PT-OT-ST.NETでは、AI活用調査アンケートをもとに、リハビリテーション現場の生成AI利用率が1年で36%から86%へ大きく上昇したことをレポート記事でお伝えしました。
今回分析して最も印象的だったのは、AI活用の具体例において、「個人利用」と「組織利用」の二層で使用レベルに差が生まれていた点です。
利用率86%という数字だけにとどまらず、「個人利用」と「組織利用」で実際にどのように利用されているのかついて触れていきたいと思います。
また調査の結果、AI活用について「今もっとも知りたいこと」を尋ねる設問では、利用者・非利用者を問わず「他の施設・現場ではどう活用しているのか」という声が目立ちました。
「導入が進んでいる病院での実例(が知りたい)」
「活用事例をもっと集めたい。自分の知らない方法がもっとあるはず」
本記事は、上記のような声をもとに、まだ使っていない方の声、個人の判断で使っている方の活用例、組織として導入した職場の活用例と課題を整理しました。併せて、それらの事実から何が読み取れるのか、考察します。
■ 回答者の属性
今回の回答者(105名)の内訳は、平均年齢45.0歳(40代が最多)であり、役職は管理職(科長・部長以上)が43名(41%)を占め、中間職を合わせると役職者が全体の4分の3でした。
勤務先は総合病院から介護・在宅領域まで幅広く、部門規模も数名から51名以上の事業所まで幅広く分布しました。
■ AIを利用していない15名の声
「AIを業務で利用していない」と回答した15名について、最も多かった理由は「職場にルールがない」(8件)、次いで「職場で禁止・利用困難」(6件)でした。
一方で、業務でAI非利用の15名のうち、全員が今後の利用に前向きな回答でした(ぜひ使ってみたい(9名)、やや使ってみたい(6名))。
AI非利用者が「使えそう」と考える使える条件としては、「安全に使える環境」「職場ルールの整備」(各10件)が最多で、「活用事例の共有」「マニュアル・ガイド」「使い方の研修」(各9件)が続きました。
本アンケートでAI非利用者であった方々は「使いたくない人」というよりも、安全な使い方と職場のルール整備を期待している、また条件が揃えば動き出せる「準備中の人」とも捉えることもできそうです。
■ 個人の判断で使う55名 ― 活用例と現在地
利用者90名のうち55名は、「個人判断で使っている(49名)」または「暗黙的に容認されている(6名)」環境でAIを利用していました。
活用の中心は資料作成・情報収集・アイデア出し・教育など、個人情報に触れにくい業務で利用している様子が伺えました。
AI利用者が「導入したが不十分に感じた点」には、次のような意見が挙がりました。
「各個人が自主的に使用している状況。AIの変化に職場のルールが追い付いていない」
「個人的に使用しているため、費用が個人持ちになってしまう」
「日々のリハビリテーション記録には活用できていない(個人情報の扱いがシビア)」
そして「今もっとも知りたいこと」としては、「職場で公式に導入する方法」「社内ルールの決め方」「他施設の活用事例」といった回答が挙がりました。
個人利用から組織導入への移行の糸口を探す声が、多く見られました。
■ 組織として導入した32名 ― 活用例と課題
利用者90名のうち32名は、「組織として導入・運用されている(11名)」「部署で一部推奨されている(9名)」「ルールや注意事項がある(12名)」という、組織として導入された環境での利用でした。
これらの方は、サマリー・カルテの自動生成、議事録・文字起こし、システム連携など、患者情報や日常業務に近いAI活用の事例が示されました。
組織の導入事例の中でも、とりわけ目を引くのが、個人情報の利活用や電子カルテなどとのシステム連携を伴うAI活用です。
カルテからのサマリー自動生成、レセプト書類の自動生成、報告書のシステム連携による半自動化、インシデントレポートの集計・傾向分析など、個人利用では実行しにくい活用事例が挙げられました。
もっとも、ツールを導入すればすべてが解決するわけではありません。
組織として業務にAI活用を始めた方々が「導入したが不十分に感じた点」には、次のような声が寄せられています。
「同様のプロンプトでも出力が不安定で、大きく修正が必要なことがある」
「適切な使用方法の指導が難しく、検索Botになっている場面が多い」
「そもそもITにネガティブな印象を持っている職員は使わない意向がある」
こうした課題意識は、「今もっとも知りたいこと」にも表れていました。
組織としてのAI利用者からは、「職員全員が使えるまでの期間や作業」「継続的に使用するシステムづくり」「(AIモデルの)推論能力の低下への対策」といった回答が挙がっており、関心はツールの選定よりも、運用・教育・定着の段階へ移っている様子がうかがえます。
■ 効果は「時短」だけではない
効果・メリットに関する自由記述38件では、「時間短縮・効率化」が23件で最多でした。
一方で、「品質・判断の向上(16件)」「知識・経験差の圧縮(9件)」「壁打ち・視点の拡張(6件)」と、時短以外にもメリットが得られています。
■ リハ職の現場でAIに期待すること
AIに期待することへの回答49件(利用者43件・非利用者6件)では、最多は「書類・記録作成の効率化(22件)」で、次いで「省力化によって患者と関わる時間をつくりたい(18件)」でした。
AIは単に作業を速くする道具ではなく、書類に費やす時間を減らし、患者さんと向き合う時間を取り戻す手段としても期待されていることがうかがえます。
■ 見えてきた違い① 活用の深さ
活用例をカテゴリー分類すると、個人利用と組織利用で用途での違いが見えてきました。
個人利用に多いのは「資料・スライド作成」「教育・壁打ち・アイデア出し」で、いずれも個人情報に触れにくい業務でした。
対して組織的な利用で多かったのは「書類・記録の自動生成」でした。
今回、書類・記録の自動生成、システム開発・連携、議事録・文字起こしの3カテゴリーを「踏み込んだ活用」として整理してみました。
その「踏み込んだ活用」に該当した回答は16件で、その内訳は組織利用13件・個人利用2件・その他1件でした。「踏み込んだ活用」のほとんどが、組織的な利用者に集まっていました。
この差は選択式の設問にも表れており(個人利用, n = 55/組織利用, n = 32)、時短効果をどの程度感じているかの設問では、個人判断層の24%が「ほとんど変わらない」と答えた一方、組織利用では0名でした(図8)。
組織利用を行う際には、導入効果を発揮できるようマニュアルや研修指導などが案内されていることも想像できます。
留意すべき点として、もともとAI活用に積極的な職場が組織での導入に至った可能性も考えられます。
ただ、活用領域の偏りと効果実感の差が同じ層に重なっている点からは、活用の深さを左右しているのが個人の熱意や工夫よりも、患者情報を扱える環境が整っているかどうかにある可能性がうかがえます。
■ 見えてきた違い② 導入後の課題
組織的に導入した方々にも、課題は残っていました。
「導入したが不十分に感じた点」をカテゴリー分類すると、最多は「正確性・出力の安定性(9件)」、次いで「セキュリティ・導入制約(6件)」「スキル・プロンプト習熟(6件)」でした。
とくに「スキル・プロンプト習熟」には、AIを使いこなす前段階でつまずく具体的な声が寄せられました。
「適切な使用方法の指導が難しく、検索Botになっている場面が多い」
「使い手の技量で(記録作成に)差がある」
導入は入口にすぎず、その先に「どう使いこなすか」「どう定着させるか」という課題が控えていることが、数字と記述の両面から読み取れます。
■ 見えてきた違い③ 規模より大切だったもの
本アンケートでは、部門10名以下の小規模クリニックから、カルテ・レセプトの自動生成やアプリ自作といった、踏み込んだAI活用事例が示されました。
一方で、中規模(11〜30名)では書類・記録の自動生成の回答がありませんでした。導入後の高度な使用に関しては、単純に組織規模の大きさで決まっているわけではない可能性が考えられます。
部門規模別に利用環境を見ると、組織利用の割合は大規模施設(31名〜)は46%、中規模(11〜30名)は22%、小規模(〜10名)は19%でした。
従事者の多い施設ほど組織的にAI導入している傾向はあるものの、大規模施設でも、半数以上は「組織として導入・整備」には至っていない現状がわかります。
小規模施設では意思決定者と現場が近く、方針が浸透しやすい。大規模施設では導入に向けて体制整備する体力がある。
そのような背景が、導入の意思決定とその後の進め方に影響を及ぼしているかもしれません。
■ 「個人の工夫」から「組織の仕組み」へ
自由記述回答から得られた要点は、次のとおりです。
1. AI非利用者15名は全員がAIの利用に前向きで、「安全に使える環境」「職場ルールの整備」を条件に挙げた
2. 個人利用(55名)は、AI活用は個人情報に触れにくい業務が中心で、安全に利用できる範囲での活用に留まっていた
3. 組織でAI導入・活用(32名)は、個人情報の利活用や電子カルテ等とのシステム連携を伴うAI利用がされており、利用頻度・時短・満足度のいずれも個人利用を上回った
4. ただし組織的にAI導入している方々でも、正確性・出力の安定性やスキルの習熟といった課題が残る
5. 部門規模とAI導入の環境は完全には一致せず、小規模施設からも踏み込んだAI活用の事例も示された
利用率86%という数字の内実は、決して一様ではなく、活用は「個人の工夫」と「組織の仕組み」の二軸に大きく分けて考えることの重要性も見えてきました。
■ おわりに ― 次の一歩をどう踏み出すか
利用率36%から86%という数字の伸びは、この1年でAIが「試すもの」から「日常の道具」へと変わったことを示しています。ただし今回の調査が浮き彫りにしたのは、その内実が一様ではないという実態でした。
個人の判断で使う55名は、資料作成やアイデア出しといった安全な範囲にとどまり、組織として導入した32名は、カルテ連携や記録の自動生成といった一歩踏み込んだ領域に着手していました。
この差を分けていたのは、個人の熱意や工夫以上に、患者情報を安心して扱える環境が整っているかどうかだったといえそうです。
冒頭で触れたとおり、今回のアンケートでは利用者・非利用者を問わず「他施設の活用事例を知りたい」という声が数多く寄せられました。ツールの選び方以上に、すでに動き出した現場の工夫や失敗から学びたいというニーズが強く表れていたと見受けられます。
PT-OT-ST.NETでは、今後もこうした現場の声を継続的に聴き、皆さまへ還元できるよう、リハビリテーション領域におけるAI活用の「次の一歩」を考えるための情報を届けていきたいと思います。
引用・参考
■ 【調査レポート】リハ現場の生成AI利用率が大きく上昇 「試す」から「日常利用」へ ─ 2026年リハ職AI活用アンケート(PT-OT-ST.NET)
■ 【Webアンケート】AI×リハビリ活用実態調査2026 昨年からどう変わった?(PT-OT-ST.NET)
■ 生成AI×リハビリ現場 ― 36%が既に使い始めた“業務効率化”のAI活用事例(PT-OT-ST.NET)
■ 【調査レポート】AI活用は約4割、未利用者は関心高くも「きっかけがない」ーリハ職AI活用アンケート(PT-OT-ST.NET)