています。
訪問予定がなくても職員配置、年間約350万円の負担
邑智郡総合事務組合は、小規模多機能型居宅介護の人員配置基準について、具体的な見直しを提案しました。
現行の基準では、日中の「通い」に対応する職員に加え、ケアプラン上の訪問予定がない日にも、突発的な訪問に備えて訪問職員を1人以上配置する必要があります。
これについて、対象事業所では、日中の訪問サービスが1件もない日が月平均20日以上あり、訪問職員の待機に年間約350万円の人件費が生じていると説明しました。
同組合は、「通い」の3対1という配置基準の見直しを求めているわけではないと強調。そのうえで、ケアプラン上の訪問予定がない日に限り、併設する特別養護老人ホームや同一法人からの応援体制を確保することを条件として、訪問職員の配置を免除するよう求めました。
基準緩和だけではサービスの質を維持できない
一方、地域の実情に応じた人員基準の緩和については、サービスの質や職員負担への配慮も求められました。
川本福祉会は、専門職を含む職員の確保が難しいなか、配置基準の弾力化には期待を示しました。ただし、人員を減らすことでサービスの質や安全性が損なわれたり、残る職員の負担が増えたりすれば、さらなる人材流出につながる可能性があると指摘しています。
訪問介護への導入が検討されている月額包括報酬についても、事業収入の予見可能性が高まることには期待する一方、利用回数の少ない人の負担増や、利用者から訪問回数の増加を求められた場合の対応に懸念が示されました。
意見交換では、日本医療法人協会の鈴木邦彦氏から、加算による利用者負担の増加や、人員基準の緩和に伴うサービスの質の低下をどう考えるかとの指摘もありました。
今回の意見陳述を通じて、自治体や事業者からは、基準の緩和や業務の効率化だけでは地域の介護サービスを維持できないとして、処遇改善、移動コストへの支援、利用者負担への配慮を組み合わせた制度設計を求める意見が示されました。
今回報告された訪問・送迎の負担や人材確保の難しさは、訪問介護や通所介護に限った問題ではありません。訪問リハビリテーションや通所リハビリテーション、地域で活動する理学療法士、作業療法士、言語聴覚士にとっても、移動時間を含めた業務の評価や、人口減少地域で専門職を確保する仕組みは、サービス提供体制を維持するうえで重要な課題といえます。
関係団体や自治体からのヒアリングは今回で終了し、令和9年度介護報酬改定に向けて、今後は個別のサービスや制度の見直しについて本格的な議論が進められる予定です。
引用・参考
■ 第267回社会保障審議会介護給付費分科会(厚生労働省HP)
・【資料7】リハビリテーション専門職団体協議会
・【資料8】島根県
・【資料9】島根県川本町
・【資料10】島根県邑智郡
・【資料11】島根県川本福祉会
・【資料12】長崎県西海市、うずしお福祉会、ふるさと