日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本循環器学会、日本緩和医療学会の4学会は、「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」を2026年9月に公表しました。
2014年の「3学会からの提言」を12年ぶりに改訂された同ガイドラインは、本編、緩和ケア別編、Q&A集(Q1〜77)、解説で構成されています。
診療ガイドラインではなく、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」と同様の、臨床倫理・意思決定支援のガイドラインとして位置づけられています。
ガイドラインには、終了を検討する対象として身体拘束が含まれており、障がいとQOLの評価についても記述があります。救急・ICUで早期離床に関わるリハビリテーション専門職にとっても、重要な内容となっています。
「終末期」の定義は設けない
本ガイドラインでは、終末期の定義は設けられていません。学会ごとに使われ方が異なり幅の広い概念であるため、定義を避けたと説明されています。
旧ガイドラインの問題点として挙げられているのが、「救命の見込みがない時期」という定義の限定性です。旧Q&Aでは「近いうち」が2〜3日程度とされていた点も、短すぎたと振り返りが記載されています。結果として対象が狭くなり、本来検討すべき場面が検討されない構造があったという整理です。
本ガイドラインの対象は急性期病院で治療方針の決定に直面する患者であり、疾患を問わず、終末期にも限定されません。
用語の見直し|カルテ記載・申し送りに直結する5点
今改訂で、用語の見直しも実施されました。
いずれもカルテやカンファレンスなどで使用される用語です。「治療は終了したが、ケアは続く」という区別を言葉の上で担保する意図が読み取れます。
TLTで「やめられないから始めない」を避ける
ガイドラインでは、TLT(time-limited trial:期限付きの特定の治療の試行)についても記載されています。目標と再評価の時点をあらかじめ明確にして治療を試み、目標を達成できない場合に終了を検討する枠組みで、自動延長しないことが条件とされています。
背景にあるのが、「一度始めたら終了は困難」という心理的障壁が、必要な初期治療をためらわせるという懸念です。一度始めた治療でもやめられることを明記し、入口での躊躇を減らす狙いがあります。
あわせて、差し控えと終了は倫理的に同等であることも示されました。「終了は危険」「見捨てることになる」といった誤解を取り除くことが求められています。
緩和ケアは搬送・入室の時点から導入する
緩和ケア別編では、開始時期について明確な基準はないとしながらも、救急搬送や集中治療室への緊急入室の時点で早期に導入すべきとされています。
生命維持治療を終了する前に緩和ケアが整っている状態をつくることも求められました。
評価は身体面だけにとどめない
包括的アセスメントとして、精神的・社会的苦痛やスピリチュアルペインも評価するとされ、患者が自己評価できる場合はESAS-r-JやIPOS患者評価用、困難な場合はIPOSスタッフ評価用を用いるとされています。
ゴールは「治療か緩和か」の二択にしない
患者の価値観を反映したゴールを話し合う点について記載されました。ACPや事前指示書は重要な参考情報として扱い、その背景にある価値観も確認するとされました。
終了を検討する対象に「身体拘束」が含まれる
緩和ケア別編では、終了する治療・医療行為が具体的に列挙されています。そのなかに、透析、経管栄養、昇圧薬、抗菌薬、輸血、筋弛緩薬と並んで身体拘束が挙げられています。
終了を検討するものとしては、機械的循環補助、ペースメーカー・ICD、中心静脈ライン、動脈ライン、モニター、輸液、頻回の採血、X線・CTなどが示されました。
面会についても、ルールは患者・家族の希望に応じて柔軟に設定することが家族ケアにつながるとされ、好きな衣服や音楽の持ち込み、ビデオ通話、家族による清拭、手形などが具体例として挙げられています。
障がいや機器の使用からQOLを推定しない
Q&A集では、障がいや医療的ケアのみを理由として終了・差し控えを検討することはないと明記されました。さらに、障害の程度や機器の使用状況からQOLを推定すべきでないとも述べられています。
年齢や障がいなどのみで生の価値を低く評価することは趣旨に反する、社会的負担や資源を理由とした終了は正当化されない、といった記述も並びます。
旧優生保護法の問題にも触れられ、障がいを理由に一律に判断することは認めないという立場が示されました。
形式的な多職種検討は否定、医療者自身へのケアも独立項目に
Q&A集では形式的な多職種検討を否定し、各職種が対等に意見を述べられる環境を前提とすることが求められています。検討過程の診療録記載も要件とされました。
あわせて、医療従事者自身へのケアが独立した項目として設けられています。モラルディストレス、共感疲労、PTSD、バーンアウトが影響として挙げられ、組織的支援として適切な人員配置、デブリーフィング、定期的なスクリーニング、外部チームとの連携が示されました。評価尺度もMMD-HP、ProQOL-JN、BAT-Jなど複数が紹介されています。
救急・ICUで早期離床に関わり、身体拘束の判断に加わる医療専門職として、自身のケアについて振り返り考える資料ともいえます。
引用・参考
◼️ 救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン
ー 本編
ー 説明文
ー 緩和ケア別編
ー Q&A集
◼️ 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(厚生労働省)