理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が集うリハビリ情報サイト

PT-OT-ST.NET

トピックス

2026.09.28

「嚥下理学療法コンセンサスブック」公開 ー 姿勢の角度、離床時間、運動回数など21のCQ|日本栄養・嚥下理学療法学会



日本栄養・嚥下理学療法学会が、「嚥下理学療法コンセンサスブック」を学会誌の総説として公開しました。

臨床でよく遭遇する21の臨床疑問(clinical question:CQ)に対し、回答と解説を示す構成です。鈴木裕也氏(責任著者)ほか、コンセンサスブック作成委員会の16名が執筆しています。

同学会は2015年に設立され、嚥下理学療法の定義も設定されましたが、その具体的な内容は十分に普及しているとはいえない状況が続いていました。背景には、臨床場面で評価や介入方法がわからない、介入効果のエビデンスが不明であるといった声があったとされています。


エビデンスレベルは付けない、「実践の普及が不十分」という理由

本コンセンサスブックは、エビデンスのランクづけをしないことが特徴です。

その理由として挙げられているのは、嚥下理学療法という介入の定義や実践の普及が不十分であり、従来の嚥下機能練習との差別化がわかりにくく、質の高い治療のエビデンスを集めることが困難である点です。

そのうえで、ランクづけ以上に重視されたのが、嚥下理学療法の現状をまとめること、CQにおいてさらなるエビデンス構築が必要であることを改めて認識すること、そして新たなリサーチクエスチョンの誕生を期待することだと述べられています。


【21のCQ構成】呼吸・姿勢・体幹・全身から集中治療まで

CQの構成は、理学療法士の関与領域に沿って組み立てられています。

各CQは「関連するか」と「介入は有効か」を対にする構成が多く、評価から治療までの一連の情報をまとめて参照できるよう配列されています。



臨床でそのまま使える数値|姿勢角度・離床時間・運動回数

回答のなかには、現場でそのまま参照できる記述が含まれています。

食事姿勢(CQ5)

30度以上のセミファーラー位、至適角度は45度

嚥下障害を有する患者では、30度以上のセミファーラー位に加え、必要に応じてチンダウンや頭部回旋法を併用することが有用とされています。

嚥下造影検査による至適角度の検討では、90度や60度と比較して45度がもっとも良好でした。

誤嚥の程度が軽く、のどに残る食塊が少なく、食道の入口が開いている時間も長いという結果です。


完全側臥位(CQ4)

重度嚥下障害の高齢者で死亡率が低下

重度嚥下障害のある65歳以上の高齢患者において、安全な経口摂取を促進し、対照群と比較して死亡率が低下し、終末期の絶食期間が短縮されたと報告されています。

咽頭機能に左右差がある場合が適応で、低下側を上にした体位とすることが多いとされます。


離床時間(CQ14)

嚥下機能の維持には1日4時間以上

嚥下機能の維持には1日4時間以上の離床時間が必要である可能性が示されました。

また、地域在住高齢者では6時間以上で体幹を含めた筋量維持と嚥下機能の向上傾向がみられたと報告されています。


椅子立ち上がり運動(CQ13)

1日36回以上でFILSが改善

嚥下障害を有する回復期脳卒中患者において、通常のリハビリテーションに加えて1日36回以上の椅子立ち上がり運動を実施した群は、より普通の食事に近づいた患者が多く、嚥下障害が残る患者の割合も低下したと報告されています。


挿管中の姿勢(CQ6)

ベッドアップ30〜45度、循環動態が不安定なら20〜30度

安静時唾液誤嚥の予防には、基本的にベッドアップ30〜45度の半座位が有効で、水平仰臥位は避けるとされています。

ただし血行動態が不安定な患者では、45度の半座位で36%の患者に平均動脈圧65mmHg未満の持続的低下が認められたRCTがあり、20〜30度が選択肢となる根拠として示されています。


効果が確認できていない領域も明示

本書の特徴は、効果が確認できていない領域も明示している点にあります。

体幹機能への介入(CQ11)

単独介入で嚥下機能が改善した報告はない

体幹機能・アライメントに対する理学療法の単独介入によって嚥下機能の改善を示した報告は、現時点で確認されていないと明記されました。

間接的・補助的介入として寄与する可能性は示唆されるものの、研究は症例報告や小規模研究が中心で、エビデンスは限定的とされています。


咳嗽力トレーニング(CQ3)

咳嗽には有効だが嚥下への効果は限定的

咳嗽機能の改善には有効である一方、嚥下機能への効果は限定的とされました。

咳嗽時最大呼気流量の改善は複数の研究で示されていますが、嚥下機能指標の改善を認めなかった報告もあります。


全身機能への介入(CQ13)

立ち上がりと歩行以外は研究が乏しい

椅子立ち上がり運動と歩行練習には報告があるものの、それ以外の全身運動単独の介入研究は限られている、とされています。


座位耐久性(CQ12)

嚥下機能との関連を調べた研究が見当たらない

座位耐久性と嚥下機能の関連を調べた研究は見当たらなかった、と率直に記されています。


わかっていることと、わかっていないことを整理した資料

本資料は、ガイドラインではなくコンセンサスブックとして位置付けられており、エビデンスレベルを付けず、効果が確認できていない領域を列挙しています。

嚥下理学療法という領域が、まだエビデンス構築の途上にあることを前提に読む資料ともいえます。

明日の臨床に活用できる、姿勢調整の角度や離床時間、立ち上がり回数といった具体的な数値が記載された「嚥下理学療法コンセンサスブック」は、日本栄養・嚥下理学療法学会ホームページより閲覧可能です。


引用・参考
◼️ 嚥下理学療法コンセンサスブック公開論文のお知らせ(2026年9月)(日本栄養・嚥下理学療法学会)

関連タグ
嚥下 栄養
PT-OT-ST.NET:LINE公式アカウント「最新ニュースをLINEでお届け」友達追加
もっと見る 省略する

情報提供

ページ上部へ戻る